第4話 親友2人にディラン様の事を話しました

午後の授業を終えると、ディラン様がまた迎えに来てくれた。




「アンネリカ、校門まで一緒に行こう」




「はい、喜んで」


ディラン様に差し出された手を握り、2人で校門の方へ向かって歩き出す。校門まで向かうだけなのに、わざわざ迎えに来てくれるなんて嬉しいわ。きっとディラン様なりにどうすればラブラブに見えるか、考えたのね。




「ディラン様、今のところとてもいい感じですわね。この調子で行けば、きっと私たちが付き合っているという噂は一気に流れますわ」


これだけ一緒に居るうえ、今をときめく公爵令息のディラン様と、貧乏伯爵令嬢の私が付き合っているのだ。インパクト抜群、面白おかしく噂される事間違いなしだ!




校門に着くと、公爵家の立派な馬車が目に入る。




「ディラン様、それではまた明日」


私はディラン様に頭を下げ、歩きはじめる。




「ちょっと待って、アンネリカの家の馬車が見当たらないけれど…」


困惑気味のディラン様。




「私は歩いて学院に通っておりますので、馬車はいませんよ。それでは失礼します」


そう言ってまた歩き出そうとしたのだが…




「女の子を1人で歩いて帰らせるなんてこと出来ないよ。送っていくから家の馬車に乗って」


そう言うと、ディラン様は私の手を取り馬車に乗せようとする。さすがにそんな図々しい事は出来ないわ。




「ディラン様、私の事はお気になさらずに。もうずっと歩いて登下校しておりますので慣れておりますわ。それに、歩くのってとっても楽しいのよ」


そう、色々な景色が見れるし、新しいお店の情報もいち早く手に入る。お店の人と仲良くなって、野菜や果物なども貰えるのよね。馬車に乗っているとあっという間に過ぎていくから、ちょっとした街の変化に気づきにくいし。




「しかし…」


それでも不満げなディラン様。




「私は大丈夫ですし、こんなことでディラン様の評判が落ちることはありませんので。どうぞ馬車にお乗りください」


私の言葉で渋々馬車へと乗り込むディラン様。




ディラン様の馬車を見送り、私はいつも通り歩いて家路についた。




今日はイザベラとアンドレが来るから、とりあえずお茶でも準備しないとね。厨房に行き、紅茶セットを準備し居間へと運ぶ。




そうこうしているうちに2人がやって来た。




「アンネリカ、来たわよ。はい、うちの料理長お手製のケーキよ」


イザベラの家は領地経営もうまくいっているようで、比較的裕福だ。複数のメイドに料理人がいる。もちろん、イザベラ専属のメイドだっているのだ。我が家とは大違いね。




「俺も領地で取れた自家製ジャムを持ってきたぞ」


アンドレの家も比較的裕福。いつの間には我が家だけが貧乏になってしまった。でも、貧乏になっても、2人は変わらず友達でいてくれる。私にとって本当に大切な友人なのだ。




「それで、どうしてディラン様とあんたが付き合っているのよ!一体何があったの?」


私は2人に紅茶を入れていると、早速イザベラが話しかけていた。




余程気になるのか、かなり前のめりになっている。私も席に着き、紅茶を1口飲んだ。




「もったいぶらずに早く教えてよ!」


もう気になって仕方がないイザベラ。ついに立ち上がってしまった。




「実は私たちは本当に付き合っている訳ではないの。ちょっとある事情があって、ディラン様の恋人役を演じているだけなの」




私は2人にディラン様とカサンドラ様が駆け落ちしようとしていると言う事実は伏せ、昨日の出来事を話した。




「要するにファイザバード公爵令息とキャンベル公爵令嬢との仲を疑った王太子殿下の目を欺く為に、お前が恋人役に抜擢されたって訳だな。まあ、普通に考えればそんな恋人役なんて、どう考えてもデメリットしかないだろう。それなのに、お前は…」


ハ~っとため息を付くアンドレ。本当にごもっともな意見である。




「それだけアンネリカがディラン様を好きという事でしょ。まあいいんじゃないの?毎日ストーカーの様に、ディラン様の事を追いかけまわしていたし。ある意味良かったんじゃない?1年という決められた時間だけでも、好きな人と一緒に居られるんだから…」




そう言うとイザベラは寂しそうに笑った。




「ありがとう、イザベラ。私この1年の間に最高の思い出を作って見せるわ」


私の言葉に頷くイザベラ。




「わかったよ!アンネリカがそれでいいって言うなら、俺はもう何も言わない。でも、困ったことがあったらすぐに俺たちに相談しろよ。」


呆れながらも、納得してくれたアンドレ。




「そうよ、私たちに出来る事があったら何でも言って。協力できることは何でもするからね」




「2人共ありがとう」




思い返してみれば、私が家の経済難を救う為、隣国の金持ちオヤジのところに嫁ぐことが決まったのは2年前。その時、誰よりも怒ってくれたのがイザベラとアンドレだった。イザベラとアンドレは何とか家から援助を出来ないか、親に掛け合ってくれたな…




結局我が家の借金返済には厳しく、結果的に私が隣国に嫁ぐことは覆らなかった。それでも2人には感謝しかない。




とにかく、2人には出来るだけ隠し事はしたくない。これからも、何でも話して行こうと思っている。






「そうそう、この事は内緒にしておいてね。もし王太子殿下に私たちの事がバレたら、かなりヤバい事になりそうだから」






「当たり前でしょ、こんな話誰にも言えないわよ。ねえ、アンドレ」




「ああ、もちろんだよ。この事は墓場まで持って行くよ」


墓場までは持って行ってもらわなくてもいいんだけれどね…




この後は3人でイザベラが持ってきてくれたケーキを食べて、いつも通り3人で雑談をした。




私が隣国に嫁いだら、きっともうこんな風に3人で話すことも無いんだろうな。この2人とも、たっぷり思い出を作っておかなくっちゃね。2人の顔を見ながら、アンネリカはそう強く思ったのであった。




2人が帰った後は、夕食の準備を手伝うのと同時に、明日のお弁当の下準備を行う。うちには料理人がいないので、お母様と私、2人のメイドでご飯を作っているのだ。




「アンネリカ、なんだか嬉しそうね」


私が明日のお弁当の下準備をしている時、隣で料理を作っていたお母様が話しかけてきた。そりゃもちろん、ディラン様に食べていただく為のサンドウィッチの下準備をしているんだもの。楽しいに決まっているわ。




そう言いたいところだけれど、さすがにお母様には言えないわよね。




「そうかしら。いつも通りよ」


そう答えておいた。




そして、家族で夕食を食べ、湯あみをしてベッドに入る。今日は本当に夢の様な1日だったわ。これから1年はこんな風にディラン様と一緒に過ごせるのね。




喜びと幸せで胸がいっぱいのアンネリカには、これから沢山の試練が降りかかるなんて、夢にも思っていなかったのであった。

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