第7話 蒼穹と曇天 1
私の名前は厚佐 曇理。私自身は特別目立つ生徒ではないけれど……
「曇理、おはよ~。今日はクラス替えだね。また一緒のクラスに慣れるかな?」
「葵、おはよう。クラス替えか……一緒のクラスに慣れればいいんだけど」
「えへへ、ねっ、同じクラスだと言いな~」
先ほど、私自身は特別目立つ生徒じゃないって言ったけど、私には私と違ってとても目立つ友人がいる。
それが群青 葵。一応小学校からの付き合いで俗に言う幼馴染というやつだ。
「そういえばさ、曇理はこの春休み何やってたの?」
「何って……春休みもほとんど一緒にいたでしょう?」
「違くて、私と遊んでないときは何やってたのかな~ってこと」
「そういうこと、それなら二年生の授業の予習とかかな?」
「おお、流石は優等生の曇理だね‼」
悪意なく純粋に葵は私を褒めてくれているけど、私が勉強を頑張っているのは何でもできる葵の友達でいる上で少しでも相応しくありたいと思っているからだ。
とはいえ、今でこそ葵のことを大事な友人だと思っている私だけど、実は小学校の高学年になるまでは私と葵はそこまで仲が良くなかった。
まあ、その理由は何でもできる葵に私が嫉妬していたからなんだけど……でも、葵は同じような理由で仲がいい友達というのが少ない。
葵のことを本当の意味で悪く思う人はあまりいない。私自身、小学生の高学年以前も別に葵のことを嫌っていたわけではない。
必要なら話すし、挨拶をされたら挨拶を返していた。
だけど、葵は何でも出来たから、正直みんな取っつきにくかったのは確かだ。
それでも私は今、葵と仲良くしている。
それには当然きっかけがあった。
あれは、葵が当時のクラスのガキ大将の男の子に告白された時のことだ。
私はたまたまその場を通りがかっただけなんだけど、葵が男の子からの告白を断っているのを目撃した。
それで断られた男の子も初めは何でと詰め寄るだけだったんだけど、それに怯えて泣き出した葵を見て、男の子が激高して胸倉を掴み問い詰め始めた。今考えればだけど、多分葵が泣き出しちゃったから男の子の方も混乱していたのかもしれない。
まあ、そんなことをすれば葵が余計に泣いちゃうのは自明の理で更に場は混沌としていった。その状況に男の子が葵に手を出そうと拳を振りかぶる。
私は男の子を止めようと飛び出して
逆に男の子をぶっ飛ばした。
この話はうちの小学校だと結構話題になったし、男の子の親とうちの親と、葵の親が呼び出されることになったのだが、私のことを葵が庇ってくれたことで私は特にお咎めなしとなった。
その事件の後から葵が積極的に話しかけてくるようになって、いつの間にか私も葵を友達として見るようになった。
意外にもこれが私の人生の転機となり、私は多くの物事に力を入れるようになる。例えば、葵に相応しい人間になろうと勉強を頑張ったり、それまでも父親が武術をやってた影響で私も習ってたんだけど、より一層武術に対して真摯に向き合うようになった。
特にそれまではやってなかったジークンドーとかを始めたのも葵と友達になってからだ。
というのも、葵は意外にも頑固なところがあって自分が正しいと思ったことはどんな時でも口に出して主張する。
それが原因で周りによく思われないこともあった。
実際、いじめに発展しかけたこともあって、その時はカメラ片手に私が止めに入った。
また、葵を狙って実力行使で来たときは私が逆に力でねじ伏せたりすることも珍しくなかった。
今考えると私もかなり波乱な小学校兼中学校生活を送っていたものだ。
特に中学校だと頭のねじが外れている奴はナイフや金属バットを持ってくることもあって、それが原因で中学校からの私は制服の中に防刃パーカーと防刃手袋を常に着用して登校していた。
カメラの時と防刃パーカーの時は当然先生に怒られたけど理由を力説したら特別に許してくれた。
理解ある先生で本当に良かった。
もしかしたら私の圧が強すぎて……とか思わなくもないけど結果オーライだし、そこまで重要な話でもないだろう。
それと、たまたま動画であった金属バットのあしらい方と武装解除術を知った時は目から鱗だった。
あれ以降、それまでと比べて格段に戦いやすくなった。
とはいえ、武装解除術の方はそう簡単じゃなくて初めはそこまで上手くいかなかった。
それでも練習する機会は結構あって回数を重ねていくうちに私の武装解除術も上達していった。
今では高校生の武装解除術の大会とかあれば結構いいところまで行けるんじゃないかって密かに思ってる。
そして、いつの間にか影で私は色彩中学の裏番と呼ばれるようになった。
一応言っておくと葵と仲良くなった初めの事件以外は葵が見てない所ですべて処理しておいた。
防刃パーカーの件も葵には『最近やたらと寒くて』と誤魔化していたし。
ただ葵はそれ以降私を心配してか、のど飴をくれたりそれまでよりも一緒にいる時間が長くなったりもした。
葵の気持ちは嬉しかったんだけど、当時の私はもしもまた葵にちょっかいをかけてくる奴がでたらどうやって処理しようかと頭を悩ませていた。
だけど、私の予想とは裏腹に私が既に学校で恐れられていることもあって絡んでくる生徒はめっきり見なくなった。
ただ、学校内で厚佐 雲理の皮膚には刃物が通らないという根も葉もない噂が流れていたらしいけど。
そんな感じに私が昔のことを思い出していたら、隣にいた葵が話しかけてきた。
「やったー‼曇理ちゃん、雲理ちゃん。今年もおんなじクラスだよ。」
「え?ええ、本当ね。取り合えず今年もよろしくね」
「うん‼」
今年も無事に私と曇理は同じクラスになった。
その後は私にとって大した出来事もなく、うちの学校には珍しいちょっと素行の悪い男子生徒が葵に話しかけてきたから私が間に入ったり(何故か葵が仲裁してたけど)、遅刻した佐藤さんと葵が委員会を変わったりしてた。
あっ、そう言えば頑張って葵と同じ委員会になった男の子がすっごく落ち込んでてちょっと可哀そうだったな……
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