異世界で、魔族と言えば巨乳

 目の前に三人の魔族がいる。


 魔族と言っても、頭に付いた巻き角(つの)以外は人族と変わらない。

 前世で想像されていたような口が裂けていることも無く、翼も生えていなかった。


「そう身構えるな。いきなり取って食ったりはせぬ」

「え!」


 中央の女性が腕組みをすると、とある事実に直面した。


「どうしました、殿下?」


 あれ?

 いや、そうだよな?


 中央の女性は腕組みをしているのでは無く、豊満な胸を持ち上げている事態に気づいてしまった。


 うわー。

 マジか。

 スイカが二つ並んでるよ。

 め、目のやり場に困る…


 異世界の女性は綺麗な人が多いが、体型は細身の人が多い、いや、スリムな人だけだった。

 その為、目の前の女性のようなグラマーな方は初めてお会いした。


 いやー。

 どうしよ。

 交渉しなきゃいけないのに、困った。


 魔族の人は全員が大きい一族なのだろうか。

 一歩前にいる女性も、メロンが二つ並んでいる。

 チェリーな俺では刺激が強すぎて、目のやり場に困ってしまう。


「どうした、顔色が悪いぞ?」


 中央の女性は前屈みになると、その豊満さが余計に強調された。


 いやー。

 だからさ。

 なんで、グラビアポーズとかするかな。


 俺は天井を眺め、シミを数えて心を落ち着かせた。


「おい、なぜ先程から目を反らすのだ。はっ! そうか、すまぬ。こちらの名乗りがまだだったな」


 中央の女性が勘違いすると、慌てて居住まいを正したので、俺は正面を向いて邪念を振り払う為に目を閉じた。


「我が名はカレン・マッケンシー。悠久の時を生きる真の魔族だ」

「うむ。ミルド王国第五王子、アルバラート・ミルドだ」

「そして、私はしがない老人、サッズ・グリモールと申します」


 カレンが「さあ、お前たちも」と二人を促した。


「ハイネ・マッケンシーだ」

「マリア・マッケンシー」


 ぶっきらぼうに二人が名乗った。


「では、早速だが…うん? まだこちらを見てくれんのか?」


 ええ。

 巨乳が邪魔して見れないんですよ。

 困ったな。

 あ、そうだ!


 前世で雅(みやび)な人は、直接庶民と話さなかったと聞く。

 俺も古人に習い、サッズに伝言してもらう事にした。


 俺はサッズを呼ぶと、耳打ちをする。


「ほう、さすがは殿下。直接話せば、きゃつら言霊を使って呪ってくるやもしれませんからな。そこまで見越す周到さに感服致しました」


 うん。全然違うけどいいや。

 俺はサッズにゴニョゴニョと耳打ちをする。


「カレン・マッケンシー、貴女が移民のとりまとめ役で間違いありませんね、と申されている!」

「う、うむ。そうじゃ。しかし、何故直接話さないのだ?」

「殿下程の御身ともなれば、言葉尻一つ誤る事が出来ぬ! それ故、代弁しておるのだ!」

「う、うむ。王族というのも、なかなか窮屈なものなのだな」


 サッズが適当にごまかしてくれた。

 おっぱいをガン見しちゃうからなのに。

 なんか、二人ともゴメン。


 とりあえずサッズに耳打ちし、言葉を伝えて貰った。


「我々は移民を今以上に雇いたい。その助力をして貰えるのならば、魔族の衣・食・住を商会で提供しよう、と申されている!」

「うむ。ありがたい申し出だが、我々も魔族としての矜持(きょうじ)がある。タダで施しを受ける訳にはいかない。そこで、この二人の武力を貸そう。そして、私は知恵を貸そうではないか」

「ほう、武力ですか…いったい、どれ程の腕前なのでしょうな」


 ハイネが『なんだと、人間風情が!』と身を乗り出したので、カレンが右手を小さく上げて制止する。


「魔族の魔力と筋力は、人間と比較にならない程強い。いくら貴殿が武勇に優れていても、歯が立たないであろう」

「ほう。それはそれは楽しみですな。殿下のお役に立てる程の力があるのか、早速試してみましょうぞ、と申されている!」


 いや、全然申してないし。

 途中から、ほぼサッズの言葉だし。

 俺の意見は全く反映されてないし。


 なんで俺はこんな爺を連れて来ちゃったんだろ。

 まあ、来るの断れなかった時点で、バトルのフラグが確定していたけれども。

 あー、戦いたくねー。

 必要性を感じねー。


 カレンが俺を見ると意味深な事を言う。


「そうか…殿下とマリアには因縁がある。今後を考えれば遺恨は残さない方が良かろう」


 さっきから気になっていたが、マリアという魔族が俺をずっと睨んでいる。

 なんだろ。

 スカーもそうだけど、女性の腕自慢限定で発動するヘイト能力があるのかな。


 そんな事を考えていると、マリアが顔にかかっていた前髪を掻き上げ、恨みがましく口を開いた。


「デカクなったな、小僧!」

「あっ!」


 カレンの顔半分には古い火傷の跡がある。

 それよりも、この背格好、この動き、この感じ。

 赤ん坊の俺を殺しに来た奴だ…


 あの時の恐怖がよみがえり、俺の顔は真っ青になってしまった。


「大丈夫ですか、殿下?」

「ああ、サッズ、コイツあの暗殺者だ…」

「ほう。それはそれは。報復の良い機会ですな。今夜からは寝つきが良くなるやもしれませんぞ?」


 そう。

 コイツのおかげで、未だに夜眠れないし、うなされて起きしまう。

 ずっとコイツの幻影に脅えて、ひたすら体を鍛えたし、血を吐きながら槍を振った。


 コイツの顔を見ると段々と怒りが込み上げてくる。


 おっぱい<怒り=ぶっ飛ばしてやる!


 という数式が成り立った。


 魔族二人を見ると短剣を構えて、すっかり臨戦態勢だ。


「もはや問答無用ですな、殿下」

「ああ…開け、次元B…」


 俺たちの足元に黒い霧が広がると、四人の体を渦潮のように飲み込んだのだった。

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