異世界で、美少女にエロ本が見つかって怒られて泣いた
俺は今、学園の自室で冷たい床の上に座っている。
この異世界にこうした文化があるのかは知らないが、いわゆる正座ってやつをしている。
そう言えば昔、リックの息子のピーター達にも正座をさせた事があったっけ。
歴史は繰り返すと言うか、この場合は因果応報と言うべきか…
「どういう事ですか、アル様!」
「そうだぞ、アル! なんだコレは!」
黒髪碧眼の美少女が俺を見下ろし、銀髪で赤目の中性的美少女が薄っぺらいカラー刷りの本を俺の目の前にバシっと投げ捨てた。
本は床に叩きつけられた衝撃でページがパラパラとめくれて丁度中間に当たるページが開かれた。
理知的なお姉さんが下着を脱ぎながら誘惑しているページだった。
「な、なんて格好…」
「うっわ…」
黒髪の美少女は目を覆い、銀髪の美少女は俺を非難する目で睨んでいる。
五歳児の美少女二人が、本気で引いている。
えーと。
何故こんな事になってしまったのだろうか。
だが、元日本人の俺にやれる事はたった一つだ。
俺は背筋をピンと伸ばすと両手を膝の上に乗せる。
そこで少しの沈黙の後、両手を床に向けてゆっくりと降ろしながら腰を曲げた。
日本古来の謝罪方法、DOGEZAを流れる動作でやってやったのだ。
「ゴメンなさい…」
「いえ、謝られても困ります、アル様…」
「そうだぞ、アル…」
さすがは異世界だ。
元の世界だったら大抵どうにかなるDOGEZAが全く通用しないとは。
いつもは天使のスマイルをするルールーが、氷のような笑顔を浮かべ俺を追い討つ。
「これは何ですかと聞いているのですよ、アル様」
て、丁寧な口調が余計に、こ、怖いんですけど…
やばい、俺、死んだな、今日。
「アル、ルーも私も怒ってる訳じゃないんだよ? 隠し持っていたコレが何か説明して欲しいって言ってるんだよ?」
スカーレットは怒っていないと言いながらも練習用の槍でエロ本をガスガスと突いている。
お、俺の宝物をそんな乱暴に扱わないでくれ。
もう半泣き状態だった。
「これはアレ…です…」
「アレ?」
「アレって何だ、アル?」
さっき怒ってないって言ったのに、二人とも眉間にシワを寄せて顔を近づけて来ないで欲しい…
いや、でもさ。
そもそも、俺にやましい事なんて無いから。
確かにエロ本を隠し持っていた事に関して悪いと思うけれど、これは商品なんだし。
我が商会の野郎達が持てる技術と情熱を注ぎ込んだ最高の一品だし。
恥じる事は無い。
堂々としよう。
そして、本当の事をゲロってこの窮地を脱しよう。
「こ、コレは下着のカタログです…」
「かたろぐ?」
「ナンだそれ!?」
二人が半眼で俺を見ている。
む、無言の二人が怖い。
だが、俺は勇気を振り絞って話を続けた。
「俺たちが売っている下着の販売促進を目的した本…この下着を着ると、こんなに綺麗になれますよって感じの見本だ…いや、見本です…」
相変わらず無言で向けられる冷たい視線が心に痛い。
しばらくの沈黙の後、ルールーが口を開いた。
「本の用途は理解しました。しかし、綺麗な姿を見せる為なのに、この女性に卑猥な格好をさせているのは何故ですか、アル様。答えて下さい」
無表情のルールーがド正論の質問をしてきた。
「あ…えっと…あ、あれだ…この本は試作品でだな…実際はこんな卑猥な本にならない予定です…」
「なるほど、失敗作の試作という事ですね、アル様?」
「あ、はい…」
「じゃあ、要らない物って事で良いよな、アル?」
スカーレットが再びエロ本を槍でガスガスと突いた。
や、やめてくれ…
なんでスカーレットはこの本が…
何故、そんなに憎いのだ…
モンスターを退治するみたいに何度も攻撃しないでくれ…
これは失敗作なのだが…
俺にとっては完成品なのだ…
そんな心の声が届かない、アイススマイルのルールーが矢継ぎ早の詰問を浴びせた。
「ゴミ、という事で宜しいですね、アル様?」
「あ、え、と…」
「あ、えっと?」
「その通りです…」
「その通りとは?」
「ご、ゴミです…」
「なるほど。では、アル様は、あまりに卑猥なゴミの為、処分に困って隠されていた、という事ですね?」
「えっと…」
「えっと?」
「あ、はい…」
「そうですか。分かりました。スカー、ソレは処分に困るゴミだそうです」
「へー。そうか。ゴミなら燃やさないとな、火球!(ファイヤーボール)」
「あっ!?」
スカーレットが生み出した無慈悲な業火がエロ本に直撃した。
エロ本は油性インクを使っている為か、あっという間に燃えだした。
「あぁ…」
俺は四つん這いになり、灰となってこの世から消える性典、いや、聖典を泣きながら眺めていた。
そして、そんな俺を二人の美少女が無表情で見下ろすのだった。
▽▽▽
エロ本、いや、カタログ本は美少女二人には不評だったが、金貨三枚という高値にも関わらず飛ぶように売れた。
派手に出回ったら、また、お母様や第一王子に怒られると思ったが、その心配は無用だった。
続編を望む多くの貴族が販売元のリックの立場を保証したのだ。
これは決して卑猥な本ではない。子作りの為の妙薬だと。
九割を越える貴族の支持を得た商売を批判する事は誰にも出来ない。
例え女王だとしてもだ。
だが、この日以来、どこかでカタログの言葉が聞こえる度に、ルームメイトである二人の美少女に怒られるようになってしまった。
今回の事で俺は学んだ。
『エロ本は何処に隠しても絶対女性に見つかる』
今後の良い教訓となったのだった。
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