第8話 始まるアオハル?
「……良ければ、湊、今日は僕も暇だし……良ければ、一緒に例の狩猟ゲームを一緒にやらないか?丁度、今日は家で遊べるしね」
詩が珍しく俺を誘ってくる。
しかし、
「悪いんだけど、今日は行けないわ」
俺がそう返すと少しだけ詩が目を瞑り、暫くすると上を向いてからこちらを見る。
恐らく帰宅部で毎日暇をしている俺が何故自分の誘いを断ったのかを考えていたのだろう。
その答えに詩はこちらを見た後に恐る恐るという風に口を開ける
「さては、君、彼女が出来たのかい」
詩の声は若干震えていたような気がする。もしかしたら、自分よりも先に友人に恋人が出来たことに怒りを覚えているのだろうか?
いや、そういうわけではないか……詩はそんな奴じゃないしな。元々、ちょっと周りと違う雰囲気があったし、俺では推し量れない何か崇高な思考があるのかもしれない。
……いや、普通に俺に恋人が出来たことに驚きを隠せないだけか……
ま、実際の所はただの委員会だけどな。
「あ~、一応いっておくと普通に委員会があるだけだからな」
そう、委員決めからもう一週間近くが経過しており、図書委員も役割決めを行うために第一回図書委員会を開くそうだ。
当然いかな理由があろうと図書委員になった以上、それを個人的な理由で休むわけにはいかない。
だからこそ、俺は今日詩の誘いを断らざる負えなかったのだ。
俺の話を聞いたことで詩も合点がいったらしく
「ああ、成程、そういう事情だったか……僕としたことがどうやら早合点していたらしい」
そう言いながら、詩は何度も頷いていた。
「ま、今日は無理だけど、また今度誘ってくれないか?俺も詩と遊びたいしさ。何だったら今度暇なとき家来るか?部屋はちょっと散らかってるけどな」
「ああ、もちろん、もちろんだとも‼ぜひ、次こそ一緒に遊ぼう」
意外にも少し嬉しそうにしながら詩は俺の誘いを了承してくれた。
いや、さっきの衝撃からまだ完全に戻ってなくてそれで少し声量が大きくなっただけか。
……でも、もし、あいつが少しでも俺のことを大切な友達と思ってくれているなら、少し嬉しいな。
俺と詩が話していると俺と同じ図書委員の佐藤さんが申し訳なさそうに話してかけてきた。
「あの~、すいません。そろそろ図書委員に行きませんか?」
その声に俺は時計を見る。時刻は既に四時を回っていた。
確か図書委員は四時十五分からだったか、確かにそろそろ行った方がいいな。
それにしても、まさか佐藤さんがわざわざ待っていてくれていたとは……それとも迎えに来てくれたのか?
どちらにしてもありがたいことだ。
「ありがとう。佐藤さん。」
「いえ、それよりもすいません。私のせいで折角群青さんと同じ委員会になれたのに」
佐藤さんが申し訳なさそうに謝ってくる。
しかし、それはお門違いだ。
「いや、そんなことないよ。あの状況あの空気じゃ、誰だって断れないよ。」
俺が申し訳なさそうにする佐藤さんをフォローすると佐藤さんがホッと安堵の息を吐く
「そう言ってもらえて本当に良かったです。では改めて、お互い図書委員として頑張りましょうね」
佐藤さんがそう言って手を出してきたため、
「こちらこそ、よろしくね。佐藤さん」
俺はそう言って佐藤さんの手を握り返した。
俺と佐藤さんが自己紹介を済ませていると、詩はいつの間にか俺たちの前から消えており、ラインで【お邪魔虫はここで退散するよ】とだけメッセージを送ってきた。
俺はそれを確認すると佐藤さんと図書室に向かう。
その道中、何も話さないのもあれなので俺は佐藤さんに話題を振る。
「そう言えば、図書委員って何やるの?佐藤さんも気づいてると思うけど俺、群青さん目当てで入ったからこの委員会が何やるとこなのか、よくわからないんだよね」
改めて言うと恥ずかしいな。佐藤さんは多分、去年とかは普通に図書委員になりたくて入っているだろうし、こういう不純な理由で図書委員に入る人のことをどう思うのだろうか?
