異世界で、俺の評判が急上昇

 ボーン・ロナウドに呼び出されて、中等部の修練場にやって来た俺とスカーレットとルールー。

 ボーンの手下を倒すと黒髪黒目の異世界人?が現れた。


「異世界の槍王、ここに顕現(けんげん)。今、この時から神話(レジェンド)が始まる成!」


 えーと。

 何?

 中二病?

 中等部だし。


「あまねく火の精霊よ!  槍王たる我の声に応え、その力の根元を現し、この世の悪を凪ぎ払え! ファイヤーボール!」


 いやいや。

 この世の悪って、ナニ?

 初対面で、そこまで言われる筋合いはないよ。


「はぁあああああ!」


 あっ。

 何かでっかい炎の塊作ってる。

 この人バカなのか?


 野次馬からは『危ないよね?』、『火、怖いよっ』『アイツ、またやらかすぞ』といった声が出た。

 確かに、このままでは、木造の修練場は大惨事だ。


「ああ、もう!」


 俺は足に魔力を込めると、魔族のカレンが風の魔法陣を刻んだ靴の裏が青白く光る。


「いけぇええええ!」


 『バンっ!』という爆発音と共に、足の裏に圧縮した空気が一気に放出され、俺の身体が自称槍王に向けて一直線に空中を突進した。


「くらえぇえええ!」


 足の痛みに耐えながらなんとか木刀を横一文字に構える。

 自称槍王は俺の突進スピードに驚いて口を開けようとしたが、その間もなく、腹部に木刀がめり込んだ。


「ぐへぇえええ」


 強烈な一撃を喰らった槍王の身体が『く』の字に曲がり、ゆっくりと地面へと向かう。

 俺は衝撃のせいで手の痺れが収まらず、木刀を放してしまうが、ここから、もう一仕事残っている。

 頭上に浮いた大きな火球がゆらゆらと落下しているのだ。


「開け、次元の扉!」


 俺は野次馬達に分からないように、右の手の平に次元魔法を展開し、火球にかざすと、火球が音もなく吸い込まれた。



 あーもー。

 サッズ対策の駿足移動は晒すし、次元魔法も使ってしまうし、最悪だ。

 しかも、次元魔法を隠すために、手の平に薄く魔法をまとったせいで、手の甲の方が熱い。


 クソ。

 火傷しちゃったよ!

 誰も居なかったら、『ギャーギャー』泣きながら手に『ふーふー』息吹き掛けたい。

 もしくは、冷たい井戸水に至急手を突っ込みたい。


 そんな冷や汗が出ている俺を他所に、野次馬から、『えっ!? 殿下凄くない?』、『一瞬で、あの厄介者を倒してスカっとしたよな』、『あいつには俺も迷惑してたんだ。ホント、殿下様、最高だ!』などの声が上がったのを切っ掛けに、盛大な拍手と『殿下! 殿下! 殿下!』と賛辞が贈られた。


 どんだけ槍王嫌われてたんだよ。

 そもそも、槍王なのに魔法攻撃ってどうなの?

 まあ、異世界転移者だったら、槍術を習うより、魔法の方がお手軽で俺TUEEE感はあるけれども。


 突然の賛辞に、どうしたらいいやら困っていると、スカーレットの方から『ガキン』という激しい金属音がした。

 場内の全員が静まり、スカーレットとボーンの戦いを注視する。

 息の上がった両者の様子から、決着の時が近い事が分かった。


「ぜぇぜぇ…お前の槍、女の遊びではなかったんだな…非礼を…詫びよう…」

「はぁ…はぁ…ボーン様も素晴らしい剛の槍です…はぁ…はぁ…修練を積んだんですね…」

「だが、俺に敗北は許されない!」

「僕も大好きな人の為に絶対敗けられない!」


 えっ。

 えっ!?

 大好きな人!?


 そ、それって。

 まさか!?

 おっ、オレ!?


 違う意味でドキドキし始めた俺をよそに、両者が咆哮を上げながら、一歩を踏み出したのだった。

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