転生したら、最後の晩餐ー1ー

 王家の晩餐という名の、第五王子お披露目会が始まった。

 普段はダンスホールとして使っている、だだっ広い部屋に円卓が一つポツンと置いてある。

 上席にはクラウド王と、ビィクトリア王妃が座り、第一から第五王子が、二人を囲むように席についている。

 円卓は、王位継承争いをしている王子達の序列を曖昧にする配慮だろう。


 ああ。

 うん。

 めんどくせ。


 両親とは二度目のご対面だ。いや、母親とは三度目だったか。毎回ろくに話をしていないが。

 王子四人とは、これが初対面。揃いも揃って金髪碧眼のいかにもな美形だ。

 かくいう俺も金髪に青い目なんだが、未だに慣れない。


 席についてしばらく待っているが、一向に誰も話さないぞ。

 気になってクラウド王を見るが、何も無い空中をぼおっと眺めている。

 どうやら痴呆が始まったという噂は本当のようだ。


 ビィクトリア王妃が王を一瞥すると、業を煮やしてグラスを持ち、晩餐の始まりを宣言した。


「今宵、我が子アルバラートを加え、五人の金獅子が初めて揃った。永らく語り継がれた通り、四匹の獅子は四方を駆け抜け、一匹は天へと至る。今、この時が神話の始まりだ。ミルド国と王家の繁栄に祝杯を!」 

「「「祝杯を!」」」


 一斉にグラスを掲げ、ワインを口にした。

 俺は当然、口にする真似だけだ。


 しっかし、四匹の獅子は地べたを這い回って、一匹は天井人になるのね。

 ブラック会社かよ。

 どんな神話だよ。


 そんな事を考えていたら、お母様に怒られた。


「アルバラート、名乗りはどうしたの? その年で挨拶も出来ないのか?」


 あー。

 はいはい。

 やりますよーだ。


 俺は胸に手を当てる略式の礼をとり、お兄様に挨拶した。


「ご令兄様方、お初にお目にかかります。クラウド王第五子、アルバラートです」

「聞こえないな」


 二十代の第三王子、デモンが難癖をつけてきた。

 うんうん。

 なかなかのアウェイだ。

 ゴールが遠いな。


「ご令兄様方ーー」

「滑舌が悪くて聞こえないって言ってるだろ? 噂通りの愚鈍さだな」

「ちょっと、兄様!」


 デモンの更なる追撃を、同じ第三婦人を親に持つ、第四王子のポールが止めた。

 確か、スペンド共和国に婿入りが決まってる人だ。十代後半くらいで、優しそうな感じがする。


「デモンは悪く言うが、愚鈍は良いぞ、アルバラート。女性にモテる! いっぱい食べて上も下も大きくなれよ!」

「あ、はい。ミックお兄様…」


 うん。

 このアホっぽい下ネタをデカイ声で言うのが、第二王子のミックだ。三十代前半くらいかな。

 悪い人ではないが、側にいると振り回されて大変そうな感じがする。


「そんな事より!」


 第一王子のラドルフが、両手で机を『ガン』っと叩く。料理の皿が一瞬ちょっと浮いて、テーブルが揺れた。

 四十近いおっさんが、かなりお怒りの様子だ。


「アルバラート、貴様! 侍女の股ぐらをくぐるなど…毎日…毎日…。その上、最近は商人に命じて下着を作らせているそうじゃないか!…いったいどいういう事だ! 説明しろ!」


 あー。

 うんうん。

 『さーせんしたー』とか言ったら額の血管キレるかな。


「はははは。良いではないですか、兄さん。子供は元気が一番。アルバラートも女性に興味があるのだろう。どうだ。今度、淑女の正しい扱い方を教えてやるぞ?」

「ミック、貴様は黙っていろ! アルバラート、貴様の恥は我が恥となって返って来るのだ。いったい、どう責任を取るつもりだ?」


 あー。

 まあ母親が同じだしね。

 弟がバカだと兄も侮(あなど)られるか。


「えっと…自重します…」

「自重だと? バカのクセに意味も分からない言葉を使うな! こういう時は『はい、兄様』だ。己の立場をわきまえろ、バカめ!」

「ラドルフ兄様、愚鈍に何を言っても無駄ですよ。理解出来ませんし。ああ、こんな大荷物を持って兄様もこの先大変ですね~」

「ちょっと、デモン兄さん、止めなよ」


 いやー。

 色んな所から責められるな。

 これだけ叩かれると逆に飯ウマ~だね。


 パワーランチってやつ?

 ディナーだけどさ。

 しかも、皆様。どうせ毒殺を希望されているでしょうが、ご飯は自前で用意してサッズの孫娘に運んで貰ってるから、安心して飯ウマ~ですよ。

 残念でした~っと。


 しっかし、これだけイジメられてるのに、お母様はガン無視なのね。

 助け船くらい出してもいいのに、と思っていたら王妃がゆっくり口を開いた。


「皆が責める気持ちは分かりますが、アルバラートはまだ四つです。本人の罪を問うより、世話をしている周りに罰を与えるべき。特に親しくしている衛兵あがりの近衛が、どうも悪影響を与えているようです。その者の首を跳ねれば、素行も少し落ち着くでしょう。この事はこれで良いですね?」

「まあ、王妃がそう仰るなら否は無いですが…」


 第三王子のデモンが嫌らしい笑みで俺を見た。


 うん。

 あのさ。

 俺が何を言われようがいいんだよ。

 こんな奴は殺すだけムダだと思われるように、あえてバカな振る舞いをしてきたからさ。

 バカにされても、いくらでもヘラヘラ笑ってやるよ。


 でも、クリフとか仲間はダメだ。 

 絶対に許さない。

 俺の仲間が俺のせいで不幸になる事は、絶対に許さない!

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