第18話 A summer day(18)

「ゆうこ! 志藤ちゃん、もう日本に帰ってきてるよ! 成田からタクシー飛ばしてくるって!」


南は苦しむゆうこに報告をした。



「は・・?」


もう言葉も出ないほど、痛みが増してきた。




も~~~! 


なんだか悔しいけど!



でも・・


やっぱり・・ホッとしてる。



ゆうこは涙目になっていた。




あ~~~、もう早く!!




志藤はタクシーの中でも落ち着かなかった。



道は空いていたので、浅草の病院には1時間と少しで着いた。




陣痛室になんとかたどり着いた時、ゆうこは分娩室に運ばれる寸前だった。




「ゆ、ゆうこ!」


ベッドの上の彼女に駆け寄った。




「志藤さん、間に合ったね。 すんでのところで、」


ゆうこの母は笑った。




ゆうこは何だか胸がいっぱいになって、痛みで呼吸を荒くしながら


彼を見つめた。



「い、痛いか?」


ぎゅっと手を握ってくる彼に




痛いに決まってるでしょ!! もう!!





と、当りたい気分だった。





「あ、ご主人ですか? これに着替えて。 どうぞ。」


看護師が志藤に術着のようなものを手渡した。



「は?」



「分娩。 立ち会うんでしょ? ほら、早く。」


と急かされて、もう着いたばかりで何が何だかわからぬうちに分娩室へと一緒に連れて行かれた。





「まだいきんじゃダメだよ。 次の陣痛が来るまで、」



「も・・でも! いきみたい!!」


ゆうこは泣きそうな声で言った。



志藤は彼女の額の汗をタオルで拭いてやりながら、




「ゆうこ、頑張れ、」


と言った。




そうすると、ものすごい陣痛の波がやって来た。




「はい、いきんで!」


助産師の声にゆうこは力いっぱいいきんだ。



「ん・・っ! くっ・・!」




志藤の手もぎゅっと握り締めた。


その力強さに、驚くくらいに。



「はい・・まだ、慌てないで。 もうすぐ頭が出てきそうだから。 落ち着いて、次の陣痛を待つんだよ、」


医師の言葉も、もう朦朧としながら聞いていた。



こんなことが何度か続き、


ゆうこはもうぐったりとしていた。



そして、ふっと志藤を見やると。


術着から見えるワイシャツの胸元に口紅の跡があるのを発見してしまった。




く・・口紅!!




また絵梨沙とのことを妄想し始めて、カーッとなった。



「な・・」


彼女が何かを言おうとしていたので、



「え?」


志藤は聞き返した。



「・・なっ・・なんなのよ!! その口紅はっ!!」




ゆうこは陣痛の大きな大きな波と共に、ものすごい形相で叫んだ。



「へっ・・」


一瞬志藤は彼女の視線の先を追って、自分の胸元に目をやった。




急いでそのまま帰ってきたので、全くわからなかったが。


絵梨沙が抱きついてきた時に、しっかりと彼女の口紅がシャツにくっついてしまったようだった。




「ちっ・・ちがっ・・これはっ・・!!」


もう、この場を忘れて懸命の否定をしていると。



「あ、頭が見えてきましたから。 もういきまないで。 短い呼吸に変えて!」


助産師の声がした。




え・・。




と思ったとき、赤ん坊が


彼女の胎内から


取り出された。

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