異世界で、カツアゲされたので、逆にエロ本を売り付けてやった

 学園に入って半年が経ち、季節は夏だ。


 俺は王城にある修練場で槍の練習をしていると、突然、サッズに呼ばれた。

 お爺ちゃんが孫に苦言をする時のような、なんとも言えない緊張感があった。


 はあ。

 また、王族絡みのロクでもない問題か。


「殿下、大変申し上げ難いのですが、第一王子のラドルフ様から『登城し謁見するように』と言付けを賜っています」

「あーそう。お兄様とうとうサッズを使ったか…」


 学園生活を送る俺の元に、ラドルフから『会いに来い』という趣旨の手紙が何度も送りつけられている。

 ラドルフの用事なんて大した事ないと思い、ガン無視していたのだが、そろそろ限界かな。


「女王陛下の勅命ではないので、今回は私からお断りする事も出来ますが?」


 王子同士、ほぼ同格の立場だし。

 勉強忙しいからって理由で断っても問題は無いのだが、バカ王子がお母様通さないで呼びつけたのが気になるな。

 ああした直情的な人は考えが読み難いので、逆に怖いんだよね。


「いや、会おう。三日後の昼過ぎに伺うと伝えてくれ」

「かしこまりました。それと、殿下が登城した際には、女王陛下の元にお連れするよう命じられていますが、こちらはどうしますか?」


 クソジジ、いや、ご老体、そっちの依頼が本命か。


「殿下、そう警戒しなくても大丈夫です。女王陛下は学園での様子を伺いたいのだと思います」

「女王陛下が?」


 あの人がそんな普通の母親みたいな事するか?

 なんか、壮大な陰謀の入り口に吊り下げられている、甘い誘惑にしか思えないんだけさ。

 まあ、サッズの立場が悪くなるのは嫌なので、拒否件は無いのだが…


「あー。まあ、行くしかない、よな…」

「では、殿下のご意志のままに…」


 サッズが嬉しそうに修練場を去って行った。


▽▽▽


 三日後、王城にある第一王子ラドルフの私室を訪れた。


 ラドルフは王様が座りそうなド派手な椅子に腰掛け、その左右には側仕えの若い女性が控えている。

 結構な美人だ。

 うらやましい。


 俺は立ったまま胸に手を当てる略式の礼をした。


「無礼者! 次王の前で何だソレは! 礼儀も知らんのかお前は!」


 ラドルフが大きい声をあげた。


 えーと。

 お前が呼んだから、忙しい中、来たんだよ。

 ご要望の通り面会はしたので、もう帰って良いかな。

 はぁ…


 まあ、ここで喧嘩吹っ掛けても良い事ないし、アホの言う事聞いてやるか。


 俺は両ヒザを付いて、胸に手を当てる正式な礼をした。


「うむ。やれば出来るではないか」


 お兄様がご満悦だ。

 あー、本当に帰りたい。


「おい、アルバラート。貴様、手広く商売をしているそうだな?」

「あ、はい…」


 うわー。

 嫌な予感しかしないな。


「商いなどとは、王族に対し不敬が過ぎる。今すぐ止めろ」

「えっ…」

「ふむ。バカなお前に分かり易く教えてやる。商いで集めた金子(きんす)など汚らわしいと言っているのだ。王族とは、民が差し出した金銀の上に立ち、そこから動く事は決して無い。そうだというのに自ら金子を稼ぐなどとはナンたるバカだ! 貴様が集めた汚れた金子は、この兄である、第一王子ラドルフ・ミルドが国の為に有意義に使ってくれる。全てを差し出せ!」


 あー。

 えーと。

 ナニ?

 なんなの?


 話をまとめると、商売止めて金よこせって事?

 えっと、これってカツアゲ?

 コイツ、どこの半グレ所属だよ?


 これが王族のする事か?

 それともバカ兄様が特殊なのか?


 しばらく思考停止していると、ラドルフが再び同じ話を繰り返しそうになった。


「ふむ。余の話が難し過ぎて分からなかったか。では、もう一度、」

「あ、いえ、お話は何とか理解できたのですが、ラドルフ兄様は誤解されているようです」

「誤解とはなんだ?」

「商会には、お金がほとんどありません」

「ナニ!?」


 ラドルフにおもいっきり睨まれた。


「実は予想以上に下着の注文が殺到している為、仕入れ費用が膨大となり、お兄様にお渡しできるお金が今は無いのです」

「ふむ。それは困ったな…」


 適当な嘘を言ったので怒り狂うかと思ったが、ラドルフはちっとも困ってない感じでニヤニヤとしだした。


「それならば今回は現物で構わぬ。その、あれだ…貴族どもが騒いでいる、貴様が作った本はどうだ…」


 えっ。

 コイツの狙いはエロ本!?


