第44話 決戦兵力
本土から出撃した金満艦隊こと第一機動艦隊は四個機動艦隊と一個水上打撃艦隊を主力とし、他に哨戒隊や補給部隊を擁する一大艦隊だった。
補給部隊には海上護衛総隊からとっておきの第一〇一から第一〇三までの三個護衛戦隊、それに同総隊にとって虎の子ともいえる歴戦空母「春日丸」改め「大鷹」が加入、さらに連合艦隊直属の戦艦「長門」と「陸奥」もまた臨時編入されたうえでこの遠征に参加している。
この措置が可能になったのも、豪州が戦争から脱落し、さらに東洋艦隊を撃滅してインド洋の制海権を奪取したからだ。
南からの突き上げもなく、西に存在した大きな脅威も無くなった今、帝国海軍は大手を振ってその戦力の大半をこの作戦に投入出来た。
本作戦の主力となる一機艦は戦闘部隊の機動艦隊ならびに水上打撃艦隊だけでも空母一二隻に戦艦六隻、それに重巡一五隻に駆逐艦三二隻からなる、現時点において紛れも無く世界最強の艦隊であった。
第一機動艦隊
第一艦隊
第一航空戦隊 空母「赤城」「加賀」「龍驤」
第八戦隊 重巡「利根」「筑摩」
第一一戦隊 重巡「青葉」 駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」
第二艦隊
第二航空戦隊 空母「蒼龍」「飛龍」「瑞鳳」
第六戦隊 重巡「熊野」「鈴谷」
第一二戦隊 重巡「衣笠」 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」
第三艦隊
第三航空戦隊 空母「翔鶴」「瑞鶴」「祥鳳」
第七戦隊 重巡「最上」「三隈」
第一三戦隊 重巡「古鷹」 駆逐艦「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」
第四艦隊
第四航空戦隊 空母「隼鷹」「飛鷹」「龍鳳」
第五戦隊 重巡「妙高」「羽黒」
第一四戦隊 重巡「加古」 駆逐艦「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「霞」「霰」
第五艦隊
第一戦隊 戦艦「大和」「武蔵」
第三戦隊 戦艦「比叡」「霧島」「金剛」「榛名」
第四戦隊 重巡「高雄」「愛宕」
第一五戦隊 重巡「摩耶」 駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
哨戒隊
第一七戦隊 駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」
※第一七戦隊旗艦の重巡「那智」は補給部隊に臨時編入。
補給部隊
第一補給隊
第一〇一戦隊 軽巡「那珂」 駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「五月雨」
油槽船一〇 貨客船二
(臨時編入)
空母「大鷹」 重巡「那智」 特設水上機母艦「君川丸」
第二補給隊
第一〇二戦隊 軽巡「神通」 駆逐艦「白露」「時雨」「村雨」「夕立」「春雨」
油槽船一〇 貨客船二
(臨時編入)
戦艦「長門」 特設水上機母艦「聖川丸」
第三補給隊
第一〇三戦隊 軽巡「川内」 駆逐艦「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」
油槽船一〇 貨客船二
(臨時編入)
戦艦「陸奥」 特設水上機母艦「神川丸」
各空母の搭載機は以下の通り。
「赤城」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦電六)
「加賀」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八、九七艦電三)
「龍驤」(零戦三二)
「蒼龍」(零戦二四、九九艦爆一二、九七艦攻一二、九七艦電九)
「飛龍」(零戦二四、九九艦爆一二、九七艦攻一二、九七艦電九)
「瑞鳳」(零戦二八)
「翔鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「瑞鶴」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻一八)
「祥鳳」(零戦二八)
「隼鷹」(零戦二四、九九艦爆一二、九七艦攻一二)
「飛鷹」(零戦二四、九九艦爆一二、九七艦攻一二)
「龍鳳」(零戦二四)
哨戒隊の四隻の駆逐艦である「秋月」と「照月」、それに「涼月」と「初月」は優秀な電探を搭載し、また長大な航続性能を生かして早期警戒艦として主力から距離を置いて単艦にて周辺警戒を行う。
一機艦は戦闘艦艇だけでなく非武装の油槽船や貨客船等を数多く抱えているために、どうしても縦深をとる必要があったからだ。
また、潜水艦隊所属の複数の伊号潜水艦も同様の任務にあたっているが、こちらは敵味方の誤認を避けるためにその哨区が厳密に定められている。
三個ある補給隊にはそれぞれ二隻の貨客船が編入されている。
これは、ウェーク島沖海戦で捕虜を大量に抱えたときに、軍艦は艦内スペースに余裕が無いため、その収容に苦慮した経験によるもの。
そして、今回もまた太平洋艦隊に対して勝利する気でいるという意志表示でもある。
なお、これら貨客船には英語が堪能な一般将兵のほかに法務科士官や尋問官、それに軍医や衛生兵も乗り組んでいる。
戦闘艦艇のほうはいずれも開戦時に比べて高角砲や機銃といった対空兵装が格段に強化されている。
また、駆逐艦は昨年のウェーク島沖海戦で鹵獲した米駆逐艦のものを参考に対潜装備を刷新、機関や船体の静音対策と相まってその能力が大幅に向上している。
艦上機は昨年のウェーク島沖海戦と比較して電探搭載偵察機である九七艦電が新たに加わった。
人間の目に頼っていた従来の索敵と違い、電波の目を活用したその捜索範囲は顕著に増大している。
零戦についてはウェーク島沖海戦時の一八〇機から三四〇機へと二倍近く増勢されている。
その代償として九九艦爆と九七艦攻が減らされているが、これは防空と索敵を重視する金満提督の意向が反映されたものだ。
各空母に搭載されている零戦はそのすべてが九四〇馬力の二一型から一一三〇馬力の二二型に更新されている。
重量増もあり最高速度こそ二一型に比べてわずかの向上にとどまっているものの、一方で防弾装備と武装は戦訓を反映して相応に強化されている。
特に武装については、二一型が機首に七・七ミリ機銃二丁と両翼に二〇ミリ機銃それぞれ一丁だったのに対し、二二型では機首が一二・七ミリ機銃となり、さらに両翼の機銃も従来と同じ二〇ミリ口径ではあるものの長銃身で威力の大きい二号機銃に更新されている。
それと、零戦はこれまでの三機一個小隊から現状に即した四機一個小隊に変更している。
こちらもまた武装と同様にその戦訓から導き出されたものだ。
現在、一機艦はハワイ北方一〇〇〇キロの海域を東へ向けて航行している。
そのまま真っすぐ行けば米本土、南下すればハワイだ。
その頃、「ホーネット」と「ヨークタウン」ならびに「ワスプ」と「レンジャー」の四隻の空母、それに「ワシントン」と「ノースカロライナ」の二隻の新鋭戦艦を基幹とする太平洋艦隊はオアフ島の南に展開、同島を盾にする形で、陸上基地の戦闘機の傘の下で一機艦と戦う構えを見せていた。
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