第14話 経験

ネイリンは以前と同じようにベッドに座った。ただその姿に緊張はなく、微笑み方も自然だった。裕之は一方的に緊張していた。〝持ってきたあれを出そう〟裕之はバッグから封筒を取り出すと、中から2枚の写真を取り出して彼女に渡した。

2ヶ月前に撮った写真。裕之はデジカメの画像を消すのをためらい、消す前にカメラ屋でその画像を写真にしてもらっていた。


まるで別人のような写真にネイリンは恥ずかしそうに笑ったが、その笑顔は写真のままの彼女だった。


思わず彼女を抱き寄せた。首元に顔を近づけるといい匂いがした。香水なのか髪の毛の香りなのか分からなかった。少し汗ばむ肌が生々しい。漏れる吐息が聞こえた。

課長が帰り際に手渡した日本製のコンドームを取り出すと、彼女は手を横に振った。一瞬の内にいろいろなことが頭を巡ったが、それはすぐに粉々に砕けた。裕之はそのまま快楽の世界に落ちていった。飛行機で会った男の言葉を思い出した。「結婚を迫られることがある。彼女達が一番大切なのは故郷の家族だ。」



仕事は予定していた期間で終えることができた。帰国の日の朝、テレビの映像は非現実な光景を映し出していた。ニューヨークのツインタワーが映ると、そこに飛行機が突っ込んだ。その映像は繰り返し流れた。

空港までの送迎に来た課長は真っ先に言った。「セキュリティーチェック厳しいかもしれません。アメリカでテロがあったみたいですよ。」

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