第2話 絶望の日々 2
「この後どこに行きましょうか」
僕らはひとしきりご飯を食べ終えると白久さんにそう聞かれ、再び行き場所の話になる。
悩みながら白々さんはジュースをストローで啜る。
う~んと悩んでいると、白々さんのジュースが無くなる。
「飲み物取ってきますよ」
ドリンクバーを頼んでいたので、僕はそういって立ち上がり手を差し出す。
「あ、ありがと~。じゃあオレンジジュースお願いします」
自分のコップも持って白々さんのコップを受け取り、ドリンクバーコーナーにいく。ジュースを注ぐボタンを押し、注ぎ終わるのを待つ間に僕もこの後行く場所を考える。
日向の言っていた通り、ショッピングセンターに行くのが無難かな。
でも、もう少し遊ぶって感じの所に行くのもいいかも。でも、女子相手だとやっぱりもっと大人っぽくて雰囲気のあるところのほうが……
「あれ~亜樹じゃん!」
と、考えにふけっていると、聞き慣れた声が聞こえる。
声のほうを見てみると、そこにはよく見知った顔、陽介がいた。
「げっ! よ、陽介!」
咄嗟に見つかっては行けないと思った僕は苦い顔をしていた。
「一人でファミレス? 誰かと来てんの?」
「う、うん……まぁ……そんなところ」
誤魔化しながら曖昧に答える。
「家族?」
「いや、違うけど……」
「だれだれ? もしかしてデートだったりして~」
「…………」
図星を付かれた僕は思わず黙ってしまった。なんで陽介はこういうときだけ感が良いんだ。
「……そうなの?」
黙った僕に、まじかよ、といった顔で聞き直す。
「デートでは……ない」
二人で一緒に遊んでいるだけ。デートじゃない。僕は自分にそう言い聞かせながら答えた。
「まじ!? え、お前仲のいい女子とかいたの!?」
驚きでテンションが上がったのか、声が大きくなる陽介。うるさ、迷惑だぞ。
「いや……まぁ……」
切羽詰まった僕は曖昧に答えることしかできなくて、視線をそらして時が過ぎるのをただ待った。
「なんだよそれ教えろよ~! どうやって出会ったんだそんな人~!」
「し、静かにしてよ……迷惑だって……」
あまりにもうるさいので、興奮する陽介を窘めていると、背後から声が聞こえる。
「騒がしいぞ陽介……って亜樹?」
振り返ると、背後から武がやってきた。その隣には、日向の姿もあった。
「二人もいたの!?」
僕はまさかのいつもの面子に驚いていた。
「お前、デートじゃねぇの?」
呆れた様子で日向が僕に聞いてくる。
「……そうだけど?」
ここまできた僕は、開き直る以外になかった。日向には全部バレているし。
「デート? 亜樹に恋仲になる異性の相手がいたのか……」
武も落ち着いていたが驚いていた様子だった。
「てか、皆こそなんでここにいるの?」
僕は当然の疑問を問いかけると、
「ボーリングした後に寄った。よく使うだろここ」
日向に言われ、そういえば昨日そんな誘いを受けた事を思い出す。
「ああ……なるほど皆で行ってたのね」
「お前も……デートでここに来るとは思いもしなかったよ」
昨日散々デートの話をしていたからだろうか。ファミレスという選択を取るとは想像もしていなかったようだ。僕がそんな急に雰囲気にいい所なんて行けるわけなくて、むっとして答える。
「うるさいな……そんな良い所僕がいけるわけないでしょ……」
と、何かを知っているようなやり取りをする僕と日向に、陽介が気が付く。
「え、何? 日向知ってたの?」
