転生したら、商売を始めたー1ー
王都の庶民街にある広場には、生活雑貨や飲食などの露店が並ぶ。数日前から、その一角でピーター達が店を開くと、俺達で開発した浅漬けもどきの野菜は大好評となり、連日飛ぶように売れた。
今日もカイトが威勢の良い掛け声で呼び込みをし、行列を整理している。
「旨いよ! 美味いよ! 新鮮だよ! まだ食べてない人には、試食もあるよ!」
物珍しそうに集まった客に、キースが試食用の浅漬けを配っている。
無料という事に加え、キースの可愛い顔立ちも相(あい)まって、奥さま達がちょっとした人だかりを作っている。
うん。
イケメンは爆発しろ!
資源となって土に還れ!
軽く芽生えた殺意を胸にしまい、販売しているピーターに歩み寄った。
「ピーター、忙しそうだな。手伝おうか?」
「あ、王…じゃなかった、アルか。これくらいのお客さんだったら、そんなに待たせないで対応できるから大丈夫だ」
ピーターがニコニコしながら接客を続けた。
俺は味の確認をするために、木で作ったトングを使い、壺の中から緑色の長細い野菜を取り出した。
そして、キュウリっぽいその野菜をカプっと噛(かじ)る。
「美味い!」
口に入れた瞬間は海草の旨味が広がり、咀嚼(そしゃく)を繰り返すと、野菜のみずみずしさが追いかけて来る。
塩分と同時に水分が取れるので、少し汗ばむ今の季節にぴったりだ。これは売れるよ。
行列と試食も効果を発揮しているようだ。
行列は宣伝効果を高め、試食は購買意欲を生む。
まあ、キースの事は嬉しい誤算だったが、イケメンって集客力高いのね。つらい現実を知りました。そして、爆発してくれ。
▽▽▽
スラムと庶民街の境界にあるボロ家で、俺達は顔を付き合わせている。
なぜこんな場所に居るかというと、俺達が出会った貴族街の空き家は、元リック・パーク邸だったのだが、そんな所で寝泊まりしていたら、いずれは捕まってしまう。浅漬けの売上が入った事もあり、ピーターを説得して、このボロ家を借りたのだ。
というか、こんなボロボロなのに家賃とるのね。
「これが今日の売上だ!」
ピーターが貨幣の入った巾着袋をドンと置いた。
皮の袋はパンパンになっているが、ほとどは銅貨だ。
俺は巾着袋をひっくり返し銀貨だけを拾い集めると、手にした銀貨の半分、三枚をピーターに手渡した。
「今日の給金は、銀貨三枚!」
「「「おーー」」」
「残りの銅貨はいつも通り、仕入れ用と釣り銭用に使ってくれ」
三人は銀貨を手にして、嬉しそうに眺めている。
俺は魔法を使い、アイテムボックスとして使っている次元Aに銀貨を投げ入れた。
そろそろ銀貨は十枚を越えそうだな。
「香辛料は手に入りそう?」
ばらまいてしまった銅貨をせっせと袋に戻している、仕入れ担当のキースに聞いてみた。
「銀貨を出せば、アルが言ってた辛い果実を手に入れられるけど、どうする?」
「銀貨か…高いな。浅漬けを倍の値段にしたら売れると思うか?」
キースが、どうだろうと考えていたら、ピーターが代わりに答えてくれた。
「その値段だと安い肉が買えちゃうから、どんなに美味しくても高すぎて売れないな」
ふーん。
そうなんだ。
ピリ辛のが好きなのに諦めるか。
「アル、無理して高級品を売らなくても大丈夫。果実の皮を入れた浅漬けが美味しく出来たし。これをちょっと高い値段で売れば良いよ。食べてみる?」
商品開発を担当しているカイトが赤い野菜を壺から取り、差し出した。
それを受け取って食べると、カイトが自慢するだけあってフルーツの酸味が心地良い一品だった。
「美味いな、これ。人気出そうだ」
「でしょ? キースに頼んでもっと色々な種類の果物を試そうと思ってるんだ」
「また勝手に俺の仕事を増やすなよ!」
キースが顔を真っ赤にして怒ると、ピーターとカイトが声を上げてゲラゲラと笑った。
うん。
良いチームだ。
良い奴らだ。
この夜は売れ残りの浅漬けとカイトが作った料理を美味しく頂き、ほっこりした気持ちで王城へと帰ったのだった。
▽▽▽
数日後の夜。
ピーター達の家に転移すると、暗い雰囲気の三人が待っていた。
喧嘩でもしたのかと思いながら椅子に座ると、ピーターの顔に擦り傷がある事に気づく。
「どうした、ピーター?」
「別に…転んだだけだ…」
うーん。
横の二人は何か言いたげだが、黙っている。
なんとなく理由は分かっているが、向こうから話してくれるまで待つか。
「今日は売上が悪かった。すまない…」
ピーターはそう言いながら巾着袋を差し出した。
ひっくり返してみると、確かに昨日より銀貨が一枚少ない。
ちょっと励ましてやるか。
「目新しさが無くなったせいかも。売上が落ちた時こそ頑張ろうよ。どんどん新しい味を作って、お客さんを取り戻そう!」
「アルあのさ…」
カイトが何かを喋ろうとしたが、ピーターが割って入った。
「うん。明日は俺がもっと頑張るから、アルは期待して待っててくれ」
場の空気も少し和み、四人で夕食の準備に取りかかった。
▽▽▽
更に数日後の夜。
ピーターの家で三人と向かい合っている。
カイトとキースは傷だらけで、黙って座っている。ピーターも大人しく座っているが、怪我の具合が一番酷く、唇を切った跡が痛々しい。
「ぎょうは…うり…あげ…無い…アル、すまない」
そう言ってピーターが深々と頭を下げる。そして、そのまま顔を上げず、ポツリ、ポツリと涙が落ちると雨音みたいだった。
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