転生したら、パンツの話を大物商人にして絶句された

 俺は、後宮の自室で椅子に座っている。

 目の前には、俺の要請に応じて登城したファイザー商会の会頭、マルコ・ファイザーとその子供、クルル・ファイザーが最敬礼をしている。

 マルコ・ファイザーは黒髪の痩せた中年男性だ。


「うむ。マルコ・ファイザー。本日は良くぞ参った」

「アルバラート殿下、ご拝謁の機会を頂きまして、幸福の極みにございます」

「うむ。楽にしろ」

「「はい」」


 二人は立ち上がり、俺と向かい合った。


「今日呼んだのは他でもない…おい!」

「かしこまりました、殿下」


 扉の所に待機していた侍女に合図を送ると、ピーター達三人を招き入れ、俺の後ろに控えさせた。

 クルルの様子をバレないように見ていたが、三人を認識しても顔色一つ変えなかった。

 やはりファイザー家の商人は一流だな。


「殿下、この者達は?」


 マルコは状況を理解できずに、質問を投げ掛けてきた。


「うむ。余が考案した新しい食があってな。それを市井の者共に広める為に、商いをさせていた者達だ。しかし、最近ファイザー商会の者に商売をするなと言われたそうだ。どうなっているのだ、マルコ?」


 マルコは驚いてクルルを見る。


「どういう事だ?」


 どうせ、おっさんも知ってる癖に良く言うよ。

 初めて知った的な、なかなの名演技。

 子供に責任を押し付ける気満々ってとこか。


「お言葉ですが殿下、私はーー」

「おい、貴様に発言を許していない。不敬である、槍を寄越せ!」

「おおお。すみません殿下、まだ若く至らぬ者でして、どうぞお目こぼしを…」


 マルコが慌てて謝罪した。


 うん。

 あれれ?

 『殿下、一思いに~』って首を差し出さないんだ。


 あれって異世界スタンダードじゃなかったのか。

 やっぱり、クソ爺イカレ。いや、失礼。

 やはりサッズ師匠は、お狂いになってるって事ね。


 あー。

 なんかスッキリした。

 サッズが普通じゃないのが分かって、良かった、良かった。


 そんな事を考えていると、侍女が槍を持ってきたので受けとる。

 そして、座ったまま、手首をひねって槍をクルクルと回した。

 サッズがよくやっている癖みたいなもので、大抵の弟子は真似しているうちに上手く回せるようになるのだ。


「で…殿下…」


 マルコが困り果てて俺を見ている。

 クルルは涼しい顔をしているが、内心はどうなんだろ。ビビってくれるとピーターにも顔向けできるんだけどな。

 そう思ってピーターを見ると、もう十分です、といった感じでうなずいた。


「うむ。ダメかマルコ?」

「ええと…できれば…」

「うむ。そうか、残念だな…お前は余の所に初めて来た客だ。特別に多少の無礼は許そう」

「ああ…殿下ありがたき幸せにございます」


 マルコとクルルは一息ついて落ち着いたようだ。

 話を進めた。


「うむ。新しい食だが、お前の商会では製法を知りたいのか?」

「どうなんだ?」


 クルルが少し考えてから、ゆっくりと頷いた。


「うむ。そうか。では、王城まで足を運んだ褒美として、製法を教えよう」

「よ、宜しいのですか、殿下?」

「お前達もいいな」

 

 ピーター達に返事を促すと、コクリと小さく頭を下げた。


「うむ。それで、マルコには頼みがあってだな…」


 マルコとクルルは、ああやっぱりなといった感じで目を鋭くさせた。


「あそこに居る、真ん中の子供だが、名をピーター・パークと言う」

「はぁ…ピーター・パークですか…」

「うむ。父親の名はリック・パークだ」

「まさか!? いや、似ているか?」


 マルコとクルルがピーターの顔をまじまじと見た。


「一月ほど前だったか。どこかに切り落とせる首はないかと、王城を散策していたら牢屋に居たリック・パークという者と出会ってな。コヤツがなかなかに面白い男で、牢獄から出せば、余の為に見たこともないパンツを作ってみせると豪語したのだ」

「パンツですか…」


 マルコが絶句し、クルルはコイツはバカか? みたいな感じで見ている。


「うむ。それでパンツの為に、檻から出られる方法はないかと二人で考えたのだ。そこで、問題となっている財産の場所を誰かに話せば良いのではないかとなってな…」

「パークの財宝ですか…まさか、隠し場所をご存知で?」

「うむ。聞いた。なあ、ピーター」


 ピーターが軽く頷いた。


「なるほど。それで私はカンザス伯爵と王国の仲介をし、リックを無事保護しろという事ですね、殿下。しかし、いささか…うーん」


 マルコは流石に一流商人だ。

 一言えば十を理解した。

 しかし、二つ返事とはいかず、少し思い悩んでいるようだ。


「殿下、無礼を承知で、ご意向をお伺いしても宜しいでしょうか」

「うむ。許す」

「殿下はパークの財宝をいかほど、ご入り用でしょうか?」

「余は財宝など興味はない、パンツが欲しい、と言いたい所だが、パンツを作る為には、財産の二割が必要だとリックに言われている」

「そうですか…リック、いや、殿下が二割か…うーん。では、私も二割を報酬として頂きますが、宜しいですか?」

「うむ。よく分からんが頼む」


 マイクはずっと渋い顔をしていたが、この日初めての笑顔を見せた。


「分かりました殿下。このマイク。ファイザーの家名にかけまして、この商談を成立させてみせます」

「うむ、そうか。それでだ。マイクの商会ではパンツを扱っていないのか? 珍しい物があったら買い取るぞ」

「パンツですか…そうですな…あいにく不得意な分野でして…うーん。やはり、リック・パークが適任かと。あやつの手腕は確かですぞ、殿下。必ずや素晴らしい品をお手元に持ってくるに違いはありません!」


 うーん。

 そんなに下着扱うのイヤなんだ。

 まあ、大手企業のプライドってやつか。


 この日から、第五王子のパンツ好きは本当だったという噂が巷に流れたのだった。

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