FAKE TAKE

エリー.ファー

FAKE TAKE

 お前のことをどこかに売り渡すような気はない。

 本当だ。嘘じゃない。

 だからこそ、お前の話が聞きたい。

 ブツはどこだ。

 どこにやった。

 あれがないと仕事が立ち行かなくなることは分かっているだろう。あれの価値がどれだけ高いかもお前は分かっているはずだ。だからこそ、お前はこれをしたわけだ。

 裏切り、殺し、積み上げたわけだ。

 自分の欲のために。

 哀れだとは思う。同情もしよう。なんとか頑張ってみるとしよう。

 しかし、残念なことにこの引き金を引かない理由にはならないわけだ。色々と考えてみたけれどね、見逃すことはできないのだよ。

 何故だと思う。

 これは仕事の話じゃない。

 お前。

 嘘をついただろう。

 随分昔だよ。

 事務所が燃やされたことがあった。あれのせいで何人か仲間も死んでいった。おれだってぎりぎり助かったくらいだ。

 その時、お前は既に事務所の外にいた。

 おかしいと思ったんだ。

 あんなにどんくさくていつも遅れてやってくるお前がこの時ばかりはいの一番に逃げ出せた。最初は、こういうやつほど、聞き察知能力が高いというから、運の良いやつめ、としか思っていなかった。

 でも、だよ。

 証拠が揃ってしまった。

 いやあ、出てくる出てくる。

 出荷元に落ちていたライター、燃えやすいように置かれていていくつかの布や紙きれ。

 至るところにお前の指紋がべったりとついていたよ。

 もちろん、この事務所はお前が出入りしていたわけで指紋がついているのは当たり前。納得はした。でも、本来つかないであろう場所にもお前の指紋は沢山ついていたよ。どこなら見つからないか、かつ燃えやすいか。

 探していたんだろう。

 それで見つけた。

 ここならいいと。

 よく燃えただろう。

 そして、その火の中でもだえ苦しむ人間が、それはそれはよく見えただろう。

 なぁ、お前の負けだ。

 分かるだろう。

 今の話を聞いて。

 もう、そういうことで話は出来上がっているんだよ。

 お前がたとえ、証拠を集めて、その結果俺が犯人であるということに気付いていたとしても。

 俺が作り出した、放火犯はお前だったという物語の方が信ぴょう性があるように根回しはしてある。お前の真実よりも、俺の物語の方が何百倍も納得しやすいのさ。

 あの時の事件の犯人も、この事件の犯人も、すべての罪を被るのも。

 お前だよ。

 悪いな。

 俺は、ここで死ぬわけにはいかない。

 お前が犯人としてここで死んでも何の問題もないようになっているんだ。大人しく死んでくれ。

 お前の命は。お前の行動のすべては。お前の人生は。

 すべて、俺のためにある。

 こんな事務所が燃えて、人が焼け死んで。

 後悔があるか。

 あるわけないだろう。

 この事務所の人間が、どれだけの命を奪ってきたと思っている。苦しみながら死んでもお釣りがくるほどの悪行。そうだろう。

 これは正義の鉄槌である。

 俺は、神に成り代わってここにいる。

 人間ではないのだ。

 不幸の上でしか幸福を築けくなった存在へ、終焉という幸福を与えて、静かなる死を約束する存在だ。

 ヒダリ様の下。

 俺は、進化したのだ。

 小さな悪行を積み重ねることでしか、生き方を証明できない、矮小な人間とは違う。

 すべてはヒダリ様のために。ヒダリ様のご意思のために。

 あぁ。心が洗われる。魂が洗われる。命が洗われる。

 今、俺がお前の人生を洗ってやろう。

 さらばだ。

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