異世界で、首席入学する

 ミルド王立アルディージャ学園の第一学舎講堂で入学式が行われた。


 壇上中央にビィクトリア王妃が鎮座し、その後ろに貴族連中が座る。

 生徒達は入試の結果順で椅子に座っていて、俺の隣はルールーだ。

 そして、俺達の後ろには保護者の貴族が並び、我が子の晴れ姿を見逃すまいと必死に背伸びをしている。


「首席、アルバラート・ミルド! 次席、ルールー・アイリス! 壇上にて宣誓を!」


 俺が首席と知って会場からどよめきが起きたが、そんな事は気にせず、ルールーに目線で合図する。

 そして、緊張気味のルールーを伴って、壇上にいるビィクトリア王妃の前に行くと、一礼してから胸に右手を当てた。


「「入学者代表、アルバラート・ミルド! ルールー・アイリス! 堅王アルディージャのご意志に従い、学園で良く学び、良く競う事を誓います!」」


 俺とルールーが同時に宣誓し、息を合わせて頭を下げる。

 それに応えて王妃が『誓約を違う事なく、励め、我が子達!』と言って儀式用の模造槍で俺達の肩を順番に叩いた。


 会場からは割れんばかりの拍手が起きる。

 そのタイミングでお母様に『件(くだん)の地は…』と言うと、『くどい!許す…』とちょっと怒られながらも了承を頂く。

 ルールーは『何のこと?』という顔をしたが、俺はご機嫌で壇上を後にした。

 

 宣誓式が終わると、学園長やお偉いさんの話が続き、眠くなってしまったが、なんとか耐えている内に式が終わった。

 長丁場にしびれを切らした子供達は、後ろで待つ親の所へ駆け寄ると、式や寮での出来事を口々に話しながら会場を後にした。

 身内が誰も来なかったルールーやスカーレットは、群衆から出遅れてしまい、俺と一緒に会場に残ってしまった。


 国内トップの役職に就く親をそれぞれ持っているのに、親子関係は寂しいというか、ドライだよな。

 取り残されて、ちょっと悲しい感じになったが、それを察したスカーレットが空気を読んで沈黙を破ってくれた。


「なんだよ、さっきのアルとルールーは。『良く学び~』とかってカッコつけて。アルの場合は『良く遊び~』で、ルールーは『お腹いっぱい食べます~』の方が合ってるのに」

「ちょっと、スカーレット! やめてよ、殿下の前で! それじゃあ私が食いしん坊みたいじゃない!」

「はあ? 何言ってるんだよルールーは。いつも『お腹空いた~ご飯まーだー』って言ってるじゃないか!」


 ルールーの子供っぽい姿を想像したら、思わず吹き出してしまった。


「ルールーさんも、そんな事言うんですね」

「ちょ、ちょっと、殿下。違うんです、スカーレットが勝手に言ってるだけですから!」

「そうそう、そういう感じの方がルールーらしいよ。アルの前だと変なしゃべり方して、いつも気持ち悪いぞ!」

「もう、スカーレット!」


 なんだか可愛らしいルールーが見れて良かった。

 理性的な五歳児なんて、見てるこっちが辛いからな。


 俺達がじゃれあっていたら、講堂の入り口から、見たことのある爺さんが歩いて来た。

 すると、はしゃいでいたスカーレットが急に黙り、爺さんの到着を直立不動で待ち構えた。


「どうしたんだ、スカー?」

「そ、そ、そ、槍神(そうしん)さまだ…」


 ああ、そうか。

 槍で身を立てようって奴にしたらサッズは雲の上の人物だよな。

 中身がイカれた戦闘民族だと知れば、考えも変わるだろうけど。


「殿下、淑女のお二人、ごきげんよう」


 え!

 マジか!

 サッズのクセにスカーを女の子と認識したぞ。


 俺ですら分からなかったのに、なんでサッズが見極められたんだよ?

 えっ、俺が鈍感なのか?


 軽くショックを受けた俺の横でルールーとド緊張のスカーレットがサッズに挨拶した。


「ルールー・アイリスと申します。ごきげんよう、サッズ・グリモール様」


 ルールーが華麗に挨拶をしたが、スカーレットは未だに緊張が解けない。


「わ、わ、わたすは、す、すかーれっと・クルーガーと申します。お、お会いで来て、こ、こ、こ、光栄です!」

「えっ!? スカーがちゃんと人を敬ってる? どうした?」

「う、うるさい! お前はちょっと黙ってろ!」


 俺の胸を「ドン」と殴ると、慌てて直立不動に戻った。

 うん。

 なんか新しい生き物だ。

 面白い。


「アイリス家とクルーガー家のご息女でしたか。殿下もなかなかやりますな」


 サッズの余計な一言で、ルールーは顔を真っ赤にさせて、口をパクパクさせている。

 スカーレットは意味が分からなかったのか、相変わらず突っ立ていて、チラチラとサッズを見てはニヤニヤ笑っている。


「ご学友もできたようで、爺も安心しました」

「サッズ、冷やかしに来た訳じゃないだろ。早くくれよ」

「ほう。殿下がそのように急くとは珍しい」


 早く、その手に持ってる物をくれよ。

 分かってて焦らしてるよな、サッズの奴。


「では、殿下。ビィクトリア王妃からです。おめでとうございます」


 サッズは、封蝋(ふうろう)がされた書状を手渡した。

 それを受けとり、蝋をパリッと剥がすと、文章の中身を確認した。


 うー。

 ヤバい。

 泣きそう。


 やっと手に入れた。

 皆を守れる城を手に入れた。

 ルーベンが俺の治める地であると指示したこの書状があれば、国が作れる。


 しがらみだらけのミルド王国を抜け出し、ようやく一歩が踏み出せる。

 背負ってる人達の期待に少しだけ応えられる。


「殿下、本当におめでとうございます」


 サッズが二回も言うから涙がでちゃった。

 俺は女子達に泣き顔が見られないように、急いで顔を両手で隠したが、きっと泣き声でバレているんだろうな。

 二人は何も言わずに、落ち着くのを待ってくれた。


「すまん、サッズ。ルールーさんもスカーも、待たせてごめん」


 女子二人はコクリとうなずいて笑ってくれた。

 二人ともなんて良い娘なんだ。


「殿下、私は王妃の警護に戻りますが、ご命令の通り、学園に連れて来ましたクリフを外で待たせています。どうされますか?」

「もちろん、直ぐに出発だ!」


 スカーレットが何の事だと首を傾げたが、俺は嬉しくなって走り出した。


「アル! どこに行くんだ!」

「今日は戻らないから、よろしく!」

「殿下! 明日からの授業は?」

「朝には帰って来ます!」


 俺はクリフの元へと駆け出したのだった。

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