異世界で、サッズVSハイネ

 ハイネは息つく暇も無く、サッズを攻撃している。


 短剣の素早い動きに槍でよく対応できるものだなと見ていると、攻めあぐねたハイネが大きく距離をとった。

 そして、短剣を納めると、腰に差した長剣(ロングソード)を抜く。


「まさか人間相手にコレを使うとは…」

「おお! カッコいい!」


 どういう原理か分からないけど、剣が赤い炎に包まれ、火の粉が舞っている。


 これですよ、これ。

 俺が何度チャレンジしても出来なかった、炎の剣。

 これぞ異世界って感じがする。


「死んでも知らんぞ人間?」

「それはそれは。楽しみですな」


 ハイネは走りだすと、その体が階段を駆け上がるように宙へと浮いた。


「飛んでる!?」


 いや、圧縮した空気だろうか。

 それを足場にサッズの頭上へ駆け上がっている。

 そして、体を反転させると、急降下しながらサッズに向けて炎の剣を振る。


「くらぇええええ!」


 奇をてらった攻撃にも、サッズは後退する事で冷静に対処する。

 しかし、ハイネはまるで追尾型ミサイルのように、空気を蹴ってサッズを追いかけた。


「逃げられると思うなぁあああ!」

「セィイヤァアアアア!」


 サッズは咆哮を上げると、迫る炎の剣を力任せの槍で払う。

 矛先は炎の熱でグニャリと曲がったが、お構い無しで力いっぱい振り切ると、カイネの体が遠くへ弾き飛ばされた。


 ハイネは老人が放った強引な攻撃に苦笑いしながらも、空中でクルリと一回転して着地した。

 サッズは距離が取れた事を確認すると『冷や汗が出ましたな』と火の粉が付いて燃え始めた上着を脱ぎ捨てる。

 白髪からは想像も出来ない、筋肉質の体が現れた。

 そして、原型を留めていない穂先の槍を一度素振りし、バランスを確かめた。


「おい、そんな槍では勝負にならんぞ?」

「いえいえ。どうぞお構い無く」


 サッズはハイネに向けて『クイクイ』と手招きして挑発した。


「ふん。その慢心を悔いて死ぬがいい。我が最高の剣で終わりにしてやる」

 

 ハイネが大きく上段に構えると、剣は先程より一回り大きい、一メートルほどの火柱が上る。

 そして、空中を一歩一歩駆け上がると炎の剣はその大きさを増し業火となった。


「くらえぇえええええ! 獄炎剣(レッドホッドブレード)!」


 活火山が噴火した時に放出される溶岩みたいに、炎の塊が上空から降り注ぐ。

 炎は地面に到達しても勢いを弱める事はなく、辺り一面があっという間に火の海になった。

 そして、火山の中心にある一際大きな火柱が今、サッズに向けて襲いかかる。


「これで終わりだぁあああ!」


 いやー。マジで。

 あんな攻撃、人間には対処不可能だろ。

 逃げ場も無いし、サッズでもヤバいかな?


 助太刀しようかと表情をうかがうが、すごーく楽しそうだ。

 目は少年のようにキラキラしてる。

 うん。やっぱり無用な心配だった。


 サッズは降り注ぐ炎を最小限の動きでかわすと、炎の塊となって迫るハイネに槍を合わせる。

 槍と剣が交差して『カン!』という金属音がしたと思ったら、炎が槍先を容易に溶かし、勢い新たにサッズへ迫った。

 

「死ねぇええええ!」

「え!?」


 ハイネの強烈な一撃が振り下ろされたが、何故か空を切り『ドン!』という衝撃音と共に地面へ叩きつけられた。

 先程までハイネに対峙していたサッズが居ない。

 消えてしまった。


「痛ぇええええええ!」


 サッズの姿を探していたら急にハイネが絶叫し、剣を投げ捨てると右肩を押さえて膝をついた。


「なるほど、なるほど。殿下が苦労された通り、コヤツもなかなか硬い体をしていますな」


 地面では未だに炎がくすぶっているが、老人は涼しい顔をしてハイネの後ろに立っている。

 しかし、頬や体は煤だらけで、火傷のような生々しい傷もいくつか見え激戦を物語っていた。


 サッズは、もはや槍の原型を留めていない、ただの棒をハイネの後頭部に突きつける。


「決しましたかな? それとも続けますかな?」

「…俺の…負けだ…」


 そう呟いたハイネに向けて、サッズはニカっと笑った。


「噂に違わぬ、強烈な一撃。死を意識したのは久方ぶりでしたぞ。屈強な魔族の戦士カイネ、その強さに感服致しました」

「私も人間だからと侮っていた非礼を詫びよう。貴殿の人ならざる動き、そして、攻撃、参りました…」


 サッズが手を差し伸べると笑顔のハイネが手を取り立ち上がった。


 あー。

 ハイネの奴、その手を掴んだかー。

 あー。うん。

 先輩から一言贈ろう。

 なんか、頑張れ!


 サッズはハイネが素直に敗北を認めた事に感心したのか、うんうんと二度うなずいて話を続けた。


「ハイネ殿の攻撃は素晴らしいのですが、威力に重きを置くことで折角の剣速が生かされていないように思えます。バランスが悪いとも言えますな」

「そ、そうですな。我流の剣ゆえにそのような、欠点があったのやもしれません」

「うむ。分かって頂き、苦言を呈した甲斐がありました。では、それを踏まえ、もう一槍!」

「え!?」


 ハイネがこの爺、『何言ってるの?』みたいな顔をしている。

 うん、うん、分かる、分かる。


「ああ、武器の事ですな。矛先は無くなりましたが、まだ十分使えますので、ご安心く下さい。さあ、参りましょうぞ!」


 サッズはやる気満々だったので、雰囲気に飲まれたハイネもとりあえず構えた。


 うんうん。

 これ、長くなるヤツね。

 僕は関係無いですから。

 違うグループの人達ですから!


 俺は二人と距離をとり、仮眠用に設置していたソファーに座ると、学園で出された課題にとりかかった。

 何か近くで『カンカン、カンカン』鳴っているが、気にしたら負けだ。

 それから僕は男性の悲鳴を聞きながら、一時間ほどお勉強したのだった。

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