日向は隠すつもりもなく素直に答える。
「知ってたと言うか、隠してたっぽいけどバレバレだった」
「う、うるさいよ……」
僕は自分のていたらくに少し恥ずかしくなりそういうしかできなかった。
「とりあえず、デート中なのだろう? 戻ったほうが――」
と、武は冷静に僕の事を案じようとしてくれてそう言いかけた時、
「東條さん? どうかしましたか?」
中々戻ってこない僕を心配したのか、白々さんがドリンクバーにやってきた。
皆が白々さんの方を見る。
3人の男子にじっと見られ、少したじろぐ白々さん。
「……お、お知り合いですか?」
タジタジとした言い方で、白々さんがそういうと、
「めっちゃ可愛いじゃん!」
と、陽介の声が店内に響き、店員に怒られた。
僕達は一旦場の混乱を収めるため、同じ席に5人につき、状況を説明することに。
横並びに友達集が奥から日向、武、陽介の順に座り、向かいに僕と白々さんが横並びに座る。
「初めまして。白々莉愛と申します」
丁寧に座り、軽く頭を下げながら自己紹介をする白々さん。
深々とお辞儀をする白々さんに3人はそれぞれの深さで会釈を返す。
そして、顔を上げた白々さんに僕は3人を紹介する。
「えっと、こっちは奥から順に、日向輝、近藤武、田中陽介。僕の友達です」
紹介すると、順に挨拶をする。
「初めまして。亜樹とは幼馴染だ」
「近藤武。中学の頃日向と仲が良くて流れで亜樹とも友達になった。よろしく」
「田中陽介で~す! どうやって仲良くなったのかは忘れた~。よろしく!」
それぞれが自己紹介を終えると、白々さんは皆に興味を持っていた。
「よろしくお願いします。皆さんとても仲良さそうですね」
白々さんの言葉にいち早く応えるのは陽介。
「まぁね~! 夜通し日向の家でゲームしたりする仲だし!」
「え、毎日そんな風なんですか!?」
妙なくらい食いつきを見せる白々さん。
「いや流石に毎日では……。たま~にだよ」
と、やんわりと訂正をいれる日向。
「あ、そうだ。陽介、あの時の金返せ。買い出しの金貸したままだろ」
そして、泊まった時のことを思い出したのか、武が唐突にそんな話を始める。
「え?何のこと?」
覚えてない様に陽介が応える。
「惚けるな! 金ないからってお前の夜食代1000円貸しただろ。返せ」
「今手持ちないからまた今度ね」
「いや、駄目だ、今すぐ返せ、後回しにするとお前絶対返さないから」
そういって二人は返せ返さないのやり取りを始める。
なんで今そんな事するんだよ……と思っていると、
「お前ら……そんなのは後でやれや!」
と、日向が強めの突っ込みを入れ二人は無意味な問答を止めた。
場を仕切り直すように、日向が白々さんに質問を投げかける。
「白々さんは、亜樹とどういう関係なんだ?」
「気になる~! 全然亜樹に彼女がいる様子なんてなかったのに!」
陽介が興味深々にそう言ってきた。
「彼女じゃない!」
「恋人じゃないです!」
僕と白々さんは声を揃えて否定した
「……違うのか?」
以外だといった様子で日向が僕に聞き返す。
「違うよ……違うけど……えっと……なんていうんだろう」
僕は白々さんとの間柄をなんと形容していいのか分からなかった。
友達にしては日が浅いし、今していることはまるでデートのような事。でも恋人じゃない。
「……秘密の関係です」
悩んでいると、白々さんがそんなことを口走る。何故余計怪しくしたの?
