第3話 奪われた未来 2
翌日、学校への道のりを歩いていた。足取りは重く、頭は常にぼーっとする。散漫なまま学校にたどり着くと、僕はふと旧校舎を見上げる。
「…………」
会って謝りたい。けど会いたくない。連絡先も知らないし、クラスだって知らない。けど、この気まずさを押し殺せば、またいつもの平穏がやってくるはずだ……。
向き合いたい気持ちと、逃げたい気持ちに挟まれたまま、僕は自分のクラスに行くと、いつもの調子の友達が寄って来る。
「おっは〜亜樹〜!」
変わらない様子陽介。
「……おはよう」
物静かな武。
そんな二人の挨拶に返す元気すらなくて、項垂れる様に自席に座る。明らかに様子がおかしい僕に二人は当然のように気が付く。
「ん〜? 元気なさそうだねぇ」
「悩み事か?」
「……ちょっとね」
僕は不機嫌そうに視線を外し答えた。
「へぇ〜。莉愛ちゃんの事だったりして〜」
と、いつものヘラヘラした様子で図星をつかれ、僕は思わず無言で陽介を睨み付けた。
「あ、当たっちゃった……?」
そうだとは思っていなかったらしく、当てた陽介が自信が戸惑っていた。
「……なにがあったんだ?」
心配したように武が聞いてくるが、僕はこれと言って答える気もなく。
「別に……」
と、僕は冷たく返す事しかできなかった。
すると、遅れてやってきた日向が、楽しそうに教室に入ってきて、わくわくした様子で挨拶してくる。
「おっす~、亜樹~!昨日はどう……だっ……た?」
が、僕の様子を見た瞬間、何かを察したようで、僕の肩をわしづかみ、
「ど、どうした!? 失敗したのか!? 俺のコーディネートが悪かったのか!?」
と、深刻な顔で詰め寄ってくる日向に僕はイラついて、
「うるさいなぁ! 関係ないから気にしなくていいよ!」
的外れで、彼の応援を無碍にしてしまったことに僕は触れられたくなくて、つい怒鳴ってしまった。
「……そ、そうか」
朝から雰囲気は最悪で、僕達の間に気まずい空気が流れ、始業のチャイムが鳴った。
昼休み、僕は食欲がなくて弁当を広げるが、食べる気はなかった。
「……なぁ、何があったか話せよ」
朝あんなふうになったが、日向達3人はめげることなく僕の元に集まって弁当を食べていた。
「話した方が楽になることがあると聞いたことがあるぞ」
「そうだよ~別に何言っても軽蔑しないよ~」
時間もたち、3人の変わらない様子に僕も折れ、端的にまとめて話す。
「……デート中に僕がトイレ行ってる間に帰った」
一言で結果を伝えると、
「「「……なんで!?」」」
と、3人は声を合わせて驚いていた。
「……怒っちゃったから」
「お前が怒るって……一体何があったんだよ」
日向が本気で分からないといった顔をして聞いてくる。
「……ん」
僕は、ポケットからまだどこにも張っていない、プリクラを3人に見せる。先日白々さんと撮ったやつだ。
「なにこれ、白々さんじゃん」
二人の女性らしきものが移ったプリクラを見て陽介が答える。
「もう一人は……誰だ?」
日向も白々さんを理解するが、隣の女性が誰か分からないようで、
「白々さんの友達か?」
と武が当てに来る。
「それ僕だよ」
と、僕は窓の外を眺めながら淡々と答えた。
日向が信じられない、といった顔で僕とプリクラを交互に何度も見る。
「プリクラってすごいよね。加工だらけで誰かわからないんだもん」
と、僕は遠くを見ながら棒読みでいう。
「いや、加工したってわかるって……白々さん分かったし……いや、そうじゃなくて……なんでおまえ……女装してんだ?」
もっともな質問を日向がしてくる。
「莉愛さんが、してって言ったから」
淡々とそう説明すると、
「……あ~、あの人なら言いそうだね」
想像に容易かったのか、陽介がそういうと、
「「……同感だ」」
と、日向と武が声を合わせて頷いた。
