転生したら、最後の晩餐ー2ー

 沈黙を守って傍観していた王妃が、ゆっくりと口を開いたと思ったら、クリフの首を跳ねると言った。

 王妃の暴言を聞いたら頭に血が登って、身体が熱くなった。


 何言ってんだ、このクソババア?

 ハァ?

 ハーーァ?


 クリフの首を跳ねるだと?

 やれるものなら、やってみろよ?

 

 クリフの為だったら、次元刀を抜いて、この場に居る全員を切り捨ててやる!

 狂王になって、お前らの大好きなミドル王国を破滅に追いやってやる!

 上から下までロクでもないこの国なんて滅ぼしてやる!


 クソ。


 仲間を人質に取られて、心をおもいっきり掻き乱された。ここでキレたら誰かの罠にまんまと引っ掛かるだけなのに。


 こんなんじゃ、第一王子ラドルフの不興を更に買ってしまう。

 安っぽい挑発を繰り返していた、第三王子デモンの思惑通りになってしまう。

 今は冷静になって、クリフを救う一言を言わなければならないのに。


 クソ、クソ、クソ。

 冷静になれ、冷静になれ。

 俺の背中には、皆が乗っているんだ。

 かんしゃくを起こして、今、崩れるわけにはいかない。


 これが王城での最後の試練だ。

 歯をくいしばって、壁を越えてやる!


 よし。

 いいぞ。

 落ち着いた。

 反撃開始だ。


「お母様、どうぞクリフをお許し下さい。あの者は私の槍と剣の師、学園へ首席入学する為にはどうしても必要なのです」


 俺の発言がよほど面白かったのか、王子達が一斉に笑った。


「ぶぁふぁはははは。首席だとアルバラート? 笑わせてくれるな。女の下着以外に興味が無かったお前が、首席?」

「ふははは。アルバラート、よく言った。男はそれくらいじゃないとな。ふははは」

「ふっ。おい、首席という意味が分かっているのか? 分かっているなら、貴様は道化の才があるぞ」

「ちょっと兄さん、ふふふ…」


 俺の発言に機嫌を良くした第一王子のラドルフが、王妃に告げる。


「お母様、アルバラートがそう言うなら、その者の首を跳ねるのは入学まで待ちましょう。我が愚弟がいったいどれほどの成績で入学するのか今から楽しみですな、ぶはははは」


 ビィクトリア王妃は特に笑うこともなく、少し思案すると俺に顔を向けた。


「アルバラートの素行を改める為の言ですから、貴方が変わると言うのならば、あえて血を見る必要は無いでしょう。しかし、首席ですか…並々ならぬ努力をしないと叶いませんよ?」

「はい…」

「ふぁははは。お母様、愚弟が本当に首席となったら、今までの汚名を一気にすすぐ機会となります。もしそのような快挙となったら、褒美の一つもくれてやりましょう」

「本当ですか、ラドルフお兄様! では、ルーベンの地を下さい!」


 第三王子のデモンが疑り深い目をすると、探りを入れた。


「ルーベンだと? 王家の避暑地か…なぜあのような漁村を?」

「デモンお兄様、ルーベンは敵国が近いと聞きます。私がルーベンの主となって帝国をバッタバッタとやっつけてみせましょう!」

「ふははは。良いぞアルバラート。それでこそ金獅子だ!ふははは」

「そうですね。何か目標があれば、きっと勉強の励みになりますよ」


 第四王子のポールも好意的だった。

 第三王子は渋い顔をしているが、彼以外は賛成してくれている。

 王妃も多数意見には逆らえなかったのか、しぶしぶと了承してくれた。


「では、首席入学の折には、領土を下賜しましょう」

「はい。有り難く…」


 よし。

 よし、よし、よし。

 やったぞ。


 言質は取った。

 念願叶った。


 スカートめくりやパンツ作りとバカを演じていたのは、全てこの為だ。

 ようやく、これで俺の国作りの一歩が踏み出せる。

 もう、暗殺に怯えず、堂々と生きていける。


 思わずニヤケてしまった顔を、第三王子のデモンが冷たい視線で見ていたが、俺は浮かれていて気づかなかった。


▽▽▽


 晩餐が終わり、夜中に人払いをしてからサッズとクリフを私室に呼んだ。


「殿下、一匹は死んで、一匹は気が触れたみたいに走り回っていますぞ?」


 俺の食べるはずだった料理を与えた二匹のネズミは、一匹がお亡くなりになり、一匹が発狂している。


「うん。サッズの読みが当たったな。五割で死んでたって、おい! 最低でも二組が毒を盛ったってことだぞ。五割どころか十割だよ!」

「まあまあ、殿下。生き残ったので良いではないですか」

「いやいや、ギリギリだった。まさかクリフを人質にしてくるとは思わなかった。急所を突かれた感じだ。怒り狂って次元刀を振り回して暴れる所だった」

「私の命は殿下の物です。次そのように言われたら、迷わず切り捨てて下さい」

「絶対にヤダね!」


 クリフの頭を槍で小突いてやった。


「しかし、こうした機会もこれで最後。殿下もあと少しで学園生活ですか。長いようで短かったですな…」

「寂しくなりますね…」

「何回も殺されかけたけど。でも二人が守ってくれたから生き残れた。ありがとう」


 日本式にお辞儀で感謝を伝えた。


「殿下…」

「殿下、立派になられて…クリフは…クリフは…」


 幼児の死亡率が高いこの世界でも、五歳を過ぎれば暗殺を不信死で扱うのは難しくなるだろう。

 これで俺の命の危険は少なくなるはず。


 そして、何より。前世と併せて二十年近く憧れた学校生活の開始だ。

 転生してからずっと、耐えて、堪えて、泣いて、怒って。

 嫌な事もいっぱいあったけど、サッズやクリフ、ピーター達やリック、仲間もできたし、悪いことばかりではなかった。


 うん。

 身体は丈夫、健康なら良い。

 学園生活でも精一杯生きよう!


 そう心に決めたのだった。


 第一章 

 ー完ー

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