「何それ~! どういうこと!? 友達でも恋人でもないの!?」
陽介が食い気味に聞いてくる。
「ふふ……秘密なので教えられません」
白々さんは楽しそうに笑っていた。
なんて隠微な表現を使うんだ。確かに誰にも言えない事をしてるけど、何か語弊が生まれそうだ。その証拠に、武が僕を見る目が強い疑いの目になっている。こわっ。別に怪しいことをしてるわけじゃないから睨むの止めて。
「白々さんは同じ学校? 一度も見たことないなぁ」
日向は思い出そうとしながら白々さんに問いかける。
「はい。3年生なので、あまりに見かけることはないかと思います」
「「3年生!?」」
驚きの事実に、陽介と武が驚いていた。
「す、すみません……普通にタメ口で喋ってました」
慌てて武は謝罪する。
「い、いえいえ! 気にしないでください! むしろそのほうが嬉しいので」
しかし、それを白々さんは否定した。
「じゃあ莉愛さん! 亜樹の好きなところは~?」
と、陽介が唐突に白々さんを名前でよび、合コンのノリのようなことを言い始める。僕は陽介の急な名前呼びにムッとした。僕一度も呼んだことないのに。
「東條さんの好きな所ですか……え、えっと……」
照れたように僕のほうをちらちらと見ながら考える。
「や、やめてよ。白々さん困ってるだろ」
と、僕は困らせたくなくて陽介にそういうと、
「い、いえ! あります! 東條さんの好きな所」
と、言うつもりらしい。僕的にも人までそんなの言われるのはずかしいから拒否ってくれて良いんですけど。
「……お、男らしい所です」
と、恥ずかしそうにしかし心から出た言葉のような言い方に、僕は顔を赤くして照れる。
「…………?」
友達3人衆は無言で信じられないような顔をして僕の方を見てくる。何? 不満なの?
……まぁ、3人の言いたいことは分かる。座ってても白々さんと座高がほぼ変わらず、細い腕も白々さんと対して変わらない僕の何処に男らしさがあるのかと言いたいのだろう。
一頻僕の身体を見ると、陽介が鼻で笑って喋る。
「なにいってんの。亜樹なんてどっちかっていうとじょし――」
陽介がそう言いかけた所で、武が陽介の口を手で抑えた。
「何でもない……気にするな」
空気を呼んでくれた武が濁してくれる。
白々さんは苦笑いをし、逆に皆に質問をする。
「皆さんは東條さんのどういった所が好きですか?」
なにこの会話。僕は辱めを受けているんだろうか。自分が話題の中心にいるのが恥ずかしすぎて死にそうだ。
そんなことを思いながら3人の言葉を待っていると、日向、武、陽介の順に立て続けに答える。
「幼馴染」
「気楽」
「宿題写させてくれる」
無感情でそれぞれ一言。なんて奴らだ。恥ずかしいとか思ったこっちがバカみたいじゃないか。幼馴染が良いとこって、何にもないって言ってるようなものだ。
「そ、そうですか……」
反応に困ったように白々さんはそう返す。ほら、白々さんも困ってる。止めようこの話。誰も得しないよ。
「じゃあ……逆に駄目だと思う所はありますか?」
しかし僕の想いに反するように白々さんはそんなことを聞いた。
「え、そんなこと聞きます?」
僕は思わず白々さんに聞いていた。
「はい。親密な方からの批評はちゃんと参考にしたほうが良いですよ?」
笑いながら僕のほうを見る白々さん。その目は笑っているが奥のほうに違う意図を感じた。
……これはあれだ。ホラー映画を無理矢理見させられた仕返しだ。僕を辱めようとしている。
「ん~別にないけど、しいて言うなら……」
日向が悩んだようにそういうと、同じように3人が答える。
「考えすぎ」
「気が弱い」
「宿題写させてくれない」
天丼な返答。
「僕に興味無さすぎない!?」
僕は思わず口を挟まずにはいられなかった。
「いや、だって……そんなにないし」
「良いも悪いも考えたことがない」
「そうだよ~。友達なんてそんなもんじゃん」
それぞれが順番に言い訳を述べる。
