第8話 A summer day(8)
「ほんっと、今日中に電気を直してくれって、力を込めて言っておいて!」
志藤は出かける前に絵梨沙にフロントに念押しをするように、若干怖い顔で言った。
「は・・はい。」
ほんまにもう
あんな状況、耐えられっか!
絵梨沙は緊張ぎみにリハを終えた。
「ちょっと表情も固かったかな。 力抜いて、自然にやればだいじょうぶやって、」
志藤はにこやかに言った。
「なんか。 緊張して、」
心なしか声が震えていた。
そんな彼女の背中に優しく手をやって
「あのね。 ほんまにエリちゃんは真尋と違ってなんの心配もないし。 普通に弾けばもう十分ってくらいに。 初めてエリちゃんのピアノを弾く姿を見た時。 ウソやなくてほんまに天使やって思ったし、」
志藤は笑った。
「え~~、」
絵梨沙は困ったように顔を赤らめて笑った。
「すぐ・・そんな風に言っちゃうんですね、」
「は? またおれが口先だけの男やって思ってる? エリちゃんに関しては、ウソつかないし、」
と明るく笑った。
最初に会ったときは
ちょっと怖い感じもしたけど
だけど
だんだんと
この人は本当にピアノを愛してる人なんだってわかるようになって。
真尋のことも真剣に思ってくれて。
そして
この笑顔を向けられると
不思議に安心できる・・
絵梨沙は少しだけホッとしていた。
夕方ホテルに戻ると
志藤はまたも現実に引き戻される。
「ハア? まだ直んないって? なに??」
思わずフロントに身を乗り出した。
「なんかけっこうややこしい感じになってたらしくて。 電気屋さんもサマーヴァケーションで人手不足みたいで・・」
絵梨沙がそのまんま通訳をした。
「日本人みたく夏休みなく働けって!!」
思わずグチってしまった。
「あたしは構いませんから。 もう少し・・我慢してください、」
絵梨沙が申し訳なさそうに言った。
「エリちゃんのせいやないって・・。」
ほんっと
『別の我慢』
を、しないとならへんやんか!!
ただでさえ、ゆうこがあんなんで毎日悶々としてたっちゅーのに!!
本当に恨めしかった・・・
「はあ? なんですか、その展開は!」
真太郎は電話を受けて驚いた。
「もうカンベンして下さいよ・・ほんっとにもう耐えられへん・・」
志藤はあまりのストレスに真太郎に電話をしてしまった。
「そっちからホテルの部屋、何とかなんないですか??」
泣きを入れてしまった。
絵梨沙さんと志藤さんが
ひとつの部屋で寝起きを・・
この状態に真太郎も固まった。
いろんなことを想像してしまった。
「な・・なんとかがんばってみます。 でも・・すぐには・・」
困り果ててそう言った。
「あんな美女とほんっと狭いホテルの部屋のベッドで並んで寝てるんですよっ! 男として耐えられますか!」
逆ギレ状態だった。
「耐えて下さい。 耐えないと・・タイヘンなことになります。いろいろ、」
もうそう言うしかなかった。
そして
「もちろん・・白川さんには黙ってますから。」
と、余計なことを言い、
「当たり前ですっ!」
また大声を出された。
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