異世界で、王都で遊ぶ②

「お待ちぃ!」


 料理長を任せている小太りの女性が、俺たちの前にパンとフライドポテトを乗せた大皿をドンと置く。

 そして『いっぱい食べて大きくなりな』と言ってスカーレットの頭をワシャワシャと撫でると、次のテーブルに大皿を運んだ。


「アル様、これは何という食べ物で、どうやって食べるのですか?」


 ルールーが肉と野菜を挟んだ、良い匂いのするパンを夢中で見ている。


 うむ。

 そうか、知らないのか。

 では、私が最高に美味しい食べ方をレクチャーしましょう。


「これはハンバーガーという食べ物だ。こうやって無造作に掴み、大きい口を開いて一気にかぶりつくんだ」

「えっ!?」


 俺は『アムっ』と大口を開けてハンバーガーを口に放り込んだ。


「うむむむむ!?!?!?!」


 う、美味い!

 予想以上に美味い!

 何の肉かは分からないが噛んだ瞬間に肉汁が『ジュワ』と飛び出し、そのあまりの美味さに生唾が溢れ出た。

 そして、一噛み咀嚼(そしゃく)をすると葉野菜のザクッっとした食感と同時に、香草の爽やかな香りが鼻を抜ける。

 葉野菜、香草、肉のバランスが絶妙で、噛めば噛むほど旨味が増す。


 うん?

 旨味?


 いや、この奥にある旨味は肉と野菜だけではない。

 なんだ?


「あっ!」


 カイトがドヤ顔でこっちを見ている。


 くそっ。

 アイツやりやがったな。


 ピクルスの代わりに浅漬けを入れたのか。

 しかも、食感を損なわないように、輪切りではなく、みじん切りにしている。

 この細かな気配りのおかげで全てを飲み込んだ後、舌の上に発酵食品特有の芳醇な味わいが最後に残り、もう一口食べたいという欲求を駆り立てる。


 悪魔的食べ物だ。

 カイトはきっと時代を間違えたな。

 世が世なら、三ツ星を十年連続獲得できただろう。

 


「よ、よし。僕も!」


 俺に続いてスカーレットが大きい口を開けてハンバーガーをパクついた。


「う、美味いぞ! す、すごく美味いぞ、ルー!」


 感動したスカーレットにつられて『で、では私も』とルールーが恥ずかしがりながら小さく口を開け、ハンバーガーを口に入れた。


「!?」


 ルールーが目を見開いて固まった。


 あまりに動かないから口に合わなかったのではと心配になり、声を掛けようとしたらルールーは急に動き出し、ハムスターが必死に餌を頬張るように小さい口を一生懸命動かしてハンバーガーを食べ進めた。


 今まで見たこともない素早い動きだ。

 なんだこの可愛い生き物。

 食べ方も可愛いってどんだけスペック高いんだよ。


 最高に可愛いルールーを眺めていると、給仕の女性が『遅くなりました、会長』と白い飲み物を運んでくれた。


 そうそう。

 これこれ。

 これでハンバーガーの最高に美味しい食べ方が教えられる。


「ルー、実はハンバーガーはパン、ポテト、飲み物の順番で食べると最高に美味しいんだよ」

「そうなんですか!?」


 ハンバーガーを持ち、口元を汚してキョトンと俺を見ているルールーが堪らなく可愛い。

 いつまでも見つめていたかったが断腸の思いで諦めると、『こうやるんだよ』と実演してみせた。


 ルールーも俺を真似して、パン、ポテト、ドリンクの順番で食べたが、飲み物を一口飲むと、また、フリーズした。


 まあ、そうだよな。

 衝撃的だよな。

 前世のシェイクには届かないけど、確かに美味いよ、これは。

 カイトが再度、ドヤ顔でこっちを見ているのもうなずける。


 この飲み物、口に入れた瞬間はドロっとした甘ったるさを感じるが、飲み込むと清涼感が口いっぱいに広がる。

 多分だが、牛の乳に砂糖、ヨーグルト、酸っぱい果実の汁を混ぜた飲み物だろう。

 飲むヨーグルトみたいな感じだ。

 それを氷室から出した氷でキンキンに冷やしたから更に清涼感が増し、口に残った油っぽさを一気に洗い流してくれる。


 ルールーがもう止まらないって感じで、パン、ポテト、ドリンクのゴールデントライアングルを永久ループさせる。

 その姿に見とれていると、ピーターに話を振られた。


「なあ、アル。今日は何しに来たんだ? まさか、朝食を食べに来ただけじゃないよな?」

「あっ、しまった。忘れてた。そうだよ、この二人の服を作って欲しくて来たんだった」

「なんですって!?」


 かつて下着製作でリックと揉めていた中年女性が机を『バン!』と叩いて立ち上がった。


「この、絶世の美少女二人に服を作るんですか、会長?」


 あっ。

 やっべ。

 俺とは違う種類の変態に火を点けてしまった。


「どういう事ですか、詳しく説明して下さい!」


 中年女性の側で朝食を食べていた、下着開発チームの女性達が一斉に立ち上がった。

 目が血走っているぞ。


「お、おう…えっと、だな。みんな、仕事は全て中断していいから、今日中に二人の服を作ってくれないかな…なーんちゃって、テヘペロッ…」


 開発チームの女性達がワナワナと震えたと思ったら、『ご褒美キターーーー!』と絶叫しながら、食事中のルールーとスカーレットを目にも止まらぬ速さで拉致していった。


「あーあ。あの二人、これから大変だぞ。どうすんのアル?」

「ま、マズイかな、カイト…どうしよ…」

「多分、型紙採れば解放してくれるだろうから、終わったら何か喜びそうな物でも買って、謝れば?」


 いや、それが分からないから困ってここに来たのに、これでは本末転倒だよ。

 はーぁ…


「おっ。アルも時間が空いたみたいだな。だったら、溜まってる仕事手伝ってくれよ」


 そう言ってニコニコ笑うピーターに俺も拉致されたのだった。


 

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