 そうだよな。

 今、エロ本が大流行中だしね。

 需要に対し供給が全く追い付いていない状態だ。


 なんだよ、エロ本か…

 そういう所、血の繋がりを感じるなー。

 兄様も、好きなのね。


「はあ…」


 俺は諦めて手持ちのカバンに腕を突っ込み、四次元空間からカタログを出した。

 カレンがグラビアアイドル並みに胸を寄せた表紙の本だ。


「なっ!?」


 ラドルフ兄様がカレンの爆乳を見て驚愕している。

 お兄様の表情が面白い。

 俺は急いで本を裏返し、何も描かれていない背表紙を見せてやった。


「えっ…」


 ラドルフがなんとも切ない表情をした。

 良いね。

 もっと遊ぼう。


 俺は知的なお姉さんが脚を開いて下着をアピールしているページを一瞬開いて、直ぐに閉じた。


「あっ…」


 お兄様は俺が手にしている本を釘付けで凝視している。

 ほう。

 おっさん、そんなに興味があるのか。


 小気味良くページをパラパラとめくると、お兄様が『ゴクリ』と喉元を鳴らした。


「お兄様…」

「な、なんだ…」

「お譲りしても良いですよ?」

「ば、バカ者! さ、差し出せと申したではないか! は、早くよこせ!」


 ふっ。

 ナニをしどろもどろで言ってやがる。

 貴様はもう勝負に負けているのだよ。

 こっからは俺のターンなのだよ。


「金貨二百枚でどうでしょうか?」

「ふっ。バカめ! いいか、教えてやる。金貨二百枚とは、貴族の館が建つほどの金子だ。貴様は金貨の価値も分からないのだな?」

「そうですか…」


 俺は再びカバンに手を入れると、四次元空間から高級そうな木箱を取り出す。

 そして『パカッ』と開けると、青いレースで装飾された上下セットの下着を見せつけてやった。

 カタログで知的なお姉さんが着ているのと同じ物だ。


「これをお付けします」

「な、ナニ!?」

「金貨三百枚でどうですか?」

「な、何を言う! ば、ば、ば、バカ者!」

「あ、そうですか…では、要らないということで…」


 俺は下着の箱を『パタン』と閉めると、カバンに入れた。


「ちょ、ちょっと待て! 要らないとは言っていないが、しかし…値段を下げるどころか吊り上げるとは、お、お前の頭は、いったいどうなっているのだ? そんな物を金貨三百枚とは狂っているのか?」

「えっと。先ほども言いましたが、注文が殺到していまして、下着と本を一組作るのに半年ほどの時間がかかります。しかし、どうしても今、欲しいという貴族もいまして、そうした者がこぞって金貨を積み上げ、百枚で買うと言っています」

「そ、そうなのか…い、いや、そうだろう…」


 ラドルフお兄様が妙に納得されている。


「貴族が大勢待ち望んでいる中で、まさか次期国王たるラドルフお兄様が横から入り、タダでよこせと言うのですか? 貴族が百枚出す金貨の三倍程度も出せないのですか?」

「うっ…」


 ラドルフお兄様が押し黙って熟考されている。


「おい…」


 しばしの沈黙を破り、側仕えの女性を呼びつけた。

 そして、何事か耳打ちすると、女性がいそいそと部屋を出て、重そうな革袋を持って帰ってきた。

 そして、俺に手渡す。


「これで文句はあるまい!」


 あ、うん。

 この変態、三千万円でエロ本と下着を買いやがった。

 あー、やっぱ、この国やべーわー。


 俺は革袋を受けとると、怪しい売人っぽくコソコソと女性にブツを手渡すのだった。


▽▽▽


 その後、女王陛下の私室でお茶会という名の軟禁行為を受け、ありがたいお話を一時間くらい聞いたのだった。

 要約すると、奇行するな、魔法を学べ、歴史を知れとのことだった。

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