第2話 サクヤ
ヒトにはその存在を知られていない猫の国を出て、唯一のヒトとなる主人を見つける為と、ヒトになる為に彷徨っていると、茶色い土を眺めて泣きそうになっている白い子犬を見かけた。
俺よりは図体がデカイくせに、耳と尻尾をぺたりとさげて、途方に暮れている様子がなんとも情けなくて、黙って塀の上からソイツを眺めている事ができなかった。
「そこで、飢え死にする気か?」
その子犬に、そんな風に話しかけていた。
我ながらオヒトヨシだとは思う。
主人を失って、墓であるソコから動けないでいるんだ。
そこでそのまま死なせてあげるのも、一つの選択だったかもしれない。
その子犬、ナオは、主人を大好きなヒトだと呼んだ。
そんなに好きならと、墓守の事を教えてやった。
ナオはキラキラした目で俺を見た。
「またミオに会える?」
と。
ナオは何も知らなかった。
狭い塔の中で過ごしていたから、何も知らなかった。
だから、俺がイチから色々と教えた。
墓守や寿命の事もだが、エサの取り方に水の確保の仕方も教える必要があった。
その中で、“死”について知ったナオは、主人の墓の前で涙を隠しもせずに、わんわん泣いていた。
死とは、その人との永遠の別れ。
もう二度と会えない。
どんなに好きでも、死んだらそこでお終いだ。
全ての関係が断ち切れてしまう。
生まれ変わって会える保証もない。
でも、俺やナオは違う。
猫の国や犬の国から来た俺たちなら、もう一度大好きな主人に会えるかもしれない。
その手段があるんだ。
だから、ナオに言ったんだ。
「頑張って生きろ」
と。
ナオの主人の為に、一度だけ白い花を摘んできてやった。
殺風景な茶色い土の上に、白い花を置いてやる。
花を置いてやる意味も知らなかったナオに、主人が眠る場所が寂しいのは可哀想だと教えてやった。
出来れば、静かで陽当たりの良い、暖かい場所がいいのだと、教えてやった。
ナオは、明日からは毎日自分が花を運ぶと俺に話した。
こいつはもう大丈夫だ。
ちゃんと、自分がやる事を理解した。
ちゃんと、明日からは1匹でも生きていける。
だから、俺はナオに別れを告げた。
俺は旅の途中だ。
俺は、俺の主人を探している。
ナコ。
俺のオヒトヨシは、きっとこいつ譲りだ。
ナコは、何処に行ったのかも、何処に居るのかも、生きているのかも分からない。
主人の墓守ができるナオが羨ましい。
少なくとも、また巡り逢える可能性を自分でつかむ事ができるのだから。
主人に再会すら出来ていない俺は、それすらも望むことはできない。
何処に行ったのか。
何処に連れて行かれたのか。
主人を探し、旅は続く。
再会できるその日を切望して。
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