「どの口が言うのさ! てか、陽介なんて僕を道具としてしかみてないじゃない!」
さっきから僕をコピーマシンみたいな言い方をする陽介に苦言を呈した。宿題以外に価値ないのか。
「え~だってホントに何にもないからふと思ったこといっただけじゃん」
「そ、そうだったとしてももっとなんかあったでしょ! まったく……」
僕が適当な事をいう皆に文句を言っていると、
「へぇ……じゃあ、亜樹は白々さんの何処が好きなんだ?」
日向が悪そうににやけながら僕に聞いてくる。
「え……そ、それは……」
突然の振りに僕は思わず焦る。
「シンキングタイム5秒~! 1……2……」
それにのるように陽介が勝手にカウントダウンを始める。え、どうしよう。
「4……5! はいどうぞ~!」
「……は、春の嵐?」
咄嗟に出た言葉を言うと、みんな一様にシーンと静まる。
「……それ褒めてんのか?」
日向が武に確認する。
「何かの比喩だとは思うが……でも嵐って表現はどうなんだ?」
武に真面目に否定される。
「え~……女子にそんな言葉使うとか亜樹ってばデリカシーないな~」
と、僕をドン引きした目で見ながら陽介も否定してくる。
「……それは私がガサツとおっしゃりたいんですか……?」
白々さんもそれにのるようにムッとした上目づかいで睨んでくる。
僕は全力で弁解を始める。
「ち、違いますって! その……僕の心情に当てはめた意味なんです! 冬の寒さを吹き飛ばし、暖かな春がやってきて、穏やかで退屈な日常に刺激をくれるというか……」
「ぷっ……あはははは!」
と、慌てふためく僕を見てなのか、突然白々さんが吹き出して笑いだす。
「じょ、冗談ですよ東條さん。あまりにも皆さんのやり取りが面白くてつい私ものってしまいました、ごめんなさい」
笑って涙が出たのか、涙を指で拭いながら謝る。
「分かりますよ。春の嵐。確かに、出会いは急でしたもんね。そんな感じだったかと思います」
と、白々さんだけは理解してくれた。
「わ、わかっていただけたなら良かったです……」
白々さんの言葉に、僕の昂った気持ちが一気に冷静になった。笑われたのは恥ずかしかったけど。
それにより、僕達の間に一瞬落ち着いた雰囲気が流れる。
……しかし、落ち着いた静寂に爆弾を投下する言葉が陽介から発せられる。
「結局さぁ、二人はエロい事したの?」
唐突に陽介がぶっこむ。
「何聞いてんだお前!」
あまりにも不躾な質問に日向が突っ込んだ。
「え……エッチな事ですか……?」
唐突なそういったお話に、白々さんの顔が赤くなるのがわかる。
「デリカシーを持て馬鹿が!」
武が陽介の頭を叩く。
「いった! だ、だって秘密の関係なんでしょ? 友達でも恋人でもないなら、身体だけの関係なのかなって……」
そういい訳を言う陽介に、僕も慌てて陽介を責める。
「そんなわけないでしょうが! ちょっと考えたらわかるよ普通!?」
こいつ、陽気な馬鹿だとは思ってたけど、思った以上にデリカシーない。
「ご、語弊がありましたね……そういう秘密ではなく、隠し事がありますよと名言しただけです」
白々さんは少し照れながらも、笑って丁寧に誤解を解く。この大人の対応を陽介にも見習ってもらいたい。
「そ、そりゃそうだよな! つか、二人がどういう関係か分かったからすっきりしたぜ。そろそろ俺たちはお暇するか」
陽介の発言が怖くなったのか、日向が慌てて話を切り上げて立ち上がる。
「そうだな。俺達は俺達で遊ぶぞ」
それに合わせる様に武も立ち上がり、席を離れる。
「まぁそうだね~。デートならあんまり邪魔し過ぎてもだしね~」
仕方ない様子で陽介も乗る。
「お前は常識があるのかないのかわかんねぇな……」
日向が陽介に小声でそう突っ込む。
「もう行ってしまうのですか……?」
しかし、白々さんから少し残念そうにそんな言葉が聞こえた。
「色々とお邪魔しました。じゃあな亜樹」
