第8話 2人でお出かけをする事になりました~後編~

なぜか嬉しそうに私の手を取り、歩き出したディラン様。とてもじゃないけれど、こんなところでお買い物なんて出来ないわ。どうしよう…




「あの、ディラン様。私は特に欲しい物もありませんから」




「でもせっかくだから見て回ろう。気に入るものが見つかるかもしれないよ。あっ、あのお店、よく行くお店だ。店員も親切だし、一度入ってみよう!」




いかにも高級そうなお店ね。きっとカサンドラ様にプレゼントを買う為に利用しているのだろう。こんなお店、私なんかが入ってもいいのかしら?






恐る恐るお店に入ると、見たことも無いくらい大きな宝石を始め、超高級シルク素材で出来たドレス、金銀を使ったアクセサリーなど、見ただけで目が回るような品々が売られていた。




「まあ、ファイザバード様、いつもありがとうございます」


高級品を身にまとった店員さんが出てきた。きっと私なんかよりも、ずっとお金持ちなのだろう…




「今日はどういったものをお探しですか?あら?こちらの女性は…」


私を上から下までじっと見つめる店員さん。明らかに見下されているわね、これは。




「ああ、メイドですか。メイドを連れて来て一体どうされたのですか?」




なるほど、私をメイドと勘違いしたのね。でも公爵家のメイドと間違えられるって事は、私もそこそこの見た目って事かしら?1人で納得していたのだが…




「なっ!なんて失礼な人なんだ!彼女は俺の恋人だぞ!こんな失礼な店だとは思わなかった!もう二度とこんな店になんか来ないからな!」




怒りに震えるディラン様に腕を掴まれ、そのまま店の外に出た。後ろで店員さんが何か叫んでいた様な気がするが、よく聞こえなかった。




しばらく歩いた後、急に立ち止まったかと思うと、ものすごい勢いで謝られた。




「アンネリカ、すまなかった!あんな失礼な店だなんて思わなかったんだ!君に嫌な思いをさせてしまって申し訳ないと思っている」


深々と頭を下げるディラン様。




「私の方こそ、貧相なのでメイドに間違われても当然ですわ。気を使わせてしまい、申し訳ございませんでした」


慌てて私も謝った。そもそも、あんな高級なお店に私の様な者が入っていい訳がない。それに気づかず、ずかずかと入って行った私も悪いのだ。




「君は悪くないよ…本当にすまない…」


物凄く凹んでいるディラン様。何とかしないと!




