異世界で、パンツは透け透けが喜ばれる

 最近の俺は、結構忙しい。


 朝、王城でサッズ達と槍を振って、王都のパーク商会で朝飯を食べながらの打ち合わせ。

 それから学園に行き、昼過ぎからはクリフと馬に乗ってルーベン領を目指す。

 夕方からはパーク商会で夕飯を食べて、学園に戻ってスカーと槍を振ってから、翌日の授業の準備。夜はクリフと剣術を稽古してから四次元空間へ入って就寝だ。

 

 結構なハードスケジュールをこなしている。

 でも、全部好きな、やりたい事をやってるので、ちっとも嫌じゃない。


 睡眠時間を四次元空間でとっているのも大きい。

 実質は零時間だし。

 普通の時間に寝ないと深夜が結構暇で、クリフと話し込んだり、ピーター達と王都を散策したりと、好きに遊んでいる。


▽▽▽


 学園に入学して三日が経ち、最初の休日が訪れた。


 せっかく時間が出来たので、俺は溜まりに溜まった商会の雑事を片付けようと、王都にあるパーク商会の工房へとやって来た。

 この工房はロッド王国の移民が不法占拠しているスラム街の一角にある。

 ロッド人を雇う事を条件に、住居を更地にしてから突貫工事で簡単な建物と工場を作ったのだ。


「だから、布地の部分なんていらないんだよ! パンツは透け透けの方が男は喜ぶの! なんでわからないかな。そんな生地だらけのパンツじゃ興奮できねーんだよ!」

「もう、このわからず屋!」


 小太りのオッサンがヒモパンツを片手に、ロッド人の中年女性に向けて卑猥な言葉を連呼している。


 うん。王都の衛兵は何をやってるんだ。

 この変態を早くタイーホしろよ、まったく。

 俺は街の風紀を守る為、変態を槍で退治してやった。


「いてぇええええええ! 何しやがんだって、殿下じゃないや、会長!」


 いや、だから。

 人前で殿下って言うなって教えたよね?

 何で言うかな…


「いてぇええええええ! いてぇって! なんでいつも無言で槍を突いてくるんだよ?」


 あ、しまった。

 また、しゃべるの忘れてた。

 すまん、すまん。


「会長はいつも私達の味方なんです、ねぇ~」


 中年女性が俺に巻きついてきて嫌だったので、するりと腕から逃れ、パーク商会を任せている会頭のリックの側へと移動した。

 そう。誠に遺憾だが、この変態がこの商会の会頭なのだ。


「久しぶりに顔を出してみれば、喧嘩してるとは。まったく…要は、装飾を優先するか、機能を優先するかって事だろう?」

「まあ、そういう事だ」

「なら、高級なパンツは今まで通りの開発速度で行こう」

「ほら見ろ。やっぱり会長は俺の味方だな。商売を分かっている」


 リックが偉そうに腹を出したのでイラっときたが我慢した。


「ただし、機能性を重視したパンツの開発もできる範囲で進める。例え最初は利益が出なくても、庶民の女性の為に作り続けるつもりだ。俺達のパンツを履く事が習慣化するまで、そして、パーク商会と言えば女性の味方と言われるまで、やろう!」


 中年女性は俺の言葉に感じる物があったのか、『会長、だ~い好き!』と頬に口づけをして、ハイテンショで作業へと戻っていった。


「会長、この忙しい時に…」

「リック、分かっていると思うが、貴族向けの高級品はいずれ頭打ちだ。それまでに庶民向けの量産品を考えないとな」

「安価な量産品か…簡単に言ってくれるよな」


 リックが不満気に頭を叩いて、難しい顔をした。

 この男、口ではそう言うが、任せておけば問題ない。

 リック・パークという奴は俺の想像を越えた結果を出す男だ。


「まあ、そんな顔するなよ。今日は一日休みだから、お前を手伝ってやれるぞ?」

「本当か! それじゃあ早速打ち合わせをしよう」


 リックは喜びながら、俺を会頭室に連れていった。


▽▽▽


 会頭室は六畳くらいの簡素な部屋で、机が一つあり、書類が山積みになっている。

 リックは重そうな身体を動かし、ゆっくり座ると書類を一枚手渡した。


「さて、まずは下着販売からだ」


 俺は手渡されら書類に目を通す。

 順調に売上が伸びている一方で、製作日数の延びが目立つ。

 注文に製造が追い付いていない状態だ。


「やっぱり、問題は人手不足か…」

「まあ、そういう事だ。キースにも言われているが、お客を待たせるにも限度はあるぜ」


 キースはそのイケメン能力を生かして後宮の侍女や貴婦人相手にパンツを売って貰っている。

 お陰で売上好調なのだが、仕入れを生業(なりわい)にしたいキースからは顔を会わせる度に嫌味を言われているのだ。


「待たせてしまっている客には、さっきの量産品の試作を配るってのはどうだろう? 生地だけで作れば短い時間で出来るんじゃないか?」

「それはいいな。得意先に配れるからキースの奴が喜ぶぞ。早速やってみる。それでだ、次は氷の販売だな…」


 リックは、最近始めた氷の販売につての資料を渡してきた。


 氷は昨年の冬、ロッド人を雇って王都の近くに簡単な溜め池を作り、製氷させた物だ。

 それを俺の次元部屋に入れて、暑くなってきた今、貴族向けに小売りしている。


「まあ、こっちも順調に儲かっていて、ロッド人の男手も足りてるんだが…」

「カイトか…商品開発と氷販売の両輪だもんな。あの性格だから文句は言わないんだろうけど…」

「バカ息子のピーターが、もうちっと成長してくれればいいんだが…」


 ピーターにはリックの下について現場との橋渡しになって欲しい。

 だが、リックは親として、そして、商人の先輩として、ピーターが成功するにしても失敗するにしても一つの事業をやり通して欲しいという思いがある。

 その為、浅漬けの事業を頑張っているのだ。


「はぁ…結局は運営側も現場も人材不足って事ね…」


 俺が盛大にため息を吐いたその時、扉がノックされた。

 リックが『入れても良いか?』と目で合図したのでうなずく。


「良いぞ、入れ!」

「失礼します」


 先ほどリックと言い合っていた、下着製作をしている中年女性が入ってきた。

 そして、真剣な顔をすると、俺に嘆願した。


「会長、私たちロッド人の移民を救ってくれませんか?」


 この一言が、俺の国作りの方向性を大きく変えたのだった。

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