第17話 ナユタの決意とお仕置き

◆ナユタ視点


もう少しで奥様からのお手紙が届く。

2時間前から、6度目となる郵便受けの確認を終えたところだ。


5連敗してしまったこと。

ロザリーとミーシャが屋敷に行きたいと言ってたこと。

ミーシャから奥様へのお手紙。


その返答が書かれている日だから

今日のお手紙の中身が気になって仕方ない。


ソワソワする。

気になって、何度もお手紙が届いていないか確認しにいってしまう。



奥様は5連敗したからと言って、僕を見限ることは無い。

その程度の関係では無いと信じている。


信じてはいるけど…

それでも、心のどこかで不安に思ってしまう。


もう学校を辞めて、このまま領地に帰って来なさい。

そう言われるかもしれない。


それなら、正直、まだいい。

1番恐れているのは…


僕に貴族になる素質が無いと判断して、奥様は新しい旦那様を探すかもしれない。

また、奥様の縁談の時のような思いをしないといけなくなる。


それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。


でも、奥様が僕を悠長に待っている時間が無いと判断すれば、僕に入り込む余地は無くなってしまう。


それに、奥様は子爵領の領地や領民を大切にされている。

例え、僕に気持ちを寄せてくれているとしても、気持ちだけで全てを判断できるお立場ではない。


まただ…

いつも!いつも!いつも!いつも!

年齢と身分の壁が立ち塞がる。


クソッ、もう少しだけと言いながら

いつまで奥様に待っててもらえばいい。

いや、いつまで奥様は待っててくださるのか?


奥様は次期領主を産み、育てる時間も必要になる。


僕の年齢が若いからといって時間がある訳では無い。

むしろ、年齢が若い分、行動に制限ができてしまう。

12歳という年齢が…僕の足を引っ張っている。



ダメだ…悪い方にばかり考えてしまう。

自分が不甲斐なくてイライラしてしまう。


神様でも、悪魔でも、誰でもいい。

何でもしますから、奥様と結ばれる方法を教えて下さい。



「はぁぁぁぁぁ。」


7度目の郵便受けの確認をする。

まだ奥様からのお手紙は届いていない。


昨日のお手紙には3連敗したことについては

「誰にでも躓く時はある。次に生かせばいい」

そう、書いて下さっていた。


きっと大丈夫。

奥様はまだ待っていて下さる。


僕の心配を他所にミーシャは絶対に断られる事はないと確信していて

今日はロザリーと奥様へのお土産と準備の為の買い物に行くと言っていた。

その自信はどこから来るんだろう?


奥様からのお手紙の報告を兼ねて、この後、19時に3人でご飯を食べる約束をしている。


コトッ


音が聞こえた!

お手紙が届いたかもしれない。


奥様からのお手紙だ。


開けるのが怖い。

震える手で封を開ける。



「ナユタへ


あなたが1番苦しい時に

近くに居てあげられない自分を呪ってしまう。


ごめんね。ごめんね。ナユタ。」


奥様…

心配をお掛けして、申し訳ありません。


「もし、あなたが苦しくて辛いなら、無理に特進クラスにいる必要も無いと思っているの。


貴族、貴族と追い込まれて、嫌な思いをさせて、本当にごめんなさい。

私はあなたには伸び伸びと育って欲しいと願っているもの。

貴族には他の道でもなれるかもしれない。」


「おぐざま…」

奥様の優しさに、自分の不甲斐なさに、

僕は涙が止まらなくなった。



「それにね。最近は無理に貴族にならなくても

私が貴族という身分を捨てて平民になって、穏やかにナユタと暮らす未来もいいなって思うようになったわ。

ふふふ、その代わり、最後まで私と添い遂げてもらうから覚悟しといてね。」


「おぐざま…ありがどう…ヒック…ございまず。」

奥様の気持ちが嬉しくて…。嬉しくて…。



「だから、ナユタの思うようにやりなさい。

5連敗なんて小さな事で、思い悩まないでね。


ナユタの事を思って

声を掛けてくれたミーシャとロザリーの2人にはきちんとお礼を言うのよ?

私からも感謝していると伝えておいて。


特にミーシャには

私も会える日を楽しみにしていると伝えておいてくれるかしら。


もうすぐ屋敷に帰ってくるでしょ?

ふふふ、私の未来の旦那様。

今日の手紙の返信はいいから、早く戻ってきてね。」


「奥様。ありがとうございます。ありがとうございます。」

奥様への想いで胸が一杯で、しばらくの間、涙が溢れ続けて止まらなかった。


奥様。僕はもっともっともっと頑張ります!

だから、僕にできることを精一杯やらせてください。




19時前になったので、2人との待ち合わせ場所に向かう。

ロザリーとミーシャにも感謝の気持ちを伝えないと。


「ぷふっ、ナユタ。なにその顔?

泣きすぎて目が腫れまくってるし。」

「えっ…」

「あはははは。どうせ、5連敗してウジウジしてるから、彼女に別れようとでも言われたんじゃないの?」

「違う!そんな小さな事で悩まなくていいって…。」

「あははは。逆に慰められて泣いてたの?

よしよし、ロザリーお姉ちゃんも慰めてあげまちゅねー。」

「ぐっ、この!」


ロザリーが僕の頭を撫でてくる。

せっかく感謝してたのにこの女だけは!


「あはは、ナユタの癖に反抗的じゃない。

この前、ロザリーお姉ちゃんにボコボコに負けたことをもう忘れたの?」

「もうロザリーなんかに負けないし。」

「へぇぇぇ、泣いたら強くなれるとでも思ってんの?

これは彼女に会う前に教育が必要ね。」


痛っ。この女はもう殴ってきた。

今日からはやられっぱなしの僕じゃないからな。

ロザリーめ。頭でも冷やせ。


【水魔法】を唱え、ロザリーに放つ。


「あーっ!今日買った服がびしゃびしゃに濡れてる!」

「あぁ…ナユタ、私の服とリオナ様へのお土産も入ってたのに…。」


えっ、ミーシャ、ごめん。

そんなつもりじゃ…


「ミーシャ、ちょっと手を貸しなさい。

ナユタが調子に乗ってるから、身分の差を分からせてあげないと。」

「ふふ、そうね。

ナユタ、さすがにおいたが過ぎると思うわ。

お仕置きはしないと。」


ちょっ!まっ!2対1は…無理…。


「ギャァァァァァァ!」

「本当にナユタの分際で。

もう一回泣かせてあげようか?」

「申し訳ございませんでした…。」




こうして、屋敷へ3人で向かうことになった。

奥様へのお土産は無くなり、僕が謝ることになったが。。。


ロザリー、ミーシャ、言えなかったけど


いつもありがとう。感謝はしてるから。


もう絶対言わないけど…

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