転生したら、商売を始めたー2ー
暴力シーンあります。
苦手な方は▼までジャンプ!
▼▼▼
ピーター達が傷だらけになったその日の朝。
朝霧が立ち込める人気も少ない広場で、三人はあくせくと開店準備をしていた。
すると、風貌の悪い五人の男がぞろぞろと現れ、ろくに手入れもしていない錆びた剣を振り回して、ニヤニヤとピーター達を眺めた。
「お前ら、また来たのか!」
「おっ。今日は威勢がいいねぇ。この前少し遊んでやったら、泣いちゃたの忘れたんでちゅか? それとも僕はおバカさんでちゅか?」
「なんだと!」
ピーターは足を震わせながらも、胸を精一杯張って威嚇する。その虚勢に男達は吹き出して笑ったが、黒髪の青年、マルコ・ファイザーが現れて嘲笑を静止する。
「お前達、遊びじゃないんだから、いい加減にしろ」
「へへへへ。サーセンした、マルコさん」
マルコは困ったものだと男達にため息を吐き、ピーター達に向き合った。
「約束の日だ、ピーター。それでは返事を聞こうか」
「答えは変わらない。もう誰にも、何も、奪われない!」
そう叫ぶピーターにマルコは辟易とした。
「ピーター、何度言えば分かるんだ? 大人しく商品の製法を教えれば、報酬を与えるし、痛い思いもしない。それとも無理やり聞き出して、銅貨の一つも貰えない方が良いのか? お前も商人なら、どっちが利口かは理解できるだろうが…なあ、この話何回目だ?」
マルコが男達に振り返ると、『ムダムダムダ。だってこいつらバカだから』とケラケラ笑う。
ピーター達はそうした大人の悪意に負けそうになったが、必死で男達を睨み付けた。
マルコはその瞳に意思の強さを感じ、深いため息を吐く。
「もう、いい。しばらく商売が出来ないように念入りにやってくれ」
「「「へい…」」」
これから起こる悲劇を眺める事が煩わしかったのか、マルコは踵を返して一人その場を離れた。
ピーター達はジリジリと迫って来る男達に対して小さい体を強(こわ)ばらせ、一斉に身構える。
しかし、そんな子供の事など気にも止めず、男達は商品のたっぷり入った壺に向かうと、剣を振り上げ、かち割った。
「あ~あ。もったいねぇ~なっと」
「止めろ!」
剣を振り回す男に駆け寄ろうとしたピーターを、頭目らしき男が蹴飛ばす。
「はいはい、ダメでちゅよーっと」
「ゴフゥ…」
ピーターが咳き込みながら地面を転がると、キースとカイトが怒りをあらわにして頭目に襲いかかった。
「この野郎!」
「許さない!」
「あーもう、鬱陶(うっとう)しい。仕事の邪魔すんなよ、僕ちん達!」
頭目はキースとカイトの襟元を掴むと、空に向かって力任せに放り投げる。二人は受け身もろくに取れず、地面に叩きつけられた。
そんな修羅場を横目に、男達は浅漬け入りの壺を割り続け、陳列に使っていた簡素な机も蹴飛ばす。
ピーターは痛む脇腹を押さえながら、浅漬を踏みつける男の足元にすがりつくと懇願した。
「もう…止めてくれ…」
「はあ? 何言ってんの? 俺達は中途半端な仕事はしねーんだよ!」
男はピーターの首を掴んで持ち上げると、容赦無く頬に拳をぶつけた。ピーターの口からは血が流れ、意識も虚ろとなる。
「さてさて。あーるかな?」
男は大人しくなったピーターの懐をまさぐると、巾着袋を見つけ『おっ。あった、あった』とほくそ笑んだ。そして、用済みとなったピーターの体を無造作に投げる。
「「ピーター!」」
カイトとキースが走り寄り、男からこれ以上傷つけられないようにと、倒れたピーターに覆い被さった。
「おーい。お頭、有りやした!」
「お、結構入ってそうだな? 僕ちん達、がんばったんだね。偉い、偉いぞー。こいつは俺達の手間賃に貰って行くけど、良いよな、僕ちん達?」
頭目がナイフをちらつかせながら、三人に迫る。
ピーターは既に意識は無く、言葉は返ってこない。カイトとキースは大粒の涙を浮かべ、奥歯がガタガタと鳴って声が出ない。
「返事が無いって事は良いって事だね。へへへ、オジサン儲かっちゃた。おい、行くぞお前ら!」
そう言うと男達を連れて街の中へと消えて行った。
辺りには壺や机の破片が散乱している。
商売の漬物は踏みつけられ、ぐちゃぐちゃの砂まみれだ。
あまりの惨めさに、カイトとキースはただ声を上げて泣くしかなかった。
▼▼▼
その日の夜。
俺は涙を必死に堪えるピーターを前に、彼の話に耳を傾けている。
「ぎょうは…うり…あげ…無い…アル、すまない…」
そう言って深々と頭を下げる。
時が止まったかのように沈黙が支配したが、少しするとポツリ、ポツリと涙が落ち、雨音みたいだった。
キースもカイトも涙を流し、嗚咽しながら言葉を吐き出した。
「ゴメン…アル…」
「アル…悔しいよ…悔しい…」
しばらくしてピーターは顔を上げると、たっぷり貯めた涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「アル…オレ…頑張ったけど…あいつら大人だし…力も強くて…お金も全部奪われちゃった…」
語られる言葉の一つ一つが鉛みたいに重く、俺の内臓に溜まっていく。
「海草を奪われたみたいに…浅漬けも奪われちゃう…どうして…どうして…こんなに頑張ってるのに、どうしてなんだろ…」
「………」
この幼児の身体は本当に嫌だ。
自制心が全く無い。
生理的に泣いてしまいそうだ。
だが、俺にそんな権利は無い。
商売が軌道に乗れば、誰かが難癖をつける可能性を分かっていたのに、俺は黙って見ていた。
所詮は子供だ。少し脅されれば泣きついて来るだろうとタカをくくっていた。
しかし、ピーター・パークとキース、カイトの三人は違った。十七年もひねくれて生きていた俺と違った。誇りを持っている。
例え殴られても、蹴られても、自分達の仕事に誇りを持ち、決して誰にも奪わせないという、強い心を持った奴らだった。
「アル…まだ商売を続けたいよ…」
ピーターがポツリと呟いた。
内蔵に溜まった鉛は耐えきれないくらいの重さになり、吐き気がした。
俺はどうすれば、この気持ちに応える事ができるのだろうか。
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