転生したら、槍神にめちゃくちゃ打ちのめされた ー2ー

「えいっ!」


 床に落ちる間際、サッズに向けて次元刀を投げつけた。それと同時に俺の背中は床板に叩きつけられたが、刀はクルクルと回りながらサッズに迫る。


 『ゲホ…ゲホ…』と咳き込みながら刀の行方を追ったが、どうやら罠にかかってくれたようだ。

 サッズは迫る刃を受けようとするが、次元刀は槍を切り裂いて、と思ったが、この爺は想像の斜め上を行っていた。


 回転する次元刀の柄を『カンっ』と槍で弾く。すると次元刀は進行方向を変え、息ができず、のたうち回る俺めがけてクルクルと迫って来た。


 こいつ、マジ、イカれてるの?

 殺す気ですか!?


 自分の事を棚に上げサッズに怒り心頭だったが、頭の片隅にあった冷静さで状況判断し、息のできない身体をなんとか動かす。

 すると、クルクルと回転していた次元刀が、俺の脇腹から三十センチ離れた床に刃先から音もなく吸い込まれ、全ての刀身がすっぽり床に埋まった。


「なかなかの攻めでしたぞ、殿下。数年ぶりにヒヤリとさせられました」


 床に這いつくばる俺を見下ろして、サッズがご機嫌な様子だ。


「しかし、いけませんな。王族がいつまでも地に伏せているとは。なんとも情けない…」


 サッズは槍の持ち手で俺の右肩を突くと、電気が走ったような激痛がする。俺は痛みに耐えきれず、漫画みたいに飛び起きてしまった。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 サッズは立ち上がった俺にウンウンと満足気な顔を見せると、床に刺さった次元刀を引き抜いた。

 次元刀は今は魔力を失い、ただの木剣となっている。それをサッズはしげしげと眺めていた。


「やはり魔法剣ですか。しかし、凄まじい切れ味ですな。こんな刃が触れたら大ケガでは済みませんぞ。なぜ片刃にしないのですか?」


 そう言いながら、サッズが木剣を俺に手渡した。

 

 あっ。

 確かに仰る通り。

 俺みたいな素人が両刃の剣なんて使ったら、自分の身体を切っちゃうよな。

 刃全体を黒霧で覆った方がカッコいいから何となくやっていたけど、片刃にした方がよっぽど安全だ。


「うぅ…そのとおりだ…」

「いえ、殿下。否定しているのではありません。あのように投擲するならば非常に有効ですし。しかし、初撃のように空中から斬りかかった場合は、自傷の危険が高まるのではと疑問に思った次第です」


 ちょうど気になっていた初撃の事が話題に上がったので素直に聞いてみた。


「しょげきは、なぜかわせた?」


 サッズが今日一番の笑顔で答えてくれた。


「あのように自信に満ちた顔をされると、何か仕掛けるのではと予想が出来ます。そうした場合は往々にして必殺の一撃が来ますから、距離を取るのが常套手段です。距離は最大の防御という言葉もあるのですよ、殿下」


 この世界では、攻撃が最大の防御ではなく、距離が最大の防御なのか。

 こんな格言あるなら、次元刀なんて如何にも怪しい刀は避けるよな。

 俺と似たような事を考え、魔法剣を考案した奴が他にも居たって事ね。


 うん?

 でも、その説明はどうかな?

 右に避けた理由にはならないんじゃないか?

 普通は後ろに下がるよな。


「なぜミギに?」

「それは勘に従っただけですな。

 殿下のお姿が消えた瞬間に、後方は一番の危険地帯と感じましたので移動を断念しました。

 前に移動した場合も、後方から来る殿下の攻撃を背中で受ける事になりますから、あまり良い選択とは言えません。

 残るは左右どちらかに避ける道ですが、ご英明な殿下です。恐らく利き手と逆の右後方から迫ってくるのではと考えました。

 左に移動すれば距離を取って殿下と相対しますので、これはこれで良いのではとも思ったのですが、右に少し余計に飛べば、もしや虚を突けるのではと愚行しました」


 愚行したって、なんだよ。

 完全に読まれてたじゃん。

 消えた瞬間に詰んでたのね。


「さあ殿下。これを踏まえて再度、相対しましょうぞ!」

「え!?」


 あれ、なにこれ?

 少年漫画の流れ的には握手して健闘を讃え合って終わりにするんじゃないの?

 なんで、この爺は意気揚々と槍を向けて来るの?

 バカなの?


 それから、俺がどんなに懇願しようが、この修練という名の地獄が終わる事はなかった。

 十回か? 

 数えるのも嫌になるくらい床に這いつくばると、ようやく「ここまで耐えた王族は殿下が初めてですぞ!」という陽気な声で悪夢は終わったのだった。




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