第15話 まさかの連敗とミーシャの手紙

◆ナユタ視点


総当たり戦8日目。

ナユタを含めて全勝が4名。

あと3日勝ち続ければ全勝できる。


そうすれば、奥様に喜んでもらえる。

今日の朝の奥様への手紙にも

絶対勝つ!

と書いてきた。


午前の試合は勝った。

あと5回勝てば全勝。


今日の午後からの対決は

中級職『侍』LV32。

優勝候補筆頭、剣聖の次女ナナミ。


ミーシャのダンジョンパートナーで、休暇明けからは一緒にダンジョンに入る仲間でもある。


ここまで来たら、形振り構うつもりもない。

最悪、空から魔法を一方的に使えば何とかなる。


奥様に勝利を捧げるんだ。


ナユタは序盤から飛ばしていく。

速攻で決めるつもりで、火・土・風・氷魔法を飛ばし続ける。


しかし、全て叩き切られた。


嘘でしょ?こっちの攻撃は何一つ通らないなんて…


ナナミが唯一、嫌がる水魔法は飛ばした瞬間に斬撃が飛んでくる。

それを避けるのに精一杯になり、水魔法は使わせてもらえない。

空を飛んで一方的に魔法を使おうとすれば、斬撃が飛んできて、やはり避けるのがギリギリになる。


この斬撃を何とかしないと。

この絶望感は僕は斬撃を対処できないけど、ナナミさんは僕の魔法を楽々対処している…その差か。


何をしても届かない。

MPが無くなるまで魔法を使い続けたが、ただの1発もダメージを与えることも無かった。


最後は体術で殴り掛かったが瞬殺された。


完敗だ。勝てる気がしない。


「ナナミさん、ありがとうございました…。」

「うん、ありがとう。」

「あの…僕はどうすれば、ナナミさんに勝てるようになりますか?」

「うーん、今のままじゃ、一生負ける気がしない。

ナユタは色々できるけど、脅威になる物が無かった。」


スキルレベルを満遍なく伸ばしたせいで、特化した物が無いのは事実。

そこを指摘された。


「このままだと、下期は降格もありえるよ?

うちのクラスじゃ、今のナユタだと対策されておしまいだと思うし。」


流石にそれは無いだろう。

ナナミ以外は全勝してきたし。

そう思っていたが、次の日にはナナミの指摘が的を得ていた事を理解した。



9日目はまさかの2連敗。


これにはナユタもショックを受けた。


嘘だ…奥様に何て伝えよう…。

全勝しているロザリーに負けたのは、まだ分かるとしても…

もう1人。ミーシャさんよりも格下の相手にまで負けた。


勝てない相手では無かった。

ロザリーとの戦いで使いすぎたMP切れを狙われ、最後は相手の狙い通りにMPが切れた。


昨日のナナミさんとの試合で、僕の攻撃の手札がバレてしまってるんだ。

しかも、何を防げば僕に勝てるのか…丸裸にされてしまっている。


マズイ、これはマズイ…。

長期休暇は領地の事をしたかったのに、ここで強くならないとこのまま差を付けられる。

とにかく、明日は勝てるように頑張ろう。



最終日、この日も2連敗…。


後々、考えれば、負ける試合では無かったと思う。

しかし、負け出したことによる焦りがナユタの動きをちぐはぐにさせる。

少し攻撃を防がれただけで不安がよぎる。

無理な攻撃をしてしまう。

相手が嫌がる戦いができなくなっていた。


どうして勝てないんだろう…。

手数や手札の多さで弱点を付く。

自分のスタイルに自信を持てなくなってしまった。


このままでは下期の総当たり戦を乗り切れる気がしない。



それに奥様にもがっかりされるかもしれない…。

あれだけ、この総当たり戦が大事だって言って下さったのに。

まさかの5連敗なんて…


奥様の期待に応えられなかった。

奥様に見限られたらどうしよう…。


明後日には一昨日に書いた手紙が奥様の元に届く。

3日後には3連敗した後の手紙が…

4日後には今日の5連敗後の手紙が見られることになる。


そして、それぞれの4日後には奥様からの返事が来る。


手紙を見るのが怖い。

初めて、そう思った。


奥様は何と仰るのか…

不安で仕方なかった。



落ち込んでいたナユタに声を掛けてくれたのは

やはりロザリーとミーシャだった。


ロザリーは包み隠さず、ド直球でぶつけてくる分、ナユタには堪えたが…


「ナユタ。今日の試合は本当に酷かったわね。

自分のスタイルまで見失って、見てられなかったわ。」

「はぁぁ…ロザリー準優勝おめでとう。

ロザリーの言う通りだよ…。

何をしても勝てる気がしなくて…」

「はぁぁ?何を落ち込んでるのよ?

ちょっと、歯を食い縛りなさい。

気合い入れてあげるから。」


そう言って、歯を食い縛る前に殴ってくる。


「ぶへっ…。

ちょっ!ロザリー、殴るのは止めてよ。」

「うっさいわね!

まだ、中級職にもなっていないくせに。

今まで勝てただけでも、十分だって思いなさいよ。」


そう言って、また殴ってくる。


「ぶふっ…。

ロザリー、痛いってば…」

「レベルが25になれば中級職になれる。

あんたの場合はまずはそこからだって、まだ分かんないの?」


また殴ってくる。今度は2発だ。

でも、確かにロザリーの言うことは的を得ている。

落ち込む前にいくらでもやることがあった。


「ぐぁ…

ちょっ!ロザリー。分かった!分かったから。

ありがとう。その通り。確かにその通りだと思ったよ。」

「ふぅぅぅ。分かればいいのよ。分かれば。

休暇中はレベル上げに付き合ってあげるから、あんたに付いていくからね。」

「えっ…?それは…。」

「また、殴られたいの?」

「ロザリー、僕も居候させてもらってる身だから、聞いて見ないと分からないし…。」


ロザリーが来てくれれば、正直ありがたい。

レベルを上げながら、スキルの吸収までできる。



話している横からミーシャさんが入ってきた。


「あら、ナユタ君。それなら私も行きたいかも。」

「えっ…ミーシャさんも?」

「あら、私が行くとマズイことでもあるの?」


いや、マズイことだらけだから…。

最近、ミーシャさんからのボディータッチが激しくて困ってる。

そもそも、右手にもリングを付けられたのは、ミーシャさんから抱きつかれたからだし…。


聞いたけど、断られたってことにしとこうかな。。。


「いや、ちょっと聞いてみないと…」

「ナユタ君。聞くっていいながら、聞かずに断るつもりでしょ?それはダメだからね。」

「えっ…?」


何で考えていることが分かるの?

声に出てた?いや、そんなハズはないし。


「あはは、何でって顔してるよ。ナユタ君。

本当に分かりやすいんだから。」

「あ…いや…そんなことは…」

「ねぇ、後で彼女さんに私からお手紙を書くから。

それを渡して貰えれば、私もロザリーも快く受け入れてもらえるから大丈夫。」


何、そのよく分からない自信は?

それは本当に止めて欲しい…。

そんなことをすれば、奥様から何を言われるか分かったもんじゃない!


「それは…できれば…」

「いいから。お手紙渡してくれるよね?」

「いや…それは…」

「渡してくれるよね?」

「あの…その…」

「渡してくれるよね?」

「…はい…。」


「あはは、やった!

じゃ、後で便箋を買いに行ってくるから、ちょっと待っててね。」


こうして、長期休暇を前に

爆弾になりかねない手紙を奥様に送ることになる…。

5連敗したことに加えて、ミーシャさんからの手紙。


奥様からの返事が色々な意味で恐ろしいナユタであった。。。

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