異世界で、王都で遊ぶ①
エロ本、いや、試作のカタログを隠し持っていた事が美少女二人にバレてから、部屋の中が険悪な雰囲気となってしまった。
これではマズイと思い、最年長のカレンにアドバイスを受けると、『こういう時の女性には好きな物を贈ると機嫌が治るのです』と言われた。
生前、病院暮らしだった俺には何をプレゼントしたら女の子が喜ぶかさっぱり分からない。
それならいっそ、王都を一緒にふらふらして、欲しい物を買うスタイルにしようと決めた。
学園には三人の外出許可を貰って、昨夜から寝台馬車に揺られている。
貴族が長旅する用の高級馬車だが、寝心地はあまり良くない。
ルールーや俺は寝たような寝てないような感じだったが、案の定スカーレットは爆睡していた。
四次元空間を転移すれば一瞬で移動できるが、しょうがない。
こういう不便な三人旅をしたという思い出は、いつか思い出して懐かしい気持ちになるのだろう。
馬車に揺られて朝日が出始めた頃、王都が遠くに見えた。
「ひっさびさの王都だなー」
スカーレットが伸びをしながら感慨深く王都を眺めた。
ルールーも嬉しそうに窓の外を眺めている。
王都を離れて数ヶ月しか経っていないのに、二人ともまだまだ子供だな。
「この時間なら朝食に間に合うな‥」
「朝食? アルがおすすめする庶民の店でもあるのか?」
「店っていうか、うーん。店か?」
「アル様。私、城下で食事をした事が無いのですが、大丈夫でしょうか?」
あー。
そうだよな。
二人はいつもフランス料理みたいなコース料理を食べてるんだっけ。
うーん。
貴族も使ってる食材だから問題無いと思うのだけれど…
「庶民は大皿から好きな量を取って食べる形式なんだよ。俺たち三人で一つの皿を分け合うようにはするけど、大丈夫?」
「どなたかが配膳するのではなく、自分で取るのですか? それは是非やってみたいです!」
黒髪碧眼の美少女が興味津々といった感じでグイっと俺に顔を近づける。
いやさ。
可愛すぎだろ?
エロ本の事を問い詰める時は『悪魔か?』と思ったけど、やっぱりルールーの可愛さは突き抜けてる。
アイドル並みだ。
「僕はお腹ぺこぺこだから何だっていいぞ!」
うん。
お前には聞いてないから。
そんな話をしていると、馬車は王都に入り、スラム手前にある我が工場の前で停車した。
「知らない門番だな。スカー、念のため槍を持ってくぞ」
「危ないのか?」
「いや、大丈夫だとは思うけど、見たこと無い奴だからな」
「よし、わかった!」
俺とスカーレットが槍を持ち、先行して馬車を降りると、二人の門番が俺たちを威嚇してきた。
「あーん? お貴族様のガキが何の用だ?」
「ここはガキの遊び場じゃないんだよ、帰ーれ!」
あー。
うん。
我が商会は従業員の教育がなってないな。
俺は無言で門番のみぞおちを槍で突いた。
「ぐぇへええっ」
門番の一人が痛みを堪えきれずに地面に倒れた。
「な、何しやがるんだ!」
「セイっ!」
スカーレットも俺に合わせて、残った門番の腹を槍で突いた。
「痛ぇええええ!」
「アル様! スカー! 何やってるの!」
もう一人の門番が地面に転がると同時に、ルールーに睨まれる。
すると、騒動を聞きつけたのか工場の中から筋骨隆々の男が扉を開けてヌルッと顔を出した。
「うるせぇな、朝っぱらから。何事だよ。ゲっ!? 会長!?」
「ゲってなんだよ、ゲって?」
「い、いえ、すいやせん。まさか、会長が正面から来るとは思っていやせんでした」
「か、会長?」
倒れていた門番達がゆっくりと体を起こした。
「おう、このお方が俺たちの頭、会長殿だ! お前らよーく覚えておけよ!」
「そうだったんですか。し、失礼しやした…」
「すいやせんでした…」
門番二人がうやうやしく頭を下げた。
うーん。
今回は良いけど、社員教育がこれからの課題だな。
「しかし、会長も良くないですぜ。むやみやたらに槍を突かないってカレンの姉さんと約束したじゃないですか。まったく、これは俺が預りやすね。お嬢様ちゃんも、こんな物騒な物持って入って来ちゃダメですぜ。おいちゃんが預りま…え!? お嬢ちゃん!? えーーーーーーーー!?」
