第11話 奥様への手紙と報告書

◆ナユタ視点


最近はスキルの吸収とレベルアップを。


そして、奥様との手紙のやり取りに全力を注いでいた。


手紙に全力を注ぐ?と、きっと思うだろう。

ただ、朝晩の2回ともなると思ってる以上に書くのも大変で…。


わざわざ、毎日、おはようとおやすみの挨拶だけを手紙で送る訳にもいかず、書く内容に困っていた。


最初の3日は書くことに困らなかったけど、4日目には1日に2回も書くことがない。。。


特に朝の手紙。

晩に手紙を書いた後に、寝て起きたら、もう1通書けと言われても。。。


学校の時間までに手紙を書ききれず、奥様からの手紙で指摘を受けるようになった。


できれば、毎日1通にして欲しいとお願いすれば


「私とはあまり話したいこともないのかしら?」

「距離が離れると気持ちが薄れるとは聞くけど早いものね。」


と、返答が返ってくる。。。


「そんな事はありません。奥様の事が大好きです。」


と書けば


「では、手紙に書くことぐらい、いくらでもあるわね。」


と返ってくる。。。


最近では基本的に毎日2回の手紙は

朝はその日の予定と奥様への想いを。

晩はその日の出来事や仲良くなった人、領地運営にこれは活かせないか?

等を書くようにしていた。


奥様は特に女性関係を根掘り葉掘り聞いてこられる。

「私が贈ったリングは何が合っても外さないように」

3度以上、念押しで書かれていた。。。



手紙はお互いの元に4日後の朝晩にそれぞれ届くような形だ。


基本的には、起こった事は包み隠さず話すようにしている。

でも、奥様に伝えていないことが2つある。


1つ目は【飛行魔法】を覚えたこと。

これは突然、奥様の所に帰って、びっくりさせたかった。


馬車で4日掛かる屋敷への道のりも直線距離で移動できる分、距離が大幅に縮まる。

もし、数時間で帰れるようになれば、毎週のように奥様の顔を見に帰りたい。


しかし、残念なことに現状はとてもではないが、それを望める状況ではなかった。

【飛行魔法】のレベルが低いうちは空を飛ぶ速度も高さも燃費も悪い。


何せ速度が遅く、燃費も悪い為、領地への道程の1/3も行かない所でMPが無くなってしまう計算になる。


奥様の誕生日までには絶対間に合わせたい。


「はぁぁぁ。思ったようには上手くいかないか。」


結局、燃料であるMP。

速度を上げる為に魔力。

【飛行魔法】自体の性能を上げる為にスキルレベル向上を図らざるを得ない。

結果、『魔法使い』のレベル上げとスキルレベルの向上に明け暮れるしか無い。



そして、奥様への手紙に書かなかった2点目がイジメ…である。

もちろん、僕がイジメをする訳ではない。

イジメられる側だ。


左手にハートのリングを付け、弱気で下級職。

中級職の多いこのクラスでは、僕は良いターゲットなのだろう。


「下らない」と思って相手をしなかった。

その態度が気に入らないのか、最近では物が無くなったり、数名に囲まれて殴られるような事もでてきた。


対処しようと思えば、いくらでもできる。

しかし、転校してきたばかりで問題起こすのも…と思ううちにエスカレートしてきている。


1度、本気で脅してもいいけど

少し殴られて相手が満足すれば、自分に回復魔法を使っておしまい。

それでいいかと納得してしまった。


何度かロザリーが「手を貸そうか?」と言ってくるが

「気にしてないから、何もしなくて大丈夫」と伝えている。


むしろ、ロザリーが気に入らないのは

やられっぱなしでやり返そうともしない僕にある。


「ナユタ。あんたさ、あいつらの事ぐらい、どうとでもできるでしょ?

さっさとやり返してきなさいよ。」

「別に相手の気が済んだら、【回復魔法】と【クリーン】使えば

体の傷も服の汚れも無くなるし問題ないよ。」

「そういう問題じゃないでしょうが!

あんたは私のダンジョンのパートナーでしょ。

私がイライラするでしょうが!」

「そんなこと言われても…」

「いい加減にしないと殴るわよ。」

「えぇー。ロザリーも殴ってくるなら、彼らと一緒のような…」

「はぁ?どう考えても違うでしょうが!」


そう言って、ロザリーも殴ってくる。

本当に理不尽極まり無い。。。

まぁ、ロザリーは彼らと違って、僕の為を思っての事であるけど。



そして、もう1人。


「ねぇ、ナユタ君。どうして、やり返さないの?

あなたなら、すぐに対処できるわよね。」


そう言ってきたのは、ミーシャである。

彼女は中級職『雷魔法使い』で風と雷属性の魔法が使える魔法使いだ。

スラッとしてて、キレイな人だから、クラスの男子連中からも人気が高い。


「何故、ミーシャさんはそう思うのですか?」

「あら、ナユタ君。たまにイラっとして、魔力が膨れ上がるじゃない。

【魔力感知】のスキルがあるから、すぐに分かるわ。」

「へぇぇぇ、【魔力感知】って便利ですね。

僕も覚えたいです。」

「あはは、そんな話はしてないのに。

ねぇ、何で下級職なのに私より魔力が高いの?」

「そんなこと無いと思いますけど。」

「【魔力感知】ではっきりと感じるんだもん。

どうしてか教えて欲しいな。」

「いや…ちょっと分からないです。」


魔法系のスキルを7つ持っているからだとは言えない。

人前で色々な魔法を使うのは避けた方がいいな…。



それでも納得できないのか、ミーシャさんは毎日のように話し掛けてくる。


「ねぇ、ナユタ君。

【火魔法】以外にも水と土と生活魔法も使えるって聞いたの。

本当の話かな?」

「いや…まぁ…」

「ねぇ、色んな魔法を使えるようになるコツとかあるの?」

「さぁ…」


実はもっと使えるなんて言わない方が良さそうだ。。。



今日はミーシャさんが腕に抱き付いてきた。

「おはよう。ナユタ君。」

「ちょっ!ミーシャさん。離して下さい。」

「ナユタ君。昨日、空飛んでたよね。

どういう事か教えてくれたら離してあげる。」

「多分、人違いだと…」

「【魔力感知】でもはっきりとナユタ君だって感じたから間違いないわ。」

「人が空を飛べる訳が…」

「だから、それを聞いてるの。」

「あの…周りからの目線が痛いので…そろそろ…」

「ちゃんと教えてくれるなら、すぐにでも離すよ?」


この後、ミーシャさん狙いのイラついた男子連中から、小突かれたのは言うまでもない。。。




ミーシャさんの事を手紙に書けば、奥様からの追及は必至…。

書くか迷ったけど、ちゃんと書くことにした。

奥様に隠し事は極力避けたいしね。


4日後。

すぐに学園を休んで説明しに帰ってくるか

今日中にミーシャさんとの出会いから事細かく報告書を出すか

選ぶよう奥様から手紙がきた。。。


「ヒィッ…」


わざと赤字で大きく書かれていたので、相当、ご立腹のようだ…。

もう泣けてくる…。


書くんじゃなかったかも。。。


こうして、世の男性は隠し事が増えて行くんだろうな。。。

そう理解するナユタだった。

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