第13話 索敵

 闘志旺盛、積極果敢な猛将ハルゼー提督が多数のSBDドーントレス急降下爆撃機を索敵に出していたのとほぼ同時刻、第一航空艦隊もまたウェーク島を中心に索敵機を放っていた。

 重巡「利根」と「筑摩」、それに水上機母艦「千歳」ならびに「千代田」から合わせて一五機の零式水偵が米艦隊を求めて飛び立ち、さらに三〇分後に同数の索敵機を第二段として発進させる。


 「艦攻であれば攻撃力の低下を嫌って出し渋る帝国海軍も、しかし水上偵察機なら惜しみなく投入する」


 そう言って金満提督は皮肉を飛ばす。

 だが、それはそれとして、ウェーク島周辺海域は天候も良好で、加えて三〇機という濃密な索敵網が奏功し、敵艦隊を見落とすようなこともなく思いのほかあっさりと太平洋艦隊の発見に成功する。

 しかし、情報を重視する米軍もまた索敵に怠りは無く、同様に一航艦を発見していた。

 索敵機による続報によって、太平洋艦隊の編成が次第に明らかになっていく。

 太平洋艦隊は空母を中心とした機動部隊が三つと、さらに戦艦を中心とした水上打撃部隊で構成されており、一航艦司令部は便宜上三つの機動部隊について「甲一」ならびに「甲二」と「甲三」、水上打撃部隊を「乙一」と呼称するよう取り決めた。

 発見された兵力は以下の通りだった。


 甲一 空母一、重巡乃至大型軽巡三、駆逐艦五

 甲二 空母一、重巡乃至大型軽巡三、駆逐艦六

 甲三 空母一、重巡乃至大型軽巡三、駆逐艦五

 乙一 戦艦八、重巡乃至大型軽巡四、駆逐艦一六


 空母三隻に戦艦八隻、重巡乃至大型軽巡一三隻に駆逐艦三二隻という大兵力で、戦艦部隊のすぐ後方に三つの空母部隊が横並びで展開している。

 米艦隊との距離は一九〇浬で友軍艦上機の攻撃圏内だ。

 参謀らと協議するまでもなかった。

 山本長官はすぐさま第一次攻撃隊の発進を命令した。

 第一次攻撃隊は一航戦の「赤城」から零戦九機に九七艦攻二七機、「加賀」から零戦九機に九九艦爆二七機。

 二航戦は「蒼龍」から零戦九機に九七艦攻一八機、「飛龍」から零戦九機に九九艦爆一八機。

 五航戦は「翔鶴」から零戦九機に九七艦攻二七機、「瑞鶴」から零戦九機に九九艦爆二七機。

 六隻の空母から合わせて一九八機が発艦、堂々たる編隊を組んで敵艦隊へ向け進撃を開始した。


 第一次攻撃隊の最後の機体が発進した後、第二次攻撃隊の機体が格納庫から飛行甲板に上げられてくる。

 第二次攻撃隊は「赤城」から零戦三機に九九艦爆一八機、「加賀」から零戦三機に九七艦攻二七機。

 「蒼龍」から零戦三機に九九艦爆一八機、「飛龍」から零戦三機に九七艦攻一八機。

 「翔鶴」から九九艦爆二七機、「瑞鶴」から九七艦攻二七機、それに四航戦の「龍驤」から零戦一五機と「瑞鳳」から零戦九機の合計一七一機で編成されている。


 当初の予定では「龍驤」と「瑞鳳」の六〇機の零戦はそのすべてを上空直掩任務にあてる予定だった。

 だが、両空母ともに飛行甲板が狭隘で、大型空母のように着艦した位置で給弾や給油を行いそのまますぐに発艦するといったような芸当が出来ない。

 着艦した戦闘機に必要な補給を行っても、「龍驤」と「瑞鳳」は先述したように飛行甲板が短すぎるのでそのまますぐに発艦というわけにはいかないのだ。

 だから、発艦に必要な滑走距離を確保するために補給を終えた機体を飛行甲板後方まで押していく必要がある。

 そこまでやって、ようやく発艦することが出来るのだ。

 しかし、防空戦の最中にそのような悠長な真似はしていられない。

 一撃だけならばともかく、敵が波状攻撃をしかけてきた場合、小型空母は大型空母と比べて戦闘機の回転率が格段に落ちる。

 小型空母を防空専門にあてるというのは、決して効率のいいものではないのだ。

 そこで当初は第二次攻撃隊に加わる予定だった六隻の正規空母の零戦の一部を上空直掩に残し、「龍驤」と「瑞鳳」の零戦を第二次攻撃隊の護衛に充てることにした。


 第一次攻撃隊の発進を見送った後、山本長官は少し離れたところにいた金満提督に声をかけた。


 「太平洋艦隊は戦艦や空母、それに巡洋艦に対して駆逐艦の数が少なすぎるように思うが、どう考える」


 「真珠湾などの要地警戒や、いまだ未発見の上陸船団の護衛にも相当数を割かざるを得なかったのでしょう。それと、現在のところ米空母は三隻しか発見されていませんから上陸船団に空母が含まれている可能性もあります」


 「未発見の空母の存在か・・・・・・。第二次攻撃隊は、いましばらく様子を見てからにするか」


 思案顔になった山本長官に、だがしかし金満提督は反対の旨を即答する。


 「いえ、準備でき次第発進させるべきです。爆弾や魚雷を積んだ飛行機が飛行甲板や格納庫にある時に被弾すれば致命傷になります」


 「空母がいなかった場合の目標はどうする?」


 「目標は現場にいる指揮官に任せるのが適切だと思いますが、艦爆で巡洋艦と駆逐艦を叩き、魚雷を積んだ艦攻は戦艦を目標にすべきでしょう」


 「戦艦に攻撃を集中しないのかね?」


 「残念ですが、艦爆の二五番では戦艦に対して威力不足です。もちろん、多数撃ち込めば戦艦といえども無事では済みません。対空火器の減殺にも貢献するでしょう。ですが、非効率だと言わざるを得ません。それよりは戦艦を護衛する巡洋艦と駆逐艦を狙った方が効果的です。高速で小回りが利く艦に急降下爆撃は有効ですし、中小型艦であれば二五番でも十分にその威力を発揮します」


 「了解した。第二次攻撃隊のほうも準備出来次第、発進させよう」

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