異世界で、銀髪少女に絡まれたー1ー

 槍の試験で受けた傷の手当が終わり、俺は指定された寮の部屋へと向かった。

 入学式や授業の開始は、まだ十日ほど先だが、入寮は先行して今日から行われるのだ。

 寮の部屋は、学園への寄付金額に応じて広さが決まり、大貴族は豪華な部屋で、下位貴族は相部屋という感じ。

 俺はどうせ一人ぼっちで、でっかい部屋だろうと思いながら自室に着くと、扉を開けた。


 すると、奴と目が合った。

 銀髪の奴だ。


「あ!」

「あっ!」


 とりあえず、無言で扉を閉めた。

 すると、ドタドタと音がして部屋の中でなにやら声が聞こえたので、とりあえずドアノブをしっかり握り、扉が絶対に開かないようにした。

 しかし、恐らくは奴だと思うが、ドアノブをガチャガチャと回してこじ開けようとしたり、扉に体当たりしたりと、猛獣のように暴れている。


 うん。

 やっべ。

 部屋間違えた。


「おい! 貴様の部屋はここだ! 早く入って来い!」


 部屋の中から大きい声がする。


 うん。

 あってるの?

 まじか…


 観念した俺は少し扉を開けて中を覗くと、銀髪の美少女が、かつてのヤンキー漫画のように眉間にシワを寄せて全力で睨んできので、そっと閉めた。


「なんなんだ、あいつは! 人をバカにするのも大概にしろ!」

「もう、スカーレットが怖い顔するからでしょう? ちょっと代わって」


 うん?

 なんか聞いた事がある、美しい声がしたぞ。

 なんだ?


 すると、ドアが優しくノックされた。


「殿下、私です。ルールー・アイリスです。スカーレットが大変な無礼をしましたが、どうぞお許しください。人目もありますから、中でお話をさせて頂けないでしょうか?」

「ルールー。なんだ、そのしゃべり方は…気持ち悪い…」


 いやー。

 まじか。

 天使と悪魔が共生する部屋か…

 あんまり開けたくないな…


 だが、あの黒髪の美少女に頼まれたら拒否権はない。

 しょうがない、入るか…


 俺はゆっくりと扉を開けると、黒髪の美少女が迎えてくれた。

 部屋を見渡すとベッドが三つで、ここには三人。

 自分の私物が部屋の隅に運ばれていて、本当に、ここが俺の部屋だった。


 部屋の中央にはテーブルがあって、スカーレットが槍を置いて不機嫌そうに座ると、ルールーも続いた。

 俺は色々と混乱していたが、二人に習う事にし、席についた。


「殿下、我が友、スカーレットの無礼を改めて謝罪します」

「あ…友達なんだ…」

「ふん。ルールー、こんな卑怯者に謝る必要なんてない! しゃべるだけで口が腐るぞ!」

「スカーレット! 殿下にそんなことを言ったら捕まっちゃうのよ? 貴方がいなくなるのは、私は絶対に嫌なの。ねえ、お願い。謝って」

「…」


 ルールー・アイリスが上目遣いに涙を貯めて、スカーレットに懇願する。

 美少女にこれをやられたら堪らないな。

 胸がキュンしちゃうから、あんまり見ないでおこう。


 しっかし、もう一匹のウルフは何でこんなに絡んで来るんだよ。

 俺、何かしたか?

 あ、スッ転ばしたんだった。

 ルールも知らずに瞬殺しちゃったからな。

 ちょっと罪悪感あるな。


 スカーレットは相変わらず俺を睨んでいる。

 子供だし、先に謝るのはプライドが邪魔して難しいのかも。

 大人な僕から謝ってあげるか。


「先ほどの件は悪かった。あまり槍術に詳しくないんだ」

「知るか! ばーか」

「スカーレット!」


 うーん。

 いい加減、温厚な僕も限界あるよ。

 悪い子はお尻ペンぺンしちゃうよ?


「あのさ…お前って自分が強いと思ってるだろ?」

「当たり前だ。私は今まで誰よりも槍を振ってきたからな」


 スカーレットが嬉しそうに槍を撫でた。

 よっぽど槍が好きなんだろう。

 別に褒めてはないが。


「だったら、これから俺と槍の試合をしろ。それで君が勝ったら何でも言う事を聞いてあげる」

「本当か!! 絶対に何でもだからな!」

「ああ、わかった」


 こういう輩(やから)は格付けを済ませば大人しくなるだろう。

 世の中には自分よりも強い奴なんて一杯いる。

 その事実を早めに教える事は、この子の為だ。


 心配するルールーを横目に俺達は裏庭に向けて歩き出した。



▽▽▽


 寮の裏には、色とりどりの花が植えてある西洋式の庭園がある。

 そこには子供達が遊べるような、ちょっとした空き地があって、槍を振り回すには十分なスペースだ。


 俺とスカーレットは向かい合い、それをルールーが心配そうに見つめている。

 俺は次元の狭間から本物の刃がついた子供用の槍を二本取り出すと、一本をスカーレットに投げた。


「ほら!」

「これは!?」

「本物の槍だ」

「…」

「怖いなら試験の時みたいに練習用の槍で、お遊びの試合にしようか?」

「ば、バカにするな!」


 スカーレットは練習用の槍しか使ってこなかったのだろう。

 初めて触れる、刃先がついた槍に驚き、明らかに緊張感が増した。


「やってやる!」


 スカーレットが咆哮して気合いを入れると、自前の槍を置き刃先の付いた槍を構えた。

 まあこのくらいの脅しじゃあ尻尾を巻かないか。


「困ったものだ…」

「殿下…スカーレット…」


 俺が構えるとスカーレットはすかさず槍を突き出して、穂先を「カン!」と当て、試合が始まった。

 本物の槍を使った初めての勝負。

 スカーレットの突きは鈍く、遠慮がちだ。

 それを軽くさばいてやった。


「クッ…」

「無理しないで、自前の槍を使えば?」

「バカにするなって言ってるだろう!」


 スカーレットは怒りに任せて攻撃してくるが、そんな何の工夫もない槍を避けるなんて容易だ。

 ピーターの時みたいに避け続ければ、息が上がって勝手に自滅するだろう。

 そう考えていたが甘かった。

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