日向は白々さんと僕にそれぞれ挨拶をすると立ち去ろうとする3人。
「あ、あの!」
しかし、白々さんは立ち上がり意を決したように呼び止める。
白々さんの呼び止めに、振り返る3人。
「み、皆さん一緒に遊びませんか!?」
それは旧校舎の帰りに僕をデートに誘った時と似たような言い方だった。
「……え?」
白々さんの言葉に一番に反応したのは僕だった。
「……だ、駄目ですか? 皆さんとても面白い方で、もっと皆さんとお話したいなと思いまして」
白々さんは察してくれているのかいないのか、僕に向けてそうお願いしてくる。
僕は頭の中でどう答えたらいいのか分からなくて、口をパクパクするが、言葉が出てこなかった。
「そりゃ俺達はいいけど……」
その間を埋める様に、武がそう答える。
「うん! 女子と一緒に遊ぶなんて絶対楽しいじゃない!」
陽介は相変わらず歓迎といった様子だった。
「……いいのか?」
日向は僕の方を見て問いかけてきた。
「……あ、いや……僕は別に……白々さんに着いてきてるだけだから全然大丈夫!」
出来るだけショックを受けたことを隠して、僕は笑顔でそう答えた。
「ホントですか!? ありがとうございます!」
嬉しそうにする白々さんに、僕は何も言えなかった。
その後、僕たちは楽しく遊んだ。カラオケにいき、ショッピングセンターに言って変わった雑貨で変なものを見たり。僕は出来るだけ楽しそうに振る舞っていた。
しかし。僕はずっとモヤモヤした気持ちが抜けなかった。
その原因はわからなくて。皆と遊ぶのは楽しいし、白々さんと一緒にいるのも楽しい。それが一つになれば、もっと楽しいはずじゃないのか。
白々さんが僕を介さずに皆と話してるとムッとなる。
そういった感情を自分の中で感じる度に疑問が生じる。
僕は嫉妬しているのだろうか。白々さんが他の人と遊ぶ姿を見たくない。強くそう思ってる自分がいる。
『男の人と一緒に遊んでみたいんです!』
あれは言葉のままの意味だった。男子の友達が欲しい。それは僕でなくても良くて、ただ遊びたかっただけ。
その言葉の意味を、僕は都合よく受け取っていたことに、恥ずかしさを覚えると同時に自分に呆れていた。
もしかしたら、僕のことが好きなんじゃないか。そんな勘違いをしていた自分がものすごく嫌だった。
気が付けば卑屈な自分がでてきていた。
ああ、嫌だ。こうなると嫌な気持ちが永遠繰り返す。楽しいはずの時間なのに何故か虚無で、落ち込む出来事を思い出しては、楽しい時間を楽しめない自分にまた卑屈になる。
そんな気持ちを隠したまま、皆と遊ぶ時間が過ぎていく……。
色々遊び周り日が傾く。僕達はゲーセンで格闘ゲームをしていた。
陽介と僕は向かい合わせの筐体の前に座り、日向と白々さんは、少し離れた休憩スペースで飲み物を飲んでいた。
「あ~! やっぱ亜樹つえ~よ! 絶対勝てねぇもん!」
陽介との対戦に僕が勝つと、陽介は悔しそうにそういう。
「陽介は動きがパターン化してるから読みやすいんだよ。もっと色々な手を考えないと」
僕は普通を装いそうアドバイスをして普通に会話をして見せる。
「俺はコンボ決めれば気持ちいいんだよ!」
アドバイスを全く聞かない陽介に呆れながらチラリと、休憩している白々さんの様子を見る。日向と何かを話して楽しそうに笑っている。
……日向の話そんなに面白いんだ。心にそんな言葉が出てくる。そう思った瞬間、また自分に自己嫌悪する。むしろ僕以外の人と話してて笑うとか普通だし。むしろ僕と話してて笑ってくれることの方が奇跡みたいなものだ。
「っしゃあ! もう一戦だ!」
そんな僕のことを察することも無く、陽介は負けじと対戦を挑んでくる。
「もうやめればいいのに……」
僕は内情を混ぜた様に溜息交じりに言うと、ゲーム画面に向かう。
こんなことで怒っている自分に苛立ち、僕はイライラをぶつける様にゲームをプレイする。そして、陽介をまた圧倒して勝つ。
そんな自分がまた惨めで、本当に嫌になりかけていた。
