~羽休め~ わたし、頑張ります!

 私は、鷺ノ宮有栖。ここバケモノ屋敷で、練磨の嫁として同棲している可愛い女の子。

 学校には通っていないけれど、ある程度勉強はできる……よ!


「おーい有栖、学校行ってくるから今日も留守番頼むなー」

「もちろん!」

「くれぐれも変なことするなよ。あと、学校にも顔を出すな」

「もちろん!」

「や、やけに元気そうだな……まあいいや、行ってきます」

「行ってらっしゃーい!」


 普段、練磨は優しい。料理も上手だし、細身なのにああみえて力仕事もできる。そして何より、おこづかいをくれる!


 練磨が今までどう生きて、どう成長してきたのかはわからないけど、あの犯罪者のような鋭い目付きはつんでれ? の現れなんじゃないかな、って私は思っている。


 冷たい言葉を並べながらも、行動は違う。いつも、私のことを気遣っている。流石は私の夫……。


 仕事もしないでただぐーたらごろごろしているだけの私だけど! お金だけもらって楽しんでばかりの私だけど! たま~に学校に顔出して練磨に迷惑かけちゃう私だけど! 


 今日は練磨のために、掃除・洗濯・料理・プレゼントまで、何でもやってあげることにする!


 ……別に、何かしないと追い出されるかもしれないなんて、思った訳じゃないからっ!……嘘、ちょっと思ってるかも。


 じゃあ、とりあえず鏡移動を使って近くのコンビニに……いやいや、コンビニじゃ色々と高い! そう練磨が言ってた!


 それに、練磨のTシャツだけ着ていくのもだめみたい……。あーもう、こんなんじゃなーんにもできないよ! よし、掃除しよう。


「んしょ、んしょ……」


 なにこれ、なんでこんな重い箱があるの?……って、これは私が前に買ったゲーム機だ。練磨と一緒にやりたくてコントローラーを二つ買ったんだけど、結局やれてない……。けど、いつか二人で遊びたいな。


 じゃなくて! 次、二階!……は、やめとこう。

 はい、キッチン!


「あばっ、ひゃうぅんっ」


 床に落ちていたチラシで滑るし、おでこを食器棚にぶつけるし、お皿は頭に落ちてくるし……。あーもう、私って運が悪いのかも?


 とりあえず割れたお皿は端っこに寄せといて、次は……洗濯! とりあえず練磨のパジャマを……すんすん。いやぁ、練磨の香りだねえ。


『変なことするなよ』


 う……なんだか練磨に睨まれているような気がする。いいや、寝室で散らばってる二人の服も、私の下着もぜーんぶ洗濯機にぶっこんじゃえー!


「任務完了であります!」


 誰もいないリビングで敬礼。いや、だーれもいないからこその敬礼。自宅待機を極めるには、一人でも楽しめるだけの気力が必要だよ。


 洗濯中、ちょっと暇だなー……。少し、学校にいる練磨の様子でも覗きに行こうかな。


「れーんまー、まだ学校終わらないのー?」

「出やがったな厄災め」

「はくさい?」


 そういえば、買い物行ってなかった! それに、また練磨のぶかぶかなTシャツ姿で出てきちゃった……でも、まあいっか!


「ねえねえ練磨~」

「やめてくれ。俺にはお前なんか見えていないし関わりたくもない」

「え……昨日私がいつもより密接に関わっちゃったから?」

「変な誤解を生むのはやめろ!」


 そんなに強く拒まなくてもいいのに。いくら私が、練磨の恥ずかしがりな性格を知っていても、少しは傷つくんだもん。


「もー、帰っちゃうからね!」


 学校の窓に飛び込むのも、もう慣れた。最初は少し怖かったけど、ここだって姿が映れば鏡といっしょ。さーて、洗濯はどうなってるかな~?


「あ、あれぇぇぇ?」


 洗濯機の蓋は開いて、水と一緒に服が流れちゃってる! しかも、洗剤のせいで床まであわあわに……。


「あ、あわわわ……」


 なんて、言ってる場合じゃない!

 早くこれをどうにかしなきゃ、何か拭くもの、拭くもの……そう、タオル! えっと、どこの引き出しにあったっけ?


 タオルは見つかったけど、ぽんぽんと色々投げちゃったせいで部屋中散らかっちゃった。

 こうなったら仕方ない。せめて、お詫びのプレゼントを用意しなきゃ……。


 いや、だめ! 練磨は私に冷たすぎたの! だから、ちょっとばかしいたずらして、ぎゃふんと言わせてあげないとねっ。




「ただいま」

「お、おかえりなさ~い」

「……バケモノ屋敷改め、ゴミ屋敷にする気か?」

「ゴメンナサイ」


 練磨のためにやったのにな……でも、結果的にこうなっちゃったんだから、仕方ないよ。さあ、プレゼントを渡そっ!


「なんだこれは」

「実は、それを渡すために必死になって……それで部屋もこんなことに……」

「ほう。俺はお前が働いてくれるのが一番嬉しいんだけどな」

「てへ。まあつべこべ言わずに開けてみてよ」

「…………」


 ふっふっふん。私の用意したびっくり箱は、見事練磨のおでこにクリーンヒット! どっきり? びっくり? だーいせーいこーう!

 ……なんて、思ってたんだけど。


「ぎゃふんっ」


 まさか、反射でチョップが飛んでくるなんて思わなかった……。

 でも、こんなんじゃ私はめげないよっ! いつか練磨に喜んでもらって、本当の嫁として楽しく暮らせるように頑張るんだからっ!

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