第6話 奥様 過去を振り返る

◆リオナ視点


「リオナ様、こちらが今週の学校でのナユタ君の動きでございます。」


そう言って、渡された報告書に目を通す。


「ちょっ!この子は前もナユタに告白してたでしょ?」

「フラれて、さらに彼を好きになったと言ってました。

どうしても諦めきれないとか。」

「ぐぐぐっ…

そ、それで…あの子は何か言ってるの?」

「いえ、リオナ様。

ナユタ君には心に決めた方がいるとかで、断ってましたよ。

本当にどれだけ愛されてるんですかね。その想われ人は?」

「そ、そう。それなら、いいわ。」


私が安堵した表情を見て、エミはニヤリと笑う。

くっ、エミはどこまで知ってか知らずか、私とナユタの関係を嗅ぎ付け

毎週、報告書ついでに煽っては情報料という名目で、お菓子や紅茶、雑貨を売って帰っていく。


何でも情報を得るにもお金が掛かるとか何とか。

14歳も年下の女の子に情報を盾に良いように転がされている。


「はぁぁぁぁ。」



そう、最近では私の方があの子にまいってきている。

14歳も年下の少年に…だ。



あの子は領地にも私にも必要な存在となった。

今や領主補佐という肩書きで働いて貰っている。


告白されてから2年。


ふふふ、最初にクラっときてしまったのが、熱で倒れた私を魔法で癒してくれた時で…


「奥様の為に『病気治療』の魔法を覚えられて嬉しいです。これで1つ、目標を果たせました。」

そう言って、弱っていた私にニコッと微笑んでくれた。

あの瞬間に心が勝手にドキッとしたせいで…私が変に意識することになって…まぁ、私の為に努力してくれてたのは知ってたけど…村の皆の為でもあって…



その次が【土魔法】【水魔法】を使って治水を成功させ

長年、この領地の問題だった食糧問題を改善してくれた時で…

興奮して、嬉し泣きして、あの子に抱きついた私に

「奥様に喜んで頂けた事が何よりも嬉しい。」

と言って、一緒に泣いてくれた。

この人なら頼りにしてもいいって、心が勝手に思った訳で…それから、領地運営の相談をするようになってしまって…いつの間にか領主補佐で…



次の次が村が魔物の群れに襲われたと聞いて、急いで討伐隊を編成して村に駆けつけた時には…

既に村の皆に指示を出し、魔物を対処する姿を目がカッコよく映したせいな訳で…

「奥様の大切な村を何とか守れました。」

って言ってくれた時に、心が勝手にキュンキュンしちゃったせいであって、私のせいじゃないというか…魔物のせいというか…



次の次の次が…



どれもこれも昨日のことのように思い出せる。


とにかく、あの子犬のような少年は…

私の心に深く入り込んできて私を惑わせてくる。



そして、今日はナユタが学校の日だ。

あの子は勉強もできる。

通学免除試験を合格し、週2日の実技だけしか登校していない。


週にたった2日しか通学していないにも関わらず、あの子はモテるのだ。

それもかなり。


頭が良いから通学を免除され、『魔法使い』にも関わらず格闘術も同年代では負け無し。

魔法に至っては大人顔負け。

しかも、外見も良く、愛想まで良い。

確かにモテない方がおかしい。。。


もちろん、あの子は私のことを大切にしてくれている。


それでも、自分よりも14歳も若い女の子にキャーキャー言われている姿を何度も見掛ければ

私だって不安に駆られてしまう。


もちろん、彼はいちいち何も言わない。

それがまた、私を不安にさせる。



はぁぁ、どうしてこうなったんだろ。


あの子犬のような少年が…



「奥様。まだ僕は必要ではありませんか?

でしたら、もっともっと頑張りますね。」


子犬の癖に最近は逞しくなって…

悔しいから必要だと言ってあげない。


それに2人には越えなければならない身分という壁もある。



「奥様。ただいま帰りました。」


あっ!ナユタが帰ってきた。


「奥様。お願いしてた資料、まとめて下さいました?」

「ふふふ、それが過去を振り返るのに忙しくって。」


ふふふ、あの子犬のような少年はすっかり成長した。

2人で身分の壁も乗り越えていこうね。

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