転生したら、ようやくチート能力を手に入れた

 暗殺事件の夜から護衛体勢が強化されてしまい、一日中、誰かが見守るようになった。

 これでは魔法の練習ができなくなるし、何よりプライベートが皆無だ。

 悩んだあげくクリフに相談すると、気分転換を兼ねて深夜こっそり連れ出してくれる事になった。

 最初の頃はクリフの案内で城内を散策したが、一通り回ると飽きてしまい、最近は裏庭で木剣を振るのが二人の日課となった。


 クリフの剣術指導は当初、子供相手のお遊び程度だったが、数日が経った今ではそこそこ激しい打ち合いを教えてくれるようになった。

 人目を忍んで四次元空間に入り、剣術の練習をしまくった甲斐があったというものだ。


 この夜も大人顔負けの打ち合いをし、クリフを驚かせた。


「はぁ…はぁ…」

「アルバラート殿下、今夜はこれくらいで終わりにしませんか?」

「まだまだだ、くりふ。また、おそわれたら、いのちはないだろ?」

「殿下…」


 クリフが困った顔をしたが、俺は捲し立てるように言葉を発した。


「つぎは魔法のれんしゅう!」

「承知しました。では、辺りを見回ってきます」


 そう言うとクリフが背を向けて俺から離れて行く。

 その背中を呼び止めて、魔法の事を相談したかったが、自分を戒めた。


 次元魔法が俺の命を守る唯一の手立てだ。

 誰にも知られず、この武器を研がなければならない。


 俺は深呼吸してから次元の狭間を開くと、その渦に吸い込まれていった。


▽▽▽


 暗殺された日から次元魔法を検証し、四次元空間を四つ作成することに成功した。魔法を発現する時に四つもあるとややこしいので、それらを次元Aから次元Dと名付けたのだ。


『次元A』

  時間停止。食料保存用。アイテム保管庫。

『次元B』

  一千万分の一の時間経過。多目的スペース。

  剣術稽古や睡眠、空間移動用。

『次元C』

  百万分の一の時間経過。火球魔法ストック用。

『次元D』

  二倍の時間の流れ。ゴミ箱用。





 今は次元Bの練習スペースにいる。

 ここには数日かけて城内から集めてきた大きめの観葉樹が四本立っていて、根っこが床の上に乗っている姿はなかなかに不気味だ。モンスターっぽい。

 なぜこんな趣味の悪い光景を作ったかと言うと、暗殺者対策の新魔法を試す為だ。

 

「顕現せよ、次元刀!」


 俺は魔力を流すと、木剣が黒い霧に覆われた。

 第一段階は成功したようだ。

 よし。試し切りしよう。


「くらえぇえええ!」


 絶叫しながら次元刀を振りかぶると、観葉樹の根元をなぎ払った。


 根元は人の腕ぐらいの太さだったが、まるで抵抗が無く、するりするりと次元刀が入っていく。なんて滑らかなんだ。これでは熱したナイフでバターを切る時の方がよっぽど抵抗感があるだろう。

 次元刀はあっという間に根元を切断し、支えを無くした観葉樹が『バサリ』と葉を揺らしなが倒れた。


「す、すごい…」


 感動して手が少し震えている。


 やっと異世界チート来たのか?

 オレ、無双の始まり?

 オレ、冒険譚の始まり?


 嬉しくなった俺は次元刀を構えて、残り三本の観葉樹をスパン、スパン、スパンと連続で切断する。


「暗闇より生まれし闇夜の破壊者! ワレこの世の全てを切り裂く者也!」


 ドヤ顔で宣言すると観葉樹が倒れる。そして、木剣を払うと黒霧が消えた。


 うん。カッコいい。

 なんか満足した。

 異世界来て、初めて楽しかった気がする。

 そして、それと同時に心底ホッとした。


「ああ…やっと自衛手段を手に入れた…」

 

 この次元刀ならきっと暗殺者に対抗できるだろう。ただ、実際に人を斬る度胸が俺にはあるのかは微妙だが。そうしたメンタル面をクリフに相談できれば良いんだけど、彼が俺の味方だという確証は無いしな。


 まあ、いざとなったら四次元空間に逃げれば良いか。次元刀は最後の切り札としてとっておこう。最強の必殺技を編み出したくせに、なんだか消極的な結論になってしまったが、今はこれが最善のはずだ。


 この時の決意は、翌日脆くも崩れ去るのだった。

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