「詳しく話せよ。これじゃ気になって午後の授業どころじゃなくなるぞ……」
日向が真剣にな表情で聞いてくる。
「…………わかったよ」
僕は誰にも話したくないけど、誰かに助言が欲しくもあった。でもそれがまた情けなく思っていたけど、僕は3人に昨日のデートのことを詳しく話した。
「……それはやっちまったな」
話を聞いた日向が、憐れんだ目で僕を見ながら言った。
「分かってる。けど……もういいかなって」
「いいかなって、なにがだよ」
「もう彼女に会わなくてもいいかなって」
僕のその言葉に、3人は一瞬黙る。
しかし、すぐに日向は僕のそんな言葉を強く否定する。
「本気で言ってるなら別に止めないけど……それが逃げで言ってるなら絶対やめとけ。どんな方法でもいいからちゃんと謝れ。そうしないと一生後悔するぞ」
「…………」
真面目に日向に言われ、僕はうんとは言えず、黙ることしかできなかった。
僕の長話のせいか、大したアドバイスは貰えず、午後の授業が始まる。
僕は午後の授業をずっと、謝るか謝らないかを考える時間に使い、まるで授業には集中出来ず、悩んだ末に謝ることに決めた。
放課後、僕は重い足取りで旧校舎に向かった。
行きたくない。けど行かないわけにはいかない。
日向に言われた通り、逃げたら一生後悔する。内心それは分かっていた事だ。正直、逃げることばかりを考えていた僕は、日向に言われなければ謝る気は無かったかもしれない。
いや。考えてもみれば、彼女を傷つけたんだ。このまま逃げたら、僕は物語で見る、最低野郎になり下がる。そうなりたくなければ覚悟を決めろ。僕は、自分の人生の主人公になるんだ。
旧校舎、いつもの旧校舎の教室入口前に着く。僕の心臓は早く脈打つのを止めようとはしない。
深呼吸をすると、僕は勢いよく扉を開ける。
中には……誰の姿もなかった。
いつもいた彼女の姿がそこにはない。僕は、初めてこの教室を訪れた時のことを思い出す。
夕陽が眩しくて、誰もいない静かな空間にある、僕だけの特等席。いつしかその空間は鮮やかな彩に溢れ、暖かで明るい日々に変わっていた。
僕はそれを強く感じた瞬間、なんて馬鹿なことをしたんだと再び強く後悔と申し訳なさが溢れてくる。
僕のただのプライドで、何も悪いことをしていない彼女に怒った。誰が聞いたって悪いのは僕だ。
早く謝らないと。謝って許してほしい。
……許してくれるだろうか。いや、酷いことをされて、許せないなんてそれは当然で。
でもやっぱり、彼女を失いたくない。少なくとも、このまま終わりなんて……絶対に嫌だ!
旧校舎を抜け、学校中を探し回る。それが最良だったのかは分からない。でも、いてもたってもいられなかった。汗だくになりながら学校中を駆け回る。ただ彼女に謝ることを考えて。
しかし、無情にも日は暮れ行く。再び旧校舎に戻ってみるが、やはりそこに彼女はいなくて。僕はどうしようもない虚無感に苛まれた。
「……最低だ、僕は……」
翌日から空っぽの日々が続いた。授業は頭に入らず、友達と遊ぶ気にもなれず、ましてや本を読む気も起きず、何もしたくない日々。しまいには、旧校舎に足を運びもしない。
日向達も、僕の落胆した様子で察したのか、あれ以来僕に白々さんのことを聞いてくることはなかった。
冷静になって考えてもみれば、僕は彼女にとって面白いおもちゃのような存在だ。本を演劇朗読する変な奴を、ただ面白がっていただけに違いない。
そんな僕が反旗を翻したら、捨てられるのは明白だ。
どうしようもないことに、僕が出来ることは、気持ちに折り合いを着けることだけだったのだ。
「……亜樹」
学校の昼休み、僕は呆然としていると一緒に弁当を食べていた日向に名前を呼ばれ我に返る。
「え? ……なに?」
「最近旧校舎いってねぇのな」
「うん。別に行く理由もないし」
我に返った僕は感情のない声で答え広げていた弁当を食べる。
「…………」
あれ?
