異世界で、魔獣狩り
カレンに肩車してもらいながら、領内の農地を歩いている。
巻き角を持つと頭上でも良い感じで安定する為、こうしているのが結構好きだ。
前世は生まれた時から病院だったので、ずっと肩車に憧れていたんだよね。
もう少し大きくなるまで、カレンに甘えさせてもらおう。
「ハイネが居ます。珍しいですね」
どこまでも広がる農地の隅にハイネがたたずんでいたので、カレンが歩み寄った。
ハイネは大きく育った夏野菜を見て感慨深げだ。
うん。
分かるよ。
苦労したもの。
一から農地を作るって事がどんなに大変か学んだよ。
新芽を鳥が食べたり、芋虫が大量発生したり。
早く育つ野菜がやっと実を付けたと思ったら、鹿っぽい動物に軒並み食べられた。
ちょうどその時期にキースが食料の仕入れをミスって、腐った野菜を大量に買った時は、冷や汗が止まらなかったっけ。
リックに『ここが堪え所ですぜ、殿下』と、たしなめて貰わなければ、皆に怒りまくって当たり散らしていたかもな。
「会長、素晴らしいですね」
ハイネの見つめる先で、母と娘が大きな籠に野菜を収穫していた。
「ああ、そうだな…」
親子は俺を発見するとペコリと頭を下げた後に尻をプリンとこちらに向けた。
「チッ…」
「ま、待てカレン!」
奴隷下着ハーレム遊びをして以来、領内の女性が俺に尻を見せて捲って下さいのポーズをしてくれる。
カレンはその破廉恥な行動が気に入らないのか、逐一、注意しているのだ。
カレンがワナワナと肩を震わせ二人に迫る。
すると、遠くの森で『バン!』という爆発音が聞こえた。
「会長! お母様!」
ハイネが絶叫する。
それと同時に爆煙を上げてマンモスみたいな巨大猪が大木をなぎ倒し飛び出た。
魔境に住んでる魔獣の一種だ。
「獣風情が! 殿下の領土を汚す事は、このサッズが許さぁあああああん!」
見知った老騎士が馬に股がり、槍を片手に巨大な猪を追いかけている。
その後ろを十人ほどの騎乗した騎士が血眼で追従する。
えーと。
うん。
別チームです。
こっちは農業チームで、あっち狩猟チームです。
「会長、お母様、行ってきます!」
「うん。迷わず逝ってくれ」
「はい!」
ハイネが嬉しそうに駆け出した。
でも、この距離じゃ間に合わないだろ。
あの爺ぃ、いや、サッズ師匠と兄弟子達ならば、直ぐに終わるはず。
砦や港の建設があるから、ハイネに逝かれたり、怪我されたりすると困るのだよ。
間に合わなくて、良かった、良かった。
「うぉおおおおお!」
ハイネが遠くなる頃、サッズが馬上に立ち咆哮とともに巨大猪の横っ腹に飛びついた。
そして、槍をグサグサ刺しながら背中へと向かう。
「あ、あの御仁は本当に人族ですか、我が主…」
「どうなんだろ…」
サッズは血塗れになりながら首筋に到達すると、両手で槍を握りしめ、大きく振りかぶって眉間目掛けて振り下ろした。
「せぃいいいいい!」
「グギィヤァアアアア!」
獣の叫びが四方八方に響いて耳が痛い。
「追い討てぇえええええ!」
「「「はい!」」」
サッズの一声を待ってましたとばかりに、騎乗の騎士達が巨大猪を槍で突きまくる。
足の関節、首筋、腹部、心臓と、急所から血飛沫が上がる。
「グギィィイイ…」
疾走していた巨大猪の動きが徐々に鈍くなり、ついには土煙を上げて地面へと倒れた。
「鬨(かちどき)をぉおおお!」
「「「「うぉああああああああ!」」」」
男達が槍を掲げ、狂ったように叫んでいる。
えっと。
ココって中世ヨーロッパ設定の異世界じゃなかったけ?
どこの原始時代だよ。
あいつらに盾っていう防具があることを教える事からスタートだな。
そんな槍バカどもを、ぼおっと見ていると、サッズが手招きをしているのに気づいた。
「どうします、我が主?」
「まあ、行くしかないよね…」
「仰せのままに…」
カレンが魔族語で呪文を唱えると体が浮き上がり、スケートを滑る要領で空中を移動した。
はぁ。
またか。
魔獣の皮は厚く硬い為、捌(さば)くのが大変だ。
そこで我が次元刀の出番なのだが、巨大な獣を切り裂くと身体中に返り血を浴びてしまう。
その為、海辺で解体をするようになったのだが、海には海獣とかいうクジラを肉食にしたような獰猛な生き物がいて、血に誘われて襲って来るのだ。
海獣なんてさ、槍バカどもの餌だよ、餌。
大喜びで小舟に乗ると槍をぶん投げて、海獣に乗っかって格闘するの。
怒声が響くその脇で必死に解体作業をするのが怖い、怖い。
四次元空間で解体すれば安心なのに、コイツらはどうしても連戦したがるんだよ。
カレンが『狂人の集まりですね…』とか言ってドン引いてる姿を見せてやりたいです。
まあ、見てもコイツらは変わらないのだろうけれども。
「殿下、身体が冷える前に海へ参りましょう!」
巨大猪を四次元空間に入れると、サッズがキラキラした瞳で話しかけた。
少年のような綺麗な目だ。
反論が出来ない。
「う、うん。そうだね」
魔獣や海獣のおかげで、一番懸念していたタンパク質の問題が解決するのだ。
領民四千人の胃袋が満たされると思えば、血塗れになって海獣に襲われそうになっても平気だもん!
俺は海に向かって移動し始めたカレンの頭に頬を寄せた。
なんか良い匂いがして辛い現実が逃避出来たので、スリスリしたのだった。
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