いや、でもさっきの会話的にそこまで軽蔑されてる感はなかったな。それどころかあっちの方が申し訳なさそうにしてたし……
「そう言えばそうでしたね。とはいえ、うちの図書委員はそれほどやることはないですよ?専属司書の成田さんと高野さん、それと図書委員の顧問の夢長先生もいますし、生徒がやる仕事は基本的に書架とカウンター、ブッカーとかラベル貼りくらいかな?あっ、でもブッカーとラベル貼りに関しては司書さんと一緒にやるのであくまでもお手伝い程度ですね。他にも全員集まって本の点検をやることもありますが頻度は高くないですしね。」
俺は聞きなれない言葉に首を傾げる。
「ブッカーっていうのは何をする仕事なの?後、夢長先生って?」
「ああ、図書室の本って表面にフィルターがついてるじゃないですか、あれを貼る仕事ですね。後、夢長先生は私たちの担任教師ですよ⁉」
「成程、そう言えばそうか。俺たちが当たり前に思ってるものも人の手が加わってるんだよね。」
後、うちの担任の名前って夢長っていうのか……
「そうですよ。ブッカーのお仕事とかすっごく大変ですよ。張らなきゃいけない量も結構あるし、それ全部綺麗に張らなきゃいけませんからね。後、夢長先生の話を流そうとしませんでしたか?」
佐藤さんがジト目で睨みつけてくる。うっ、まあ、確かに担任の名前は忘れないよな普通。
それと、言われるまで気づかなかったけど図書室にある本すべてにフィルターがかかっていることを考えると凄い量だな。しかも、多分かけても剝がれてきちゃうこともあるだろうし……
俺は快く教えてくれた佐藤さんにお礼をいう。
「ありがとう、佐藤さん、もしわからないことがあったときはまた佐藤さんに聞いてもいいかな?」
俺がそういうと佐藤さんは胸を張って
「任せてください。後輩を導くのは先輩の役目ですからね」
俺の言葉に図書委員歴で先輩となる佐藤さんは頼もしく返してくれる。その後は会話が途切れてしまい、しばしお互い無言になってしまった。
しかし、佐藤さんが「あっ」と声を上げたことで俺がそちらに目を向ける
「どうしたの?佐藤さん」
「い、いえ、これはあまり重要な話ではないのですが……」
少し言いよどむ佐藤さんに俺は首を傾げる
「え~と、もし、佐藤さんが俺に言ってもいいことなら是非聞かせて欲しいな、なんて」
無理に聞きたいわけではないが、これから佐藤さんと一緒に図書委員をやっていくため、少しでも彼女のことを知っておきたい。
何より、あまり知らない人との間の静寂というのはこらえるものがある。
「あっ、はい、話すこと自体は全然かまいません。面白い話ではないですが」
正直、静かなのよりは断然いい。何だったら面白さとかはこの際あまり関係なかったりする。
「えっと。図書室では静かにする。っていうことに関しては知ってますよね?」
「えっ、うん。それは知ってるよ」
そいう言う基本的なことなら知ってる。小学校とかでも習うし、現代文の時間にクラス全員で、えっと……夢長先生に連れてきてもらった際にも口を酸っぱくして言われたしね。
あの人があれ程真剣な顔をしているのは後にも先にも図書室の利用方法について説明しているあの時だけだったな……
「はい、それで何ですけど。実はうちの学校だと筆談とか交換ノートは許されているんです」
筆談……喋らないからだろうか?
「それはまた、何で?」
俺がそう聞き返すと、佐藤さんは少し溜めを作り、
「……夢長先生とか司書さんの時代に流行っていたからだそうです。」
……そういう理由なら納得、…………出来ないな。思ってた以上に私的な理由だ。
それと、あの人たちは何歳だ?夢長先生も司書さんたちもあまり上の年齢には見えなかったけどな。むしろ、割と最近の人っていうか二十代くらいだと思ってたんだけど……それとも、交換日記とか筆談が流行っていたのが結構最近だったりするのか?
いや、まあ、それはいいか……
「こう、二人で勉強を教えあいながら相手のノートにそっと自分の想いを記すんだそうです。それで、相手もそれに気づくと自分の思いをそっと記す……いいですよね‼青春ですよね‼」
「う、うん、そうだね、それは良かった。」
俺が返事をすると佐藤さんは我に返ったのか、「ごほん」と咳ばらいをする。
「ま、まあそういう訳でうちの学校では筆談とか交換日記はOKなんです。それで初めは恋人同士がやってたんですけど、最近だと段々男女問わず友達同士とかでもやるようになったりしてるんです。あっ、当然、節度を守ってですよ?図書委員は業務をほっぽり出して筆談とかしちゃいけませんし、他の人の迷惑になるのも駄目です」
佐藤さんが腕をクロスして伝えてくる。
筆談OKの理由を聞いたときは心配になったがそこら辺はしっかりしてるのか。
「そっか、一応聞くけど、それって、えっと、いや……何でもない」
男女の友達同士でもやるのかな~とか聞こうとしたけど、ちょっと恥ずかしい、というか普通に恥ずかしいし、やっぱ聞くのはやめておこう。
「あ、え、っと、一応図書委員とかだと男女、友人同士でもやってたな~、なんて」
その後は「あははは」と誤魔化すように笑っていたけど、女の子に勇気を出させたわけだから、俺が言わないわけにはいかない。
「え、えっと、その、もしよろしければでいいんですが‼俺と交換日記をしてくれませんか‼」
ちょ、ちょっと、だけ、告白っぽくなっちゃったかな。俺は恐る恐る佐藤さんの顔を見る。すると、佐藤さんは顔を真っ赤にしながらも
「え、えっと、こちらこそ、よろしく、お願いします」
その時の、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに笑う佐藤さんに、俺は不覚にもドキッとさせられた。
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