「亜樹!」
すると、突如日向大きな声が真後ろから聞こえ、僕は思わず驚く。
「うわ! な、なに!?」
「いつまでやってんだ! 俺と変われ!」
うずうずした様子で日向は僕を立たせようとしてくる。
「い、いやだって陽介が挑んでくるから……」
僕は戸惑いながらそういうと、
「うるせぇ! お前は彼女と話でもしてろ!」
日向は楽しそうに僕の腕を引っ張り立たせると席を占領する。
僕は驚いた余韻もあり、あっけに取られて日向の様子を眺めていた。
そして、少し気まずさを勝手に感じながら、僕は白々さんの方を見る。
すると目が合い、白々さんは笑って小さく手を振ってくれた。
僕はそんないつもの白々さんの反応に嬉しくなり、鬱々としていた自分がまた情けなくなってくる。
僕は頑張って気持ちを切り替え白々さんの元に行った。
「亜樹くん凄いゲーム上手なんですね」
と、気が付けば白々さんは僕の事を名前で呼ぶようになっていた。
「まぁ、皆とずっとやってたらいつの間にか。運動は苦手ですけど、指先は結構器用なんです」
白々さんの横に座りながら答える。
「羨ましいです。私、得意な事ほとんどなくて」
「そうなんですか?」
「はい。身体を動かすのは得意ではなくて」
「……そうなんですね」
僕はどこか元気がなくて、白々さんになんて応えたらいいのか分からなかった。
「……でも、今日はとても楽しかったです。ありがとうございます亜樹くん」
元気の無さを察してなのか、話を振ってくれる。でも、そのことには触れてほしくない。
「……それは良かったです」
僕は、自分の心を最大限押し殺し、笑ってそう返すことしかできなかった。
「……もしかして、怒ってますか?」
しかし、まるで見透かされたように問われてしまった。
「へ? ……べ、別に怒ってない……ですけど」
僕はドキッとしてつい視線を逸らして言葉尻を濁らせ、隠すように飲み物を飲む。
「デート……続けたかったですか?」
僕を覗き込むように少し前かがみになりながら白々さんは言う。
「ぶっ! げほっ! ごほっ!」
心を見透かされた言葉に、僕は思わず吹き出し咽る。
「大丈夫ですか?」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です……すいません」
「ふふ……どうやら図星みたいですね」
そんなにも分かりやすかったのか、白々さんは潮らしく笑っていた。
「な、なんのことですか……別に図星じゃ……」
「すみません。東條さんのお友達と是非遊んでみたいと思ってしまったのでつい」
僕の言い訳など聞く様子もなく、白々さんは謝罪してきた。
「それはどう言う意味ですか? みんなでわいわい遊ぶのが好きって事ですか?」
「ん〜それももちろんあるのですが……」
頬に指をあてて考える。
「東條さんが、どんな方とお友達なのか気になったからです」
と、何の裏もない素直な表情でそんなことをいうもんだから、
「そうなんだ」
と僕は嬉しいのか呆れたのか、小さくそう返した。
「はい。なので……」
溜めるようにいうと、白々さんは急に顔を僕の耳元に近づけると
「デートはまた今度続きをしましょうね」
囁くよう言った。
僕は顔を真っ赤にして白久さんと反対方向に仰反った。
「ふふ……東條さんってとっても可愛いですね」
彼女は笑ってそう言った。
「も、もう! 絶対それからかってるでしょ!」
キッパリと僕は顔を真っ赤にしたまま可愛いと言われた事を否定した。
気が付けば彼女に対する醜い嫉妬はなくなり、落ち込んでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
この人にはずっと翻弄されそうだ……。そんなことを思いながらも、それが悪くない気がしていた。
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