第5話 不夜城
「今日は残業無しだからな。」朝のミーティング。中国での初出勤後、連日の残業続きの中、チームリーダーが言った。20代の裕之もさすがに疲れていた。疲れた素振りを全く見せない先輩達のタフさに裕之は脱帽した。
工場の終業のチャイムが鳴った。帰宅のマイクロバスを待つ。裕之は数日ぶりに緊張が解けて素の自分に戻れるような気がした。〝今日はたくさん寝よう〟そう思ってた時、移管先の課長の姿が見えた。一緒に夕食をしようということだ。残業無しの理由はこれだった。
夜の街を歩く。人は多く、活気を感じた。洋服屋、薬屋、DVDを売る店、何を売ってるのかわからない店。
茶碗を置いて道端に座る両腕の無い男を横目に通り過ぎた時「着きました。この2階です。」と課長が言った。
歩いてきた街の景色からは想像できないようなモダンな洋食レストラン。〝こんな店もあるのか〟裕之は少しホッとした。なんだかよくわからない肉料理を頼むと、数分後どう見ても犬の顔を形どったような鉄板プレートに乗った料理が裕之の前に運ばれた。「犬の肉は高級ですよ。」移管先の課長が言った。
食事を終えると日本から来たメンバーは課長の後ろをついて歩いた。暫く歩くと派手にライトアップされた大きな建物が見えた。まるで街の灯りと競っているかのようなその建物の最上部には〇〇酒店と書いてある。金色に耀くその建物を前に会社の先輩は「不夜城とはこんなことを言うんだろうな。」と言った。裕之が宿泊しているとことは比べ物にならない大きいホテル。課長は歩みを止めることなくそのホテルに入った。出張のメンバーは顔を見合わせると、課長についてホテルに入った。
まるでフロントが目に入らないかのように奥へ進むと、そこには大きな噴水、派手な照明、バンドの生演奏と、その場を楽しむ大勢の人達の姿があった。歩いてきた街の景色を思い出し、この数十分でこの国の貧富の差を目の当たりにしたようだった。〝これが中国〟
裕之は不夜城というより竜宮城だと思った。更に奥へ進むと番号が書いてある部屋が並ぶ。〝カラオケボックス⁉︎〟
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