第5話 春のうたたね 2
僕の名前は吉田 詩。一年の春休みは結局湊君を誘えずに終わったんだけど、僕は気を取り直した。
やっぱり見るべきなのは過去じゃなくて未来ってやつだよね。
僕は早々に身支度を整えるとゲーム機を取り出しゲームを始める。
今日湊君と会う際に少しでも話題を増やすためだ。ゲームをして学校に遅れるなんてことがないようにあらかじめアラームもつけておく。
すると、身支度中の歌奈が話しかけてきた。
「あれ、お兄ちゃんがゲームなんて珍しいね。どうしたの急に?」
プレイ中の画面に顔を近づけながら歌奈が首を傾げる。
「うん、このゲームって湊君が好きなシリーズらしくて話のタネになればなって」
「成程ね、兄者も健気よのう」
何故か古風な?言い回しをする妹に今度は僕が首を傾げてしまうが、妹もその後はすぐに自分の身支度に戻っていったため、僕は気にせずゲーム機に視線を落とす。
妹からは健気と言われたが、今日は久しぶりの友達との再会なんだから、少しだけいつもより気合が入っても仕方ないだろう。
……そう久しぶりに、
久しぶり……
あれ、そう言えば今日から春休み明けの二年生の一学期なわけだから……クラス替え、じゃないか?
僕は何だかゲームをする気が一気に失せたからリビングのテレビで流れていたニュースをボケっと眺めることにした。
その後、アラームが鳴ったことでいつもの登校時間が来たことを察した僕はカバンをもって家を出る。
出来ればまた湊君と同じクラスになれればいいんだけど……
そう願った僕の思いが届いたのか、僕と湊君は今年も同じクラスになれた。
そして、僕が密かにほっとしていると見慣れた後ろ姿を見つける。
僕の高校生活唯一の友人、湊君だ。
久しぶりにあった友人が話しかけてくるのは別におかしなことではないだろうし、と心の中で確認したあと、僕は彼に近づくと肩を二回叩く、まあ、身長差もあって実際には叩いてるというか触れてるだけのような気がするけど……
すると湊君も肩を叩かれたことに気が付き、後ろを振り返った。
「おお、久しぶり~、今年もよろしくね」
挨拶を成功させられたことに内心でガッツポーズを決めていたら湊君が話しかけてくる
「うん、久しぶり。詩は春休み何やってたの?」
湊君の質問に僕は考え込んでしまう。えっ、だって流石に、君を誘うために頭を巡らせてましたって言ったら引かれるよね?
僕は数秒の思考の後に
「別にたいしたことはやってないよ。強いて言えばゲームかな?それよりも湊こそ何やってたの?彼女とか出来たりしたの?」
「いや、俺もゲームくらいしかしてなかったかな?前からやってたFPSゲームでようやく次のランク行けそうでさ。後、狩猟ゲームの新作とか。結構、色々あったからな。てか詩もゲームやってたんなら一緒にやりたかったな」
まじか……僕と一緒にゲームしたかったの?誘えば良かった……めっちゃ誘えばよかったーー。
いやもしかして今からでも遅くないのでは?
よし誘おう。絶対にここで誘おう。今だけは僕が勇者、僕が主人公だ‼
「確かにね。あの狩猟ゲームなら僕もやってたから一緒にやったらもっと楽しかっただろうね。でも、お互い長期休みに入ると途端に連絡とらなくなるからね難しそうだよね」
駄目だ、日和った。めっちゃ日和った。全然言える気がしない。やっぱり僕は主人公ではなかったのか。いや、そういう問題じゃない。
ま、まあ、学校は始まったばかりだし、焦る必要もないよね。
☆☆☆
湊君と一緒にクラスに入ると見慣れない人だかりが出来ていた。
真ん中にいるのは確か……群青さんだったかな?
学年一の美少女と名高い女の子らしい。
確か湊君も彼女に憧れみたいなものを抱いていたような……
よし、こういう時は友達として少し茶化しておくのが礼儀みたいなところあるよね。
「湊も行かなくていいの?」
ちょっといたずらっ子ぽく口角を挙げてみて、それっぽく言ってみる。どうだろう上手くできてるかな?これで相手は「おい、茶化すなよ‼」みたいになるんだよね。
ラノベで見た気がする。
そんなことを考えていると湊君が口を開く……
「俺は委員会で群青さんとお近づきになるからいいんだ」
あれ、以外にも計画的、ていうか行動的。
でもそっか、湊君は本気なんだね。
なら友人として気づいたことを一つ言っておこう。
「成程ね。まあ、確かにただ話しかけて変な奴とか苦手意識を持たれるよりは得策かもね。でもそれ、結構みんな考えてそうだけど?」
僕が湊君に教室に入ってからの懸念を伝える。だって見るからに委員会にかけてるような人が多いんだもん。
『絶対勝てる、じゃんけん心理学』みたいな本を持ってる人もいれば、いっぱい腕にお守りつけて「今日のために俺は春休みに神社巡りをしたんだ。負けるはずがない」とか言ってる人、めちゃくちゃガタイの良い人が「今までの厳し修行も今日この日のため」とか言ってたりもする。
他にも「今日、今日だけは今日だけは絶対に勝たせてくれ」っていって神様に祈りを捧げている人が一定数いた。
しかし、僕の提示した不確定要素を湊君は不敵に笑ってみせた。
「そうなったら」
何だ?なにか秘策があるのか?
「そうなったら?」
一体どんな答えが返ってくるんだ。
「諦めるしかないだろうな」
……いや、なかったんかい‼あれ別に何か策があったから浮かべてた訳じゃなくて、ただ考えても何も出てこないから浮かべてただけだったのか
その後も
「まあ、見てな。今日の俺はついている。何故ならあの群青さんと同じクラスになったのだから。」
とか言ってたし、恐らく湊君は群青さんと同じクラスになった反動でかなりテンションが上がってるんだろう。
僕も衝動で
「いや、でも、それって。このクラスの人間全員じゃないか?」
とツッコんでしまったけど、もしかしたらあのままスルーしてた方が自己暗示とかで強くなってたりして……
もし、そうなら少し悪いことをしたかな?
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