「なんで知ってんの!?」
僕は箸でつかんだごはんを再び弁当の中に落とし、目を見開きながら日向に聞いた。僕は旧校舎のことを誰にも話していない。
すると、陽介が説明を始める。
「学校で日向と購買で喋ってたら、亜樹が旧校舎に行くのが見えて~何だろうと思って後着けたことがあったの~」
「そしたら旧校舎に入っていくから何だろうと思ってな」
付け足す様に日向もそういう。
「面白そうだからついていこうと思ったけど、日向に止められた~」
「俺たちに内緒にしてるんだから探る様な事したら悪いだろ」
「まぁね~だからすぐ帰ったけど」
「そのうち話してくれるかもと思ったんだけどな。まぁ言いたくなかったら別に言わなくていいよ」
と、話を切り上げ、日向は弁当を再び食べ始める。
「……そうだったんだ」
知られていたことに、驚いた。
僕は隠してることに少しは罪悪感があった。だから、話すか話さないか迷ったが、バレているなら、もう話してもいいかと思った。
「……僕の一番好きな事って知ってる?」
唐突にそう切り出すと、
「え、なに? しらな~い」
まったく考えるそぶりも見せることなく陽介は答える。
「お前はもうちょっと考えろ……好きな事って、読書か?」
日向は陽介に突っ込みながらも真面目に答えてくれる。
「そう。で、その読書をする僕は変な癖があります。なんでしょうか」
クイズを出す様に僕は二人に問い掛ける。
「癖?」
「そんなのわかるわけないじゃん。読書好きってこと以外なんもしらないんだもん」
と素直にいう陽介に、僕も長い事悩んでほしいわけじゃないのですぐ答える。
「僕、物語に集中すると、思わず声が出るんだ。朗読劇みたいに、配役やモノローグになりきる」
「…………」
「へぇ、変な癖~」
と、思わず口にする陽介。
「おい!」
咄嗟に亜樹が陽介にそういうと、さすがに陽介も察したのか謝ってくる。
「あ……いや、ごめん! そういう意味じゃなくて……」
「いや、いいよ。実際変な癖だし、言われてた所でなんとも思わないから」
それは慣れた反応で、僕は特別落ち込むことも無かった。
「じゃあ、お前本読むために旧校舎行ってたのか?」
「そうだよ。それ以外に理由なんてないよ」
「ふ~ん……」
そっけない答えに、なんとなく気まずくなってしまった。
けど、僕は空気を埋める余裕なんてなくて、黙々と弁当を食べ始める。
「……あれ?」
すると僕は急になんだか、いつもよりも自分の周りの空間が広く感じた。
そこでようやく、僕はいつもと違う事象に気が付いた。
「そういや武は?」
もう一人いつもいる友達、武が朝からまったく姿をみてもいないことにようやく気付く。
「今更かよ。今日は朝用事があるから午後から来るってさ」
日向が食べながら答える。
「……なんかあったの?」
「病院だって。お母さんが怪我したらしい」
「そうなの? 大丈夫?」
「そんなに大したことないらしいよ~」
と、軽く陽介が答える。その反応に、本当に大したことはなさそうで、僕はほっと胸を撫で下ろした。
「そっか……良かった」
自分の事を話したせいなのか、時間が経ったからなのか。僕は、ほんの少しだけいつもの調子に戻りかけていた。
その後、昼休みの終わり際に武が学校にやってくる。
「おはよう。心配かけたな」と、僕達に声をかけ、そんなに大きな怪我でなかったことを改めて武の口から聞き安心する。
「…………」
武の母のことに安心していると、武が僕のことをじっと見ているのに気が付く。
「……な、なに?」
「あ、いやなんでもない」
何かを言いたそうにしていたが、武がそう誤魔化すと、午後の授業が始まる。
授業中、少しだけ傷が癒えた僕は、前向きに事を考えていた。
前を向いて歩く。謝れなかったこの気持ちは、確かに一生付きまといそうだ、と、あらためて日向の言葉が胸に刺さる思いだった。けど、これは反省し、将来同じ失敗をしないよう
そして、2限ある午後の合間の休憩中、僕は久々に皆と遊びに行こうと誘おうと思った矢先、
「……亜樹。ちょっといいか?」
と、武が改めて深刻そうに話しかけてくる。
「なに?」
「いや……触れないほうが良いかと思って迷っていたんだが……やはり伝えるべきかと思ってな」
「……? うん」
言いにくそうに言い淀んでいると、日向と陽介が僕と武の元に集まってくる。
「昼に登校した時、旧校舎の方に行く人影が見えたんだ。遠目だったが、どこか見たことある気がして後を追ったら……白々さんが旧校舎の足元にある換気用の窓から入っていくのが見えたんだ」
武の言葉に心臓が高鳴る。落ち着てきた焦りや不安が急激に襲い、全身から冷や汗が出る。
「彼女は一体、何をしているんだ? 既に旧校舎は生徒立ち入り禁止のはずだが……意外と不良なのか……?」
冷静に疑問を持つ真面目な武。しかし、僕はその疑問にはまるで聞く耳を持てなかった。
「亜樹」
冷静な日向の声が聞こえる。日向の顔を見ると、真剣な顔で僕をみていた。
「チャンスは二度と来ないぞ」
日向の言葉に突き動かされ、鬼気迫ったように教室を飛び出した。
「お、おい! もう授業始まるぞ!?」
武の呼び止めは耳に入らず、僕は人目も気にせず、自分に出来る精一杯の速度で校舎を駆けた。
何故今更? 僕に呆れたんじゃないのか? 僕に会いに来てくれた? それとも彼女が怒ってるのはただの杞憂だったのか?