急に絶叫した筋骨隆々のロッド人が『こいつは大変だーーーー』と槍を持って大慌てで工場の中へと消えた。
まったくもって騒がしい。
「あはは。アルの仲間は変な人ばっかりだなー」
「そうですね。皆さん面白い方ですね」
「ゴメン。なんか、うるさい奴ばっかりで」
我が商会の非礼を恥ながら、俺は工場の奥へと二人を案内する。
すると、さっきのロッド人がリックの子供のピーターとその友達のカイト、食堂にいた全員を引き連れて、再び俺たちの前に現れた。
「な、俺の言う通りだろ?」
「ほ、本当だ…アルが…アルが…」
「待ってよピーター。そんはなずないよ、だってアルだよ?」
「そ、そうだよな。アルが女の子、しかも二人も連れて来るなんて奇跡が起きるわけないよな?」
「そ、そうだよ。そうか、分かったぞ、アル! さては奴隷を買ったな? 最低だよ!」
集まった二十人くらいからは『ど、奴隷!?』、『私達が稼いだお金が…』、『会長をこんな不良に育てた覚えはありません!』、『会長の事だから絶対に奴隷ハーレムを作る気よ』、『そうね。下着ハーレムよきっと。職人として腕が鳴るわね』など、各々好き放題言っている。
「えーと。お、お前らさ…俺の客人に対して失礼だぞ。なんか勘違いしているみたいだけど、この二人は正真正銘の貴族さまだ」
ちょっと怒り気味にそう言うとピーターがやさぐれた目をして一歩踏み出した。
「ふっ。バカだなアル。俺は何回も貴族と取引したから知っているんだ。俺たちみたいな庶民を、お貴族様の子供がこんなニコニコした顔で見るわけないだろ? 貴族っていうのはな、庶民をゴミのように扱うのが普通なんだよ!」
ピーターの言葉に全員がウンウンとうなずいている。
おいおい、性格がちょっと歪んでないか?
老舗商人の跡継ぎ、マルコ・ファイザーから浅漬けの仕事を受けているせいなのか?
だとしたらピーターも苦労してるんだな。
まあ、それはそれとして、困ったな。
話が進まないぞ。
途方に暮れていると、ニコニコしていたルールーがキリッとした表情をして皆の前に歩み出た。
「皆様、アル様の言う通り、私はミルド国の貴族です。宰相、ジェリコ・アイリスの第二子、ルールー・アイリスと申します。どうぞお見知りおきを」
ルールーがスカートを摘まんで会釈した。
女神降臨。
その動作は流れるようだった。
ルールーの挨拶が終わるとスカーレットも前に出た。
「えっと、僕はスカーレット・クルーガー。ダリュー・クルーガー伯爵の娘だけど、妾(めかけ)の子なんだ。だから本物の貴族じゃないっていうのは、その通りかも。でも、皆と同じでアルの仲間だよ、宜しくね!」
スカーレットは胸に手を当て会釈した。
その仕草にレースの開発を任せているババ、いや、お姉さん達が目を輝かせていた。
あの動作は男性のする略式の礼って事もあり、なんか宝塚の男役って感じするもんな。
スカーは同性受けが良さそうだ。
「あ、アルが普通の子供みたいに同世代の女友達を作るなんて…」
「そうだねピーター…アルが真人間みたいだよ…」
ピーターは驚愕し、カイトは涙ぐんでいる
うん。
あのさ…
「確かに今まではまともに女性と話せなかったけれども、毎日同じ部屋で二人と暮らしてたら、流石の俺でも話せるようになるって」
工場の中年女性にさえ緊張してどもっていた俺が、この二人のおかげで今は段々と改善してきた。
俺だって成長をするのだ!
「カイト…学園って凄い所だな…」
「そうだねピーター。勉強だけじゃなくて、人として大事なことを教えてくれるんだね…」
後ろの群衆からも『あの会長が普通の子供みたいだ…』、『奴隷ハーレムを作らなくてもいいんだよな?』と言って涙をすする音がしたが、次第に『会長の真っ当な成長を祝おう!』、『そうだ、宴会だ!』という声が上がり、俺たち三人は担がれるようにして食堂へと連れて行かれたのだった。
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