第6話 春のうたたね 3

 僕の名前は吉田 詩。今、委員決めを行っているけど、僕の予想通り群青さんと仲良くなるために同じ委員になろうとしている人は結構な数いた。


 大体十人くらいかな?まあ、友好関係が広い群青さんと仲がいいっていう男子も一定数いるらしいし、そういう生徒は今回の委員決めには参加してないみたいだ。


 他にもただ単に群青さんに対してそこまでの興味をもってない生徒も少数だけどいるだろうね。

 

 とは言え、接点のない生徒は大体僕の友人である湊君みたいにこの機に仲良くなってやる‼っていう生徒が殆どなんじゃないかな?

 

 そんなこんなで委員決めは群青さんが立候補した図書委員の男子生徒枠をかけてのじゃんけんになった。

 

 なったんだけど、僕が思ってた以上にみんな熱が入っているみたいで一つ一つのリアクションが凄く激しい。


 もちろんそれは湊君も例外じゃないみたいでじゃんけんが終わった後は鈴木君っていう生徒と謎の友情みたいなのが芽生えていた。

 

 もしかして、僕もあの場に行けばもっと友達とかできたのかな?


 なんて思ったけど、彼らがあんなにも真剣にじゃんけんに取り組めるのは群青さんへの好意があるからで僕なんかが行っても場違いな空気に疲れるだけだと思いなおした。


 ともかく、なんやかんやあったみたいだけど湊君はなんと十人のライバルたちを倒し群青さんと同じ図書委員の座をゲットしてきた。


 こんな時、友人として何か言った方がいいのかな?おめでとうとか。でもどんな感じに切り出すのがいいんだろう?


 普通におめでとうから切り出していいのかな。それとも、『じゃんけんに勝てておめでとう』、とか?いや、そもそもじゃんけんに勝つ理由が群青さんと同じ委員会に入りたかったってことなんだから『群青さんと同じ委員になれておめでとう』、とか?でも何だかそれだと少し嫌味ったらしいかな。


 なら普通に『図書委員おめでとう』で行くか。

 

 僕が湊君にかける言葉を選んでいたら、隣の席の椅子が引かれる音がして無意識にそちらに目を向ける。


 すると、いつの間にか帰ってきていた湊君と目が合った。


 ……な、なにか言わないと……


「やあ、ずいぶんと楽しそうだったね。」


 本来なら『図書委員おめでとう』っていうはずだったのに、咄嗟だったからいつもののりでミステリアスなキャラクターが言いそうなこと言っちゃった。


 しかも、どうなんだ。『ずいぶんと楽しそうだったね』って嫌味ったらしくはないような気がするけど……


「ああ、今日の俺には運命の女神がついているような気がする」


 おお、そこまで悪い印象は与えてないみたいだ。


 僕がほっと胸をなでおろしていると湊君が話しかけてきた。


「そういえば詩は何かやりたい委員会とかはあるのか?」


「僕?僕は特にないかな……やらなくてよさそうならやらないよ」

 

 湊君に言った通り僕は特にやりたい委員会はないから出来ればやらない方向でいこうと思っている。ただ、この回答だと会話が続かない。だから僕はここで今まで温めていた話題を出す。


「そう言えば湊は狩猟ゲームの方はどこまで進んでるの?」


 そう、この日のために僕は狩猟ゲームを始めたのだ。実際にやってみると面白くて普通にハマってたけど。


「うんっ?いきなりだな。まあ、上位のクエストは解禁されたくらいかな?FPSもやってたしな」


 えっ?FPSもやってるのにそんなに進んでるの?僕なんてまだ下位でうろうろしてるのに……

 

 ま、まあ、これで話題も出来たし、結果オーライだね。

 

 その後は色々アドバイスをもらっていたんだけど、廊下から誰かが走ってくる足音が聞こえ、僕らはそちらに視線を向ける。


 すると、足音は僕らの教室の前で止まりガラッとドアが開けられる。


「すいません。遅刻しました。」


 ドアを開けて中に入ってきたのは女子生徒だった。その子は先生に遅延証明書を渡して事情を話して席に着く。


 その後は何事もなく委員決めが継続されると思ったんだけど……


 ここで群青さんが待ったをかけてきた。


「あの、もしよろしければ。委員決めを最初からやり直しませんか」


 急にそんなこと言うからみんなどうしてそんなこと言うんだろうってなったけど、群青さん曰く事情があって遅れたのに自分のなりたい委員に慣れないのは違うんじゃないの?みたいな感じらしい。


 それに対して先生はお前の意見は分かるけど社会ってそんなもんなんだよって返してた。ニュアンス的にはね。

 

 僕としても群青さんの意見はとても優しいものだと思うけど……


「あ、危なかった」


「でも、あれ、群青さんじゃなかったらクラスからの印象は少なからず悪くなっていただろうね」


 はっきり言って強者の意見、というか行動だ。委員を初めからやり直すとなれば生徒たちはその分長い時間教室に拘束されるわけだからそれをよく思わない人も一定数いるだろう。こういう意見を言うことが出来るのは群青さんがこのクラスのカースト上位にいるからなんじゃないかなと思わなくもない。


 大勢の人に好かれるだけあって人柄も良いと思うけどね。


 ……あっ……ていうか、湊君は群青さんのこと好きなんだからこんなこと言ったらよく思わないかな。僕は恐る恐る湊君の方を確認する。


 すると、湊君も頷き


「まあ、確かに群青さんじゃなかったら少なくない悪印象を与えていただろうな」


 以外にも僕の言葉に同意を示してきた。


 僕が意外に思っていると

 群青さんが新たな提案を持ち掛けてきた。

 

 何でも佐藤さんは前年度図書委員だったから、図書委員の立ち場を自分と変わらないかってことらしい。

 

 それに対して先生はそういう問題じゃないって言おうとしてたけど、クラスの男子達まで盛り上がってしまい結局群青さんが図書委員を変わる流れで話が進んでしまった。

 

 当然、そうなってくるとライバルを倒して図書委員、というか群青さんと同じ委員になった湊君は……



 ……うん、今度ジュースでもおごってあげようかな?

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