第6話 不思議な感覚
2週間後、男は再び店に来た。男はオールドパーのボトルをオーダーした。アキナは嬉しかった。ボトルキープは出張期間はこの店に来てくれるという証だ。〝私の餌にかかった〟あとは女の子のお酒をご馳走してもらい、楽しんだ分のお金を払ってもらう。
決して後ろめたさはない。殆どのお客さんが笑顔で帰っていく。アキナの体をさんざん触って。
お客さんに体を触られることに抵抗はない。あの時の経験はそれを嫌がる感覚を麻痺させていた。
夜も11時を過ぎる頃、今日入れたばかりのボトルは半分になっていた。平日にここまで飲むお客さんは珍しい。男は隣に座るアキナの肩に腕を回した。よくあること。しかしこの時、アキナは反射的に左肩を抱く男の手を払った。自分でもその行動が理解できなかった。「すみません。左肩がすごく痛くて。」とっさに思いついた言葉を言った。男は「そうか。ごめんね。」と言うと何事もなかったように氷が溶けて水割りのようになったグラスを空けた。その後男はアキナの体に一切触れなかった。
この後を期待させることでお店に足を運ばせてきた。アキナは思った。〝お客さんを1人逃したかもしれない〟
仕事が終わるとタクシーの中で、男の手を払った理由を考えた。肩を触れられた時の感覚は確かに他のお客さんとは違っていた。嫌なわけではなかった。アキナは思い出したくないあの時の経験が今日のことと関係ないことを確認しておきたかった。〝私はもう立ち直れているはずだ〟アキナは思い出すことを避けてきた記憶の扉を開けた。
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