「ディラン様、私は大丈夫です!そうだ、お腹すきませんか?そろそろお昼ですし、ランチタイムにしましょう」




「そう言えば、お腹もすいてきたな。でも、また君に嫌な思いをさせてしまったら…」




「それならば、私の様な者が入れそうなお店に行くのはどうでしょうか?平民たちも利用するようなお店ですが…」




正直もうこの高級街で買い物や食事をする勇気は私にはない。いつもの下級貴族や庶民たちでにぎわう場所へと案内しようと考えたのだ。




公爵令息のディラン様には、ちょっと場違いな場所かもしれないが、私がここに居るよりはいいだろう。




「わかったよ、そこにしよう。一旦馬車に戻って移動しようか?」


よかった。ディラン様も乗り気になってくれたわ。




馬車に乗り、いつも私が利用しているようなお店が立ち並ぶ場所へとやって来た。




「この場所、初めて来たよ。それにしても、凄い賑わいだね」


ここは王都でも有名な市場だ。色々なお店もあるし人も多い。




「さあ、ディラン様。参りましょう」


私は市場の中でも比較的高級なお店へと連れて行った。それでもディラン様がいつも利用している様なお店には、足元にも及ばないだろうが…




お店に入り、席に着いた。




「アンネリカ、こんなに沢山の人がご飯を食べているんだね。ここには個室はないのかい?」


そうか、上流貴族は個室を利用するのか!その発想、私にはなかったわ。




「申し訳ございません、ディラン様。ここには多分個室は無いかと。もし嫌なら、他のお店にしますか?」




「いいや、ここでいいよ。庶民の食事風景を見ておくのも大切だからね」




それにしても、ディラン様は美しすぎる。店員はもちろん周りのお客さんまで、ディラン様を見ているわ。明らかに浮いているものね、ディラン様…


しばらくすると、食事が運ばれてきた。公爵家のお弁当には足元にも及ばないが、それなりに豪華だ。うん、味も美味しいわ。




「アンネリカ、ここの料理も斬新で美味しいね。でも、やっぱりアンネリカの作るお弁当が一番おいしいけれど」


ラム肉を頬張りながら、にっこり微笑むディラン様。相変わらず、お世辞が上手ね。




「ディラン様、お口に合った様で何よりですわ」




2人でぺろりと平らげ、店を出た。本当は私が出そうと思ったのだが、男に恥をかかせるような事は止めてくれとディラン様に言われ、今回はご馳走になった。




「ディラン様、ごちそうさまでした」


私は深々と頭を下げた。




「アンネリカ、お礼を言われるような事はしていないよ。それに、支払ったと言えるほどのお金を出していないし」




2人で30ディールだから、確かにさっきの高級なお店に比べると安いわよね。私にとっては、結構な大金だけれど。




「そうだ、ここならアンネリカの欲しいものが見つかるんじゃないのか?早速お店を見て回ろう」




なぜか急に張り切りだしたディラン様。そうね、ここなら確かに値段も安いし、いいかもしれないわ。それに何か買ってもらわないと、何となく解放されない気がするし…




「それでしたら、私のお気に入りのお店がありますの。そこでもよろしいですか?」




「もちろんだ。行こう」




嬉しそうに私の手を取って歩き出すディラン様。ここでも、道行く人のほとんどがディラン様を見ている。当の本人は全く気にしていないのが、まだ救いね。




「ここですわ。ディラン様」


しばらく歩くと、私のお気に入りのお店の前に着いた。ここ最近、本当にお金がなくて中々来られなかったのよね。久しぶりに来られて嬉しいわ。ちなみにここは、アクセサリーや小物など、ちょっとした雑貨などが売っているお店だ。




あっ、このイヤリングとっても可愛いわ。お値段も5ディールで安いし。でもこっちのネックレスも可愛いわね。




「なんだか嬉しそうだね。今日初めてアンネリカの嬉しそうな顔を見たよ」




おっと、ディラン様の存在をすっかり忘れていたわ。あまりにも久しぶりに来たから、ついテンションが上がってしまった。




「はい、このお店は私のお気に入りなんです。最近来られてなかったので、嬉しくて」




「それなら、思う存分買えばいいよ。そうだ、どうせなら店にあるものを全部買ってもいいんだよ」




一体この人は何を言っているの?確かにディラン様なら余裕で買えるだろう。恐るべし、公爵家の財産事情…




「ディラン様、それはさすがにやりすぎですわ」


若干引きつつ、もう一度ネックレスとイヤリングを手に取る。う~ん、どっちも可愛いわ。どうしようかしら…






「アンネリカ、その2個で悩んでいるのかい?それなら2個とも買えばいいよ。他にももっともっと選んでいいんだよ!これは君へのお礼なんだから、遠慮する必要はないからね」




「いいえ、1個で十分ですわ。ではこのネックレスをお願いします」


悩んだ末、ネックレスにした。




ディラン様から他にも何かないのか?と、しつこく聞かれたが、1個で十分だ。




「本当にこれだけでいいのかい?それにしても安すぎやしないかい?」




「ディラン様、ありがとうございます。十分です」


不満げなディラン様をよそに、私は嬉しくてたまらない。早速ネックレスを付けてみた。




「どうですか?とっても可愛いネックレスでしょう?」




「そうだね、君のエメラルドグリーンの瞳とお揃いで、よく似合っているよ。次は本物のエメラルドをプレゼントしようかな…」




最後の方はよく聞こえなかったが、ディラン様も似合っていると言ってくれたし、これも私の宝物にしよう!


その後も色々なお店を見て回った。



「そろそろ帰ろうか」


ディラン様の言葉で、公爵家の馬車へと戻った。


「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」


なぜか行きと同じように、隣に座るディラン様にお礼を言った。


「こちらこそ楽しかったよ。王都には色々な場所があることもわかったし、また定期的に2人で出かけようね」


「そうですね…」



今回の件で、ディラン様と私の金銭感覚はゾウとアリくらい違うことが分かった。やっぱり、ディラン様は雲の上の人なんだわ。きっと、貧乏すぎる私に呆れているでしょうね。




これ以上、恥をさらすことは出来ないわ。まあ、きっともうプライベートで誘われることはないだろうけれど。




それにしても今日は疲れた…


馬車の揺れが気持ちいい…


私はそのまま、ゆっくりと瞼を閉じたのであった。

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