第12話 総当たり戦と奥様の応援

◆ナユタ視点


特進クラス・総当たり戦。


半年に1度、この期間中はクラス21名が1対1で1日に2名ずつ対戦する。


1試合目で大怪我をすれば、そのまま2試合目は不戦敗。

負けると思ったら、2試合目に備えて、さっさと降参しないと2試合目に響く。


2試合目が終わるまで、自分のスキル以外での回復は認められない。

『魔法使い』は配分を考えて戦わないと、2試合目にMPが無いということも考えられる。



この冒険者・特進クラスはこの総当たり戦で総合順位の下から5人が、下のクラスの上位と入れ替わる。

僕が転入してクラスに加わった分、今回は6人が降格になるらしい。


この総当たり戦の期間は、外部からの見学が許されていて、親兄弟の応援や上級生になるとスカウト目当てで貴族も見に来る事があるらしい。

だから、みんなが必死で勝ちにきていた。



毎日、ロザリーとミーシャさんのスキルを吸収してるから、降格になると僕は困る。

降格にならない程度に頑張ればいいかな。



そう思っていると

ロザリーが声を掛けてきた。

「ナユタ。たまにはあんた本気でやりなさいよ。」

「まぁ、降格にはならないようにボチボチやるから。」

「あんたなら、サブロウぐらい楽勝のはずだけど。」

「う~ん。」


最初の対戦相手はサブロウ君。

中級職『重戦士』LV27。


僕をイジメてる人間の1人。

この人に勝つと後々、面倒なことになりそうで…。

一応、クラスでの戦闘力は上位にいたはず。


どうしようかな。

そう考えている時だった。



「ふふふ、ナユタ。久しぶりね。

成長した所を見に来たわよ。」



あ!あーっ!


奥様だ!奥様がいる!


「奥様!奥様だ!」

「ふふふ、ナユタ。おいで。」

「はい、奥様。」


そう言って下さったので、奥様の所に抱きしめてもらいに行く。

ぁぁ…やっぱり奥様のことが好きだ。大好きだ。

どうして、こんなにも心地いいんだろう。


「ずっとお会いしたかったです。

どうして、お手紙で来てくださることを教えてくださらなかったのですか?」

「ふふふ、突然会いに行って、びっくりさせたくて。

ナユタ。みんな見てるわよ。

そろそろ、あっちに戻りなさい。」

「奥様。あともう少しだけ。」

「ふふふ、そんなに甘えちゃって。

本当に可愛いんだから。」


だって…だって、3ヶ月ぶりなんですよ。

会いたかったに決まってるじゃないですか。


「ねぇ、ナユタ。

今日からの総当たり戦は貴族になる為に

ナユタが思っている以上に重要なの。

後は言わなくても分かるわね?」

「はい。奥様。こちらで応援お願いします。」



もうイジメとか、後が面倒とか、どうでもいい。

奥様が見に来てくださったのなら話が違う。



次は僕の試合の番だ。

サブロウ君が話し掛けてきた。


「もしかして、あのオバサンがおまえの彼女かよ?

チッ、金目当てか?

あんなに垂らしこんで上手くやったなぁ。」


ババァ?

その瞬間、殺意を覚える。


おまえに奥様の何が分かる。

死刑確定だ。


「黙れ。奥様の事を何も知らないくせに。」

「あん?誰に物を言ってんだよ。

調子に乗ってるとぶっ殺すぞ。」


ぶっ殺されるのはおまえだ。絶対許さない。



試合が始まる。


サブロウが盾を構えて走ってきた。

【水魔法】を発動し、サブロウを水で押し戻す。

盾で防いでいるうちは、前に進ませない。


サブロウの足が止まった所を【氷魔法】を発動し、体を凍らせていく。

びしょ濡れの鎧と体が凍り付いていく。



奥様。

僕を拾って下さった時の事をまだ覚えていますか?

あの時、絶望しかなかった僕は奥様の優しさに触れて、ここまで大きくなりました。

いつもナユタ、ナユタって可愛いがって下さいましたね。



サブロウが凍えながら走ってきた。

また【水魔法】で押し戻す。

足が止まった所を【氷魔法】で再び凍らせていく。


鎧の冷たさに耐えきれなくなったサブロウが鎧を脱ぎだした。

その隙に【水魔法】で盾を場外まで押し流す。



奥様。

僕が告白した時の事を覚えていますか?

もう少し待ってて欲しいとお願いした僕に

しばらく待っててあげる。って、

そっと手を繋いで下さいましたね。

あの時間がとても暖かくて、心地よくって。



サブロウがシャツとパンツ姿で殴り掛かってきた。

【見切り】で避けて、殴る。殴る。避ける。殴る。殴る。

サブロウが倒れた所でマウントを取り、また殴る。殴る。殴る。殴る。



奥様。

5ヶ月前の奥様の縁談の時の事を覚えていますか?

奥様が再婚されるって思ったら悲しくって。

何も手につかなくなって、涙が溢れて止まりませんでした。

それなのに奥様はとっくに断ってたって…さすがに酷くありませんか?



サブロウが降参と言おうとしている。

許さない。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。


サブロウがぐったりしてきた。

【ファイア】に魔力を込めて右腕を焼いていく。


「ギャァァァァァ!

降参。降参する。」



奥様。

4ヶ月前、奥様が僕を必要だと言って下さった時の事を覚えていますか?

あの時、別れを惜しんで泣いてくれましたね。

あのお言葉が嬉しくって、あの後、僕もこっそり泣いてたんですよ。



サブロウが何か言おうとしているが関係無い。

また殴ろうとした所で審判が止めに入ってきた。


しょうがない。

今日はこの辺で許してあげるか。

次、奥様のことを言ったら、こんなもんじゃ済まさないからね?



あっ、奥様が手を広げて僕を呼んでくれている。

奥様の所に走っていくと、奥様が抱きしめてくれる。



奥様。

もう少しだけ待っていて下さい。

必ず貴族になって、奥様を迎えにいきますね。

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