走りながら色々な思いが巡る。けれどそんなの考えたって答えは分からない。動いた足は止まらない。
どんな理由だっていい。彼女に会えるなら、会って謝れるなら……僕は!
「白々さん!」
いつもの扉を勢いよく開けると同時に、僕は叫ぶように彼女の名前を呼んだ。
教室の中には、驚いた表情で僕を見る白々さんの姿があった。
僕は嬉しさと同時に、悲しみや申し訳なさが溢れる。
僕は息を切らしながら、ふらふらになりながら、迷うことなく窓辺にいた白々さんの前まで行くと、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい! 僕は最低な事をしました! 白々さんは何も悪くないのに、僕の一方的な感情で怒ってしまいました! ただ僕は……あまりにもあの時の自分の姿が情けなく見えて……それで、自分が嫌になって……僕の事なんてまったく目にとめてくれてないとか思ってしまって……それで……ついつい怒鳴ってしまいました! 本当に……本当にごめんなさい!」
心から思っていることが、口から勝手に出てくる。僕の口は、まだ喋るのをやめない。
「許して欲しいなんて傲慢です……。けど、白々さんと過ごした日々はとても彩豊かで、僕の日常に色をくれたんです。だから……このまま会えなくなるのが嫌で……いやで!」
勝手に開く謝罪の口は、僕の心の中を全て吐き出すようで。僕は気がつけば、泣いて嗚咽していた。
「ほんとに……すみませんでした……許して……許してください」
情けない。けれどそのすべてが本音で。僕は顔を上げることもできず、ただ彼女が喋ってくれるのを待っていた。
「……頭を上げてください」
数秒の沈黙の後、優しい彼女の声が聞こえた。
僕は、涙でぐちゃぐちゃな顔を、情けなくてはしたない顔を彼女に見せた。
「なんて言えば良いのでしょうか。私も……えっと……あはは……言いたいこと全部言われちゃいました」
乾いたように白々さんは困りながら笑った。
「……どういうことですか?」
涙を流しながら、変な声のまま僕は尋ねた。
僕の問いかけに、白々さんは申し訳なさそうな顔をして説明をしてくれる。
「許して欲しいのは私の方です。東條さんの気持ちを、これっぽっちも考えてなかったなぁとここ数日間考えていました。私がただしたいことをしたいように、ずっと東條さんを振り回していたとようやく気が付いたんです。初めて人に怒られて……怖くなって逃げてしまいました。東條さんが怖かったとかではないんです。私が、怒らせるようなことをしてしまったことに、どうしようもなくなって、戻ってきた亜樹くんに怒られるのも、謝らなければ行けないことにも怖くなって……逃げてしまいました……。本当にごめんなさい……」
今度は逆に、白々さんが深々と頭を下げた。
そして、自分のことを少し語り始める。
「普段の私は人を切り捨てていきます。私を嫌う人、私を変な目で見る人。それが、私が自分を保つための方法です。そうやって、今回も全てを無かったことにすれば言い……そう思ってました。けれど、何日経ってもずっと後悔したまま、この気持ちが晴れることはありませんでした。怒らせてしまったことを、ずっとずっと後悔した気持ちが膨れていくばかり。忘れることは出来ませんでした。亜樹くんとここで初めて出会って、不思議な毎日を送る日々。楽しくて、おかしくて、何をしても付き合ってくれる亜樹くんといる時間は本当に幸せでした。その時間がなくなって、ようやく気が付きました」
白々さんは頭を上げると、目に涙を溜めながら真剣な眼差しで、震えた声で告げた。
「私、亜樹くんが好きです」
我慢していた気持ちが決壊したのか、白々さんはそれはもう唐突に、泣きながらの告白だった。
「……え?」
僕はあまりにも唐突で、なによりも謝る気持ちでいっぱいだったため、彼女の言葉を台詞を受け入れきれず、そう口に出ていた。
涙を流しながら、彼女はさらに続けて想いを語る。
