第7話 2人でお出かけをする事になりました~前編~
ディラン様の恋人役を始めて早3ヶ月。あれからカサンドラ様が私に絡んでくる事はない。ディラン様も何も言って来ないから、特に問題ないようだ。
そして私たちはと言うと、お互い恋人役も随分慣れて、今では本当の恋人の様なラブラブっぷりだ。もちろん、演技だけれどね…最近では放課後もまっすぐ帰らず、ディラン様と中庭でティータイムを楽しむようになった。もちろん公爵家のメイドが入れてくれた、とても美味しいお茶を飲みながらだ。
実はティータイムの誘いは、ディラン様からしてくれた。よりラブラブに見せる為に、出来るだけ一緒に居た方がいいと提案してくれたのだ。
そして、今日も放課後ディラン様とティータイムを楽しんでいる。
「アンネリカ、今週末予定はあるかい?」
「今週末ですか?特に予定はありませんが?」
「それはよかった。アンネリカが恋人役になってくれてもう3ヶ月も経つだろう。お陰様で王太子もすっかり俺たちが付き合っている事を信じてくれてね。それで、何かお礼がしたいと思って。街に一緒に買い物に行かないかい?」
これはまさか、デートのお誘いですよね。でも私はただの恋人役だし学院の外までお付き合い頂くなんてさすがに悪い気がするわ。それに、ディラン様と釣り合うような服も持っていないし…
「ディラン様、気持ちは嬉しいのですが、さすがにそこまでして頂くなんて申し訳ないわ」
物凄く残念だけれど、仕方がない。やんわりとディラン様に断りを入れたのだが…
「アンネリカ、確かに学院の外ではあるが、街には沢山の貴族がいる。さらに俺たちの噂を広める為にも、街に出るのは大切だと俺は考えているんだ」
なるほど。そう言う発想もあるのね。そう言われては断れないわ。
「わかりました。それならば、よろしくお願いします」
とりあえず、服はイザベラに借りよう。それにしても、ディラン様とお出かけだなんて、こんな幸せな事が起こってもいいのかしら。私きっとこの1年で、運気全部使い果たしてしまっているような気がするわ。
そして、待ちに待ったディラン様とのお出かけ当日。ありがたいことに、イザベラは服を貸してくれるだけでなく、メイドまで連れて来てくれた。
「さあ、アンネリカ。今日は初めてのデートでしょう。目いっぱいおしゃれしようね」
大張り切りなイザベラだ。メイドにあれやこれや指示を出す。そして、あっという間に準備完了だ。
「アンネリカ、あなた昔から可愛らしい顔をしていたけれど、こうやって見ると本当に可愛いわ。これならきっと、ディラン様もイチコロね」
満足そうなイザベラ。
確かにいつもの私に比べると、随分と雰囲気が違う。イザベラに借りたシンプルなドレスに合わせ、髪も可愛らしくハーフアップにしてもらっている。それにしても、今まであまり手入れしていなかったせいか、少しくすみかかっていた私のピンク色の髪。びっくりするほど、つやつやで鮮やかなピンク色に戻っている。
私、こんなに目も大きかったかしら。それに、全身いい匂いがするわ。
「イザベラ、ありがとう。あなたのおかげで別人のようになったわ。あなたもありがとう。」
私はイザベラとメイドにお礼を言った。
「いいえ、アンネリカ様は元が良いのです。私は少し手を加えただけですから」
あら、イザベラのところのメイドさんはとても謙虚なのね。
「それじゃあ私は帰るわ。今日のデート頑張ってね」
「イザベラ、本当にありがとう。この恩は何かで必ず返すから」
そうは言ったものの、私に返せるものなんてあるのかしら…
家に帰るイザベラを見送りつつ、そんな事を考えていると、入れ違いで公爵家の馬車が我が家にやって来た。
馬車が我が家の前で止まり、中からディラン様が降りて来た。初めて見るディラン様の私服姿。白を基調としたシャツに、黒のズボンを履いている。よく似合っていて素敵だわ。
「アンネリカ、待たせちゃったかな。ごめんね。それにしても、今日のアンネリカは一段と可愛いね」
にっこり笑ったディラン様。私の事を可愛いと言ってくれた。そう言えば最近よく“アンネリカは本当に可愛いね”と言ってくれる。
きっと演技なのだろうけど、それでも嬉しいわ。もしかして、家でも何か疑われているのかもしれないわね。早速私も演技に入らなくっちゃ!
