転生したら、セクシーパンツを作る事になった

 転生してから四年と数ヵ月が過ぎた。


 マルコ・ファイザーは約束通り、カンザス伯爵と王国との間で折衝を続け、一ヶ月程でこの話を決着させた。

 カンザス伯爵はリックの財産を五割受けとると、被害の訴えを取り下げたのだ。

 そして、名目上はマルコが残り五割を手間賃として貰い受けたが、一割を王国の関係者にばらまき、きっちり二割を俺たちに渡した。


 大商人のマルコだから、もっとがめつくされて、一割くらいが手元に来るだろうと思っていたので意外だ。

 パンツ狂いの俺を取引先として認めてくれたのだろうか?

 商人の考えは良くわからん。

 

▽▽▽


 リック・パークが解放される日。


 リックは金貨を詰め込んだ木箱が乗っている台車を引き、その横を俺が歩いている。

 ピーター達の家はもうすぐそこだ。


「しかし、金貨を舟ごと川に沈めるなんて考えたな」

「いや、殿下違いますぜ、あの時は必死だっただけです。カンザス伯爵に取り上げられるくらいなら川底に沈めちまえ、ってなもんですよ」

「なんだよそれ。リックらしいな」

「そうですかね?」


 リックが相変わらず大きい声で笑った。

 すると、その声に気づいたピーター達が家から飛び出してきた。


「父様ぁあああ!」

「お頭ぁあああ!」

「会頭ぉおおお!」


 三人は全速力で駆けてきて、リックの出っ張ったお腹に『ドスン』とぶつかる。

 そして、両手を広げリックの腹に巻き付いた。


 ああ。こんな子供っぽい仕草もするのか。

 ずっと気を張っていたんだな。


「なんだお前たち! 必ず帰ってくるって言っただろう」

「おがぇりなざぁい…」

「なんだ、なんだ。殿下もいるのにメソメソしやがって。まったく…」


 リックは一人一人の頭を力任せにガシガシと撫でる。

 三人はいつまでも嬉し泣きして、リックの服が濡れていた。


▽▽▽


 感動の再会が終わり、俺達はピーターの家に移動した。


「はぁ…しかし、二割か…あんなに稼いだのに…」

「父様、大丈夫です。どんなに失敗しても、次にもっと儲ければ良い。浅漬の商売で、もっともっと儲けてあげますよ!」


 浅漬の製法はファイザー商会に渡したが、庶民街での商売は継続している。

 ファイザー商会が貴族向け、ピーターが庶民向けという感じで住み分けているのだ。

 露店での利益なんてたかが知れているから、マルコが気を利かせて見逃してくれたのだろう。


「しっかし、俺がパンツ売りですか、殿下…」


 チビッ子三人が腹を抱えて『ゲラゲラ』笑っていると、『うるせぇ、ガキども!』とリックが怒りのゲンコツを脳天に落とした。


「いや、マルコ・ファイザーの反応を見た感じだと、意外に良い商売だと思うぞ。この商材に手を出している商会はいないだろ?」

「まあ、衣装関連の商会が片手間にやってる感じですかね。積極的に売ろうなんてのは殿下だけですよ」


 この時代のパンツは、前世のようなセクシー要素など全く無い、ただの短パンだ。

 男女の区別もあまりなく、サイズだけが違う。

 着用している人も少なく、地方に行けばノーパンで過ごす人が多いくらいだ。


「競争相手がいないのは良い事だ。高級品を作って、どんどん売ろう」

「なんだか売れなさそうな…しかし、高級品って、いったいどんな物を作れば良いんですか?」

「レースで作ったパンツだ」

「…」


 全員が絶句した。


「アル…本当の変態だったんだな…」

「いや、ピーター、アルの趣味だからさ…でも、レースみたいな高級品を使うなんて…」

「アルはそんなんじゃない! アルの体から出ていけ、悪魔!」


 チビッ子三人が好き放題言ってくれたが、リックは声を震わせて絶賛した。


「殿下…殿下は天才ですか?」

「何言ってるの父様? おい、アル! お前のせいで父様がおかしくなっちゃたぞ!」

「おかしいのはお前だピーター。この発明の凄さに気づかないのか?」

「え?」

「パンツは夏場に蒸れるだろ? だけどレースならどうだ?」

「蒸れない…売れるよ、父様…」

「しかも、レースは材料が糸だけです。材料費が安いですよ、会頭」

「そういう事だキース! こいつはやりようによっちゃあ良い金になるぞ?」


 リックはガハハと笑いながら、キースの頭を撫でた。

 そんな中、カイトはずっと一人考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。


「でも、アル。いったい誰が作るんだよ? パンツなんて汚い物、嫌がって誰も編まないぞ」


 そうなんだよね。

 この世界ではまだ、そういう認識なんだよ。


「ロッド王国の人にお願いしようと思っているんだけど、どうかな?」

「スラムの移民か。それなら食うに困ってるから何でもやるだろう。良い考えだな。なあ、殿下…」


 リックが真面目な顔で姿勢を正した。


「殿下は金と味方がいると言っていた。今回の下着もただの遊びって訳じゃないんだろ? いったい何を狙っているんだ?」


 少し迷って言葉が詰まってしまった。

 だが、真剣な目をしたリックには本当の狙いを言うべきだろう。

 俺は決意した。


「俺は国を作ろうと思う…」

「ナニ!?」


 リックが辺りをしきりに警戒して、俺に顔を寄せると小声で話した。


「殿下が国王になるって事ですか?」

「いや、うん。そうではなく、新しく国を興すつもりだ」

「…」


 再び全員が唖然となったが、俺がどうやって国を興すかの説明を始めると、食い入るように聞いてくれた。


 計画が予定通り成功する確率は低いだろう。

 無謀な夢につき合わせるのは気が引ける。

 それでもついてきてくれるか、その意思だけは確認したかった。


「どうせ暗殺されるか、飼い殺しになる運命だ。俺が精一杯生きる為にはこうするしかない」

「殿下…途方もない話で、俺にはどう判断したら良いかがわかりませんぜ」

「抜けるなら今だぞ、リック。どうする?」


 ピーター達三人を見ると、覚悟を決めた顔で頷いた。そして、リックはやれやれと頭を掻くと、俺に向かって最敬礼する。


「パーク商会が会頭、リック・パーク。本日より死ぬまでアルバラート殿下に忠を尽くします」


 こうして俺達は本当の仲間になった。

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