第9話 A summer day(9)
「にしても彼女もよく承知しましたねえ・・同じ部屋なんて・・」
真太郎は少し冷静になって言った。
「あの子はあんまりそういうところ、擦れてないみたいで。 わりとおれよりも平気で寝たりしてますよ。 信じきっちゃってるんだか。 あんまり男として意識されてへんような気もするし、」
それはそれで複雑なようだった。
真太郎はおかしくなって少し笑いながら
「真尋にもバレないようにしないと。 暴れますよ、そんなん聞いたら。」
と言った。
「も、どうでもいいですから・・。 ほんっとお願いします! ああ、あと! あなたのおしゃべりな奥さんにも絶対に言わないでくださいよ!」
志藤は念押しをした。
「ハイハイ・・じゃあ、また電話しますから。」
真太郎は電話を切った。
すると。
「え? なに? おんなじへやってなに?」
いきなり後ろから声がして真太郎は振り向いた。
「みっ・・南・・」
いつのまに南が後ろにいた。
「今の、志藤ちゃんちゃうのん? 彼女ってエリちゃんのこと?」
もう
頭の回転の速さにかけては
敵う人間がいないのではないか、と思うほどの彼女なので。
勝手にいろいろ話をつなげてゆく・・
真太郎は何も言わずにすーっと行こうとすると、
「ねえ! どうしたの? 二人、一緒の部屋に泊まってるの??」
南は真太郎の腕を掴んだ。
「志藤さんの・・部屋の電気系統が・・故障しちゃったらしくって・・」
彼女には勝てない彼は
あっさりとしゃべってしまった。
「うっそーー! なに、それって危険ちゃうの~~!」
やっぱり
南はことさら大きな声で騒ぎ始めた。
「志藤さんのがもう何とかしてくれって・・SOSの電話をしてきたんだからさ・・」
真太郎は目を逸らしながら言う。
「ちょっと、ヤバくない? いいの?」
南は身を乗り出した。
「大丈夫だよ。 志藤さんは・・大人だし、」
と、言いつつ、ちょっと自信なさげに言った。
「も、いっくらさあ・・彼が落ち着いたからって言っても。 元々、女の子大好きやんかあ。 めっちゃスケベそうやし、」
「白川さんを裏切るようなことは・・ないよ、」
そう
信じたかった。
そしてハッとして
「こんなこと、白川さんに言ったらダメだよ! あの人、普通の身体じゃないし、」
と南に言った。
「わ、わかってる。 あたしだってこんなこと言えへんて、」
その勢いにちょっとのけぞった。
シャワーを浴びて出てくると、絵梨沙の声が聞こえる。
「うん・・うん。 だいじょうぶ。 なんとかリハも終わったし。 ちょっと緊張しちゃったけど。 志藤さんもだいじょうぶって言ってくれて。」
真尋と電話か。
すぐにピンと来て、遠慮してちょっと壁に隠れるように水を飲んでいた。
「真尋はちゃんとやってるの? レッスンもちゃんと行ってる? ・・え? もー・・しょうがないなァ。 でも、コンサート終わって、あたしが帰ったら真尋は日本でしょ? また・・会えないね、」
彼女は
本当に寂しそうに寂しそうにそう言った。
「ほんと。 ずっとそばにいたい。 たまに仕事とかどうでもよくなって。 前みたく真尋と楽しく・・学校行って・・ピアノを聴いたりしたい。」
胸が痛かった。
絵梨沙の切ない思いが伝わってきて。
この二人の未来はどうなるんだろう。
お互いに非凡な才能を持ち、このままピアニストとして生きていくとしたら
ずっと一緒にいることなんか
果たしてできるのだろうか。
彼女は
おれとこんな状況になっても。
たぶん真尋しか見えてない。
他の男なんか
もう
男じゃないんだって。
そう思ったら少し笑いがこみ上げてしまった。
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