「ありがとうございます。今日のディラン様もとっても素敵ですよ。私惚れ直しちゃいました」
私も負けずにディラン様を褒める。まあ、私の場合はお世辞じゃなくて本心なんだけれどね。
「ありがとうアンネリカ。さあ、早速出かけようか」
私の手を取ると、馬車の中へとエスコートしてくれるディアン様。それにしても、さすが公爵家の馬車。ものすごく広いし、とても豪華だ。そう言えば、カサンドラ様の家の馬車もすごかったわね。
「さあ、座って」
私が中々座らないからか、ディラン様に座るよう促されてしまった。物珍しそうに見ていたのがバレたかしら。恥ずかしいわ。きっと私の顔は真っ赤ね。
それにしてもこのイス、フカフカで気持ちいいわ。ずっと触っていたくなるくらいだ。
「アンネリカはこの馬車が気に入ってくれたみたいだね」
なぜか私の隣に座ったディラン様が、私の耳元でそう呟いた。さすがに近いわ。すかさず少し距離を取ろうとしたが、なぜか腰をがっちり掴まれていて動けない。
これはきっと、家族にカサンドラ様との仲を疑われていて、それで私という恋人が出来たと周知させたいのね。確かに公爵家の嫡男が王太子殿下の婚約者に手を出したなんてわかれば、めちゃくちゃヤバいものね。
ディラン様に公爵家から厳しい監視がついてもおかしくない。そうか、だから今日私をデートに誘ったんだわ。そして、こんなに距離が近いのも、それなら納得がいく。
よし、それなら私も協力しないとね。
「はい、私この馬車とても気に入りましたわ」
私はそう言うと、ディラン様の肩にもたれかかった。ディラン様の温もりを物凄く感じる。ああ、幸せね。本当にディラン様の恋人役が出来て良かったわ。
ふと窓の外を見ると、いかにも高級そうなお店が並んだ場所が見えてきた。そう、ここは王都の中でも上流貴族が好んで買い物や食事に来る場所だ。もちろん、貧乏な私はもう何年もこの場所に来ていない。
そうよね。公爵令息でもあるディラン様だもの、こういった場所を選ぶわよね。どうしよう、私、そんなにお金持っていないわ…とにかく、極力お金を使わない方向で行かないとね。一瞬で破産するわ。
でも、服装だけはきちんとした物を着て来てよかったわ。この格好なら、高級街に居ても違和感ないものね。
馬車が止まると、ディラン様にエスコートされゆっくりと降りた。目の前には今の私には逆立ちしても買えないような物ばかり取り扱っている、高級なお店が立ち並んでいる。
「さあ、アンネリカ。今日は君にお礼をする為に来たんだ。何でも好きな物を選んでもらって構わないよ」
好きな物と言われましても、こんな高級なお店で、貧乏人の私が買い物なんて恐ろしくて出来ない。
「私は特に欲しいものはありませんので、ディラン様が見たいお店に行っていただいて大丈夫ですわ。あ、あのお店、男性の洋服が売っていますわ。せっかくなので、見に行ってみましょう」
私はディラン様の腕を掴むと、お店の中に入った。中はとてもオシャレで、上流階級の貴族が好みそうな作りになっている。
店内はとても広く、他にも貴族が何人も買い物に来ていた。
ふとネクタイを見てみると、なんと5,000ディールもしている。こっちのスーツは35,000ディール。もう目が回ってきた。やっぱり貧乏人にはこんなお店目の毒だわ。
そう思っていると、隣で商品を見ていたディラン様が話しかけてきた。
「この店は比較的リーズナブルだね。そうだ、せっかくだから俺に合いそうな服をアンネリカが選んでよ」
ディラン様、今リーズナブルとおっしゃりました?やっぱり金銭感覚が全く違う。それに私にディラン様の服を選べと!そんな責任重大な事を私にさせるの!
「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
私がアワアワしていると、天の助け。品のある女性が声を掛けて来た。これはラッキーだ。
「彼の服を探しているのですが、何か良さそうなものはありますか?」
こういう時は店員さんに任せるのが一番だ。それにしても、今頬を赤らめましたよね。確かにディラン様はめちゃくちゃカッコいいものね。気持ちはわかるわ。
「コホン、それでしたら、こちらやこちら等はいかがでしょうか?お客様はお足が長いですので、とてもお似合いかと思いますよ」
店員さんが進めてくれたのは、ブラウンのジャケットと、紺色のズボンだ。確かにディラン様によく似合いそうだわ。
「ディラン様、どうですか?」
私の問いに、なぜか不満そうなディラン様。
「俺はアンネリカに選んで欲しかったんだ…」
そんな事をボソボソとつぶやいている。店員さんも困り顔だ。
「このジャケットとズボン、ディラン様によくお似合いになると思いますよ」
「本当かい!アンネリカがそう言うなら、この2点を買おうかな」
なぜかニコニコのディラン様。よほど家族から疑われているのね。ここまで演技をするなんて、素晴らしいわ。
いざ会計へ!さすが公爵家、小切手の様なものを取り出し、スラスラとサインを書いて終わりだ。
「アンネリカのおかげで、いい買い物が出来たよ。ありがとう。じゃあ、次こそはアンネリカの欲しいものを買いに行こう」
満面の笑みのディラン様。これはどうすればいいのかしら…
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