「こんな気持ち初めてです……失いたくなくて、寂しい気持ちで胸が一杯になったの……。だ、だから……覚悟を決めました。逃げちゃ駄目だ。謝って、ちゃんと向き合わなきゃってそう思った時……これが恋なんだって気が付いちゃいました……適当に切り離せない……喧嘩して、嫉妬して、離れたいけど離れたくない気持ち……。ごめんなさい亜樹くん。私、あなたのことが好きです。酷い扱いをしてしまった私を許して下さい……」
頬に涙を伝わせながら、嗚咽交じりに白々さんはまた頭を下げる。
僕は自分が謝られる理由が全くなくて、彼女が謝ることを受け入れることができなかった。
「な、なんですかそれ……ずるいですよ! こ、こんな急に……す、好きだなんて! ぼ、僕だってまだ許してもらっていないのに……」
僕にも非がある。後悔してる気持ちを許してくれなければ、僕の気持ちは晴れることはない。
「亜樹くんは悪くないんです私が悪いんです……」
「いや、悪いよ! 怒鳴ったのは僕なんだから!」
「いえ、亜樹くんの気持ちを弄んだ私が悪いんです!」
「いや、僕が!」
「いえ、私が!」
譲らない攻防が続いた。僕は白々さんと会話出来ていることに、お互いに謝っているこの状況に、段々と固執していた気持ちが冷静になっていく。
間違いなく悪いのは怒ってしまった僕で、けど白々さんも、僕を女子として扱ったことを悔いてるわけで。
それでお互いが悪かったことを理解し、反省しているのなら、どっちが悪かったのかそんなに主張しなくてもいいのではないだろうか。
「……じゃあ、二人とも悪かったってことでいいですか?」
僕は涙声で諦めてそう提案する。
「……そうしましょう。だから、もう泣かないでください」
涙目で白々さんはそういうので、
「そういう白々さんだって泣いてるじゃないですか」
と、言い返した。
「仕方ないじゃないですか……ずっと嫌われちゃったと思ってたんですから……」
「僕もです……嫌われたのかと思ってました」
「気持ちはちゃんと伝えないと駄目ですね」
「……ですね」
僕達はお互いに目を真っ赤にしながら、ようやく笑顔で笑い合うことができた。
僕たちはそうして、お互いにお互いを許し合い、ようやく心が落ち着く。
「あ、あの……」
落ち着いた静寂を遮るように、白々さんが控えめに僕にそう呼びかけた。
「はい?」
「……返事はくれないんですか?」
恥ずかしそうに言う白々さんに、僕は告白された返事のことなのだと察する。
「あ、いや……そうですよね」
色々な感情の起伏で、中々気持ちが整理出来ず、答えを言っていないことを忘れていた。
「……こんなみっともない僕でいいんですか?」
この期に及んで、僕は自分に向けられた好意に自信を無くす。
「自信もってください! 私だって……みっともなかったでしょう? そんな事で私を嫌いになったりしましたか?」
頬を赤く染めてそういう彼女は妙に説得力があり、その通りだと思った。
「じゃ、じゃあ改めて……」
僕は声を整え一度目を閉じて深呼吸をすると、彼女の目を真っすぐ見て答える。
「僕も白々さんが好きです。付き合ってください」
「……はい! よろしくお願いします!」
これまでのどんな表情よりも幸せそうに、彼女はそう答えた。
その後、落ち着いた僕達はまだ授業が残っていたので、放課後にまたここで会う約束をして、慌てて教室に戻った。
教室に戻った僕は先生に注意されながら席に着くと、日向がこっちを見ていた。
そして、僕の顔を見て全てを悟ったのか。親指をぐっと立ててきた。
僕も笑って、日向に親指を立てた。
授業を聞きながら、そういえば連絡先を聞くのを忘れたことを思い出す。
今度こそ後で聞かなきゃ。そう思っていた。
授業が終わり、僕は足早に教室を出る。何か大きく今までの関係が変わるわけじゃない。けれど、告白し、両想いだとはっきりした今。僕は心が浮足立っていた。
陽気な気持ちで旧校舎に行く。しかし、まだ白々さんは来ていなかった。
僕は鼻歌でも歌いながら、陽気に彼女が来るのを待っていた。
…………しかし、日が暮れても、彼女が姿を現すことは無かった。
この告白の日が、僕が白々さんと会えた最後の日だった。
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