第4話 奥様とのすれ違い

◆ナユタ視点


奥様はいつも冬になると体調を崩される。

だから、病気を治せるようになりたい。


それにこの辺境の地では『医者』の数が絶対的に不足している。

この町1つと村が3つで『医者』が計2人しかいない。

僕が【病気治療】のスキルを覚えれば、きっと奥様は喜んでくれる。

きっと僕を必要としてくださる。


少年は純粋にそう考え、ここ最近、町の病院で熟練度を吸収していた。

まだ夏前ではあるが、早いに越したことはない。


奥様、喜んで下さるかな?


少年はもう何日も奥様が喜んでくれる姿を想像していた。

冬になれば、僕が村を回って治療してもいい。

領地の皆さんの助けにもなれる。



しかし、これが思わぬすれ違いを生むことになる。


◆リオナ視点


それは食堂での話だった。


「奥様。聞いてください。

【病気治療】のスキルを覚えました。

これで奥様が体調を崩されても僕が治しますからね!」


前々から、この子は才能の塊だと感じてはいたけれど

今日ほど、それを感じたことはない。


ナタリーと目が合うと彼女も頷いてきた。


「奥様…。

もしかして、覚えない方が良かったですか…?」


ナユタが不安そうに顔を覗き込んでくる。

いけない。

喜ぶべき事なのに、驚きの余り、顔が強ばってしまっていた。


「ふふふ、ナユタ。そんな訳ないでしょ。

私もとっても嬉しいわ。

じゃ、次に私が寝込んだら、ナユタ先生に見てもらおうかしら?」


そう言って、頭を撫でてあげるとナユタは顔をほころばせ、嬉しそうにしている。

ふふふ、本当に子犬みたいなんだから。


「はい!奥様のご病気は全て僕が治して見せますからね。

それに冬になったら、いつも病気で皆さん、大変そうです。

今のうちにスキルのレベルを上げて、少しでもお役に立てるよう頑張りますね。」


本当に優しい子。

10歳の少年とは思えない行動力。

物事を組み立てることに長け、読み書き・計算は私よりできるかもしれない。

この才能の塊をこんな辺境の地で終わらせてはいけない。


それが私と相談役 兼 メイドのナタリーとの見解だった。


「ねぇ、ナユタ。食堂の片付けが終わったら、私の部屋に来てくれないかしら?」

「はい、奥様。

お待たせしないように急いで終わらせますね。」


ふふ、本当にこの子は…少しくらいさぼってくれてもいいのに。

そう言えば、怒ったり、嫌がったりする所を見たことが無い。

とても素直で一生懸命尽くしてくれる。

いつも本当にありがとう。ナユタ。



「奥様、ナタリーさん、お待たせ致しました。

それで何かご用でしょうか?」

「ふふふ、ナユタにとっても良いお話があるの。」

「奥様。何でしょうか?ドキドキします。」

「ふふふ、実はね。ナタリーのお父様が公爵領で上級学校の先生をしてるでしょ。

ナユタを推薦してあげたいって…」


「奥様。行きませんよ。」

「えっ?」

「僕の居場所は奥様のお側だって決めています。

絶対に行きませんよ。」


私は初めてナユタが拒絶している所を見て、驚いてしまった。

いつも子犬のようだと思っていたけど、この子もやっぱり男の子…か。


「ナユタ。奥様は【病気治療】も含めて、5つものスキルを得たあなたの為を思って言って下さってるのよ?

さすがにそれは奥様に失礼でしょう。」

「もしかして…奥様もナタリーさんも…

僕の事がいらなくなったんじゃないんですか?」


ナユタの声が沈んでいく。

必死で涙を堪えてるのが伝わってくる。


「そんな訳ないでしょう!

あなたの事はみんな大切に思ってるわ。」

「それなら!僕をここに置いてください。

お給金もお休みもいりません。今まで以上に働きます。

だから…だから…」

「ナユタ。そう言う事を言ってるんじゃないの。

あなたの将来の事を考えて!」

「僕はここでお役に立ちたいだけなんです。

こんなことになるなら【病気治療】なんてスキル、覚えるんじゃなかった…。

奥様は…奥様はきっと喜んで下さると思ったのに…」


ナユタの瞳からポロポロと涙がこぼれていく。


「ナユタ…ごめんなさい。

私もナタリーもそんなつもりじゃなかったの…。」


私はナユタを抱きしめ、いつものように頭を撫でてあげたが、この子は悲しそうに俯いていた。

結局、最後までいつもの笑顔は戻っては来なかった。


この日以降、彼からスキルや成長の話を聞くことは無くなった。



ナユタ 10歳

火魔法使いLV5(168/500)


ステータス

HP 24/24

MP 50/50

体力 9

力  9

魔力 31

精神 21

速さ 14

器用 14

運  11


スキルLV

スキル吸収LV1(529/1000)

生活魔法 LV3(128/300)

回復魔法 LV1( 57/100)

火魔法  LV3( 10/300)

価格交渉 LV2(  9/200)

病気治療 LV1(  2/100)


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