第3話 急展開と急転換?
過酷な戦いを勝ち抜き、ホクホク顔で席に着くと隣の席の詩が話しかけてくる。
「ずいぶんと嬉しそうだね。」
「ああ、群青さんと同じ委員に入れたしな。今日の俺には運命の女神がついているような気がする」
そう、何だか今日の俺は調子がいい。少し怖くなってしまうくらいに。
それから少しの間二人で話していると、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえた。
そして俺たちの教室で足音は止まり代わりにガラッとドアが開けられる。
「すいません。遅刻しました。」
そう言って入ってきた女子生徒は先生に遅延証明書を出して事情を説明していた。
彼女の声がかなり小さかったため、なんと言っていたのかは聞き取れなかったけど、遅延証明書を渡すくらいだし、普通に電車が遅延したっていう話だろう。
そして、担任の教師は彼女の話を聞き終え、彼女を席に促す。
その後は再度委員決めを行おうとしていたのだが、ここで待ったがかかる。
「あの、もしよろしければ。委員決めを最初からやり直しませんか」
そう言ったのは誰であろう。群青さんだった。
初めはみんなが目を点にしていた。しかし、彼女の友人が我に返ったのか、彼女に何故そのようなことを言うのか問いかける。
それに対し、彼女は
「佐藤さんは遅延で学校に来るのが遅れたのにやりたい委員になれないのはどうなのかなって思ったんです。」
その答えを聞いた担任の教師は鷹揚に頷き、口を開ける
「それが…………社会だ」
そして、それだけ言うと担任の教師はそのまま何事もなかったように委員決めを続ける。
正直、これには俺としてもほっとしたと言わざるおえないだろう。
通常、俺のようなモブ男子が群青さんに近づくことができる機会なんて今回のようなケースを置いて他にない。
そして、今回のようなケースに関しても神が俺の日ごろの行いを見て授けてくれた奇跡と言っても過言ではない。
それが今の群青さんの言葉により少なからず消える可能性があった。俺はそのことに冷や汗をかいていた。
「あ、危なかった」
「でも、あれ、群青さんじゃなかったらクラスからの印象は少なからず悪くなっていただろうね」
俺が小声で呟いた言葉に反応したのか詩が話しかけてくる。
「まあ、確かに群青さんじゃなかったら、表には出さなくても内心よく思わない人ともいただろうな。」
詩の言葉に俺も確かにと思い同意する。群青さんに限らずクラスの人気がある奴と人気がない奴が同じ言動をしたとしてもその際に返ってくる反応が違うというのは往々にしてあることだ。
それこそ、今回の件だって群青さんだったから良かったが他の奴がやれば空気の読めない奴という烙印を押されていてもおかしくなかった。
というか、群青さんをよく思わない奴も一定数いるだろうがその数よりも群青さんをよく思っている人数の方が多いからこそ、群青さんはこのように自分の意見を堂々と言えるのではないだろうか?
ただ、実際の所。群青さんはそれだけの人気がでる理由がある。容姿端麗、成績優秀、なによりこれに加えて性格もめっちゃくちゃいい。
クラスで偶にいる陰キャに話しかけて自分は陰キャにも話しかける優しい人間、なんて思っている(実際に何で話しかけてくるかはしらん)奴らとは違う。何故なら、あいつらはあっちからは話しかける癖にこっちから話しかけてきたら「え、何、なの?この人?怖い。私たちそんなに仲いいわけでもないのに急に話しかけてきたんですけど」みたいな反応をする。
因みにこれは俺の話ではなく、俺の友達の話だから。俺の友達の話だから。
うん、勘違いされたら大変だから二回言ったよ。
まあ、話は戻るが、それに対し群青さんは俺たちみたいな陰キャが話しかけても普通に返してくれる。とってもいい人なのだ。
「そうだ‼」
俺の崇高な思考(傍からみたらただ陰キャが自分の妄想に浸っているだけに見えるかもしれないが)は突然の大声で中断された。
そして、俺が大声の方を向くと群青さんが佐藤さんの手を握り、
「佐藤さんって確か去年ずっと図書委員だよね?もし良かったら私の代わりに図書委員やる?」
その言葉によって教室が凍り付いた。しかし、担任の教師はすぐに我に返り、群青さんに注意すべく口を開く
「あのな群青そういう問題ではなく…」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
そして、クラスの男子達の興奮交じりの雄叫びによって儚くも打ち消された。
…その後は担任の教師も止めようとしてはいたが、結局の所は群青さんとクラスの男子全般に押し切られて、群青さんが最後に残った委員会をやるということで話がまとまっていた。
俺と群青さんのラブストーリーが……
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