第5話 青野 大地は困惑する
大空 翔さん。
女性にこういうのは失礼だろうけど、とっても男らしくてカッコイイ人だ。
朝、一緒に走っていてとても気持ちのいいヒトだった。
本当は制服のスカートで走るのははしたないんだけど、それを気にせず清々しく走る彼女は見ていて気持ちよかった。
このまま何処かに走って行きたくなったけれども、ゴール、学校の校門に着いてしまった。
星崎先生はとても心配なさってくれました。
そうです、私は痴漢にあったんでした。
学校の方には警察から連絡が行っていて、星崎先生が出迎えてくれたのです。
星崎先生は陸上部の顧問でもあり、小学生の頃に走れなくなった私を在学できるように働いてくれた恩師の一人です。
現在も試合に出れない私を陸上部に在籍させて、トレーニングを見て貰っています。
星崎先生から新入生の証である花を胸に付けてもらい、翔さんと一緒に入学式に参加しました。
入学式の後はクラス分けです。
何と翔さんと同じクラスに成れました。
ひゃっほーう。やったー。大地ちゃん大勝利。
と、はしゃぎたいところでしたが、それより私は翔さんに男であることを伝えなければならないのです。
それもできない内からはしゃぎまわるのは言語道断。
そもそも、私と翔さんて友だちと呼んでいいのでしょうか。
朝、痴漢から助けてもらってその後、一緒に学校までダッシュしただけではないですか。
それが同じクラスになっただけで友達気取り。
甘いわ。
甘すぎますわ青野 大地。
男であることを隠したまま友達に成ろうだなんて甘々ですわ。
いくら心が女の子になていても私にはまだアレが付いているのよ。
ここは正々堂々打ち明けるべきですわよ。
そうだわ。
甘々で思いついたけどこの後翔さんをお茶に誘ってそこでケーキでも食べながら打ち明ければ敷居は下がるはずよ。
善は急げ。
さっそく翔さんを誘いましょう。
という訳でやってきました。
喫茶「マギカ」。
駅前のビル群の中にある一軒の憩いの場。
知る人ぞ知る隠れ家。
私の特別な場所。まだ現役だったころから練習で疲れた心を癒すために通っていたお店。
そこに翔さんをつれてきてしまった。
何とも言えない気恥ずかしさを感じつつ私はなじみの店の扉を開けて店内に入った。
「いらっしゃい。」
カウンターでは子供のころから全然変わっていないこの店のマスターがカップを磨いていた。
私は案内される前にいつもの席へと向かった。
席に着くと向かいに座った翔さんが物珍しそうにキョロキョロしている。
こういうお店は初めてなのだろうか。
そしてすぐにメイド服を着た定員さん、こちらもマスターと同じで子供のころから変わらない。が、おしぼりとお冷を持って来てくれた。
「ご注文はお決まりですか。」
「私は何時ものブレンドで。翔さんは何かお好みは御座いますか。」
「あっ、俺も同じやつで。」
「かしこまりました。」
「あと私は今日の日替わりケーキをお願いします。翔さんはどうしま――――。」
翔さんはメニュー表を見ながら、アレでもないコッレでもないと悩んでいらしゃるご様子。
ふふふ、この店のケーキメニューは豊富ですからね。
「翔さん、お悩みでしたらアップルパイをお勧めしますわ。ここのアップルパイは素朴ですけどお店の雰囲気ともマッチしていてとても奥深い味わいですわよ。」
「そうか、ならばそれにしよう。」
無事注文が決まるとメイドさんはマスターのもとにオーダーを伝えに行ってからしばらくして注文した品が運ばれてくる。
「ここのコーヒーは苦みと酸味が絶妙なのですが、角砂糖を一つ入れるとマイルドになって大変私好みの味わいになるのです。」
「なるほどな、ブラックも美味しいけど物は試しだ。どれどれ――――旨い。一気に変わるな。」
「一度に二杯頼んで両方飲み比べる人もいるとか。」
「それで、おすすめのアップルパイは。」
そう言って翔さんはアップルパイを一切れ口に運ぶ。
私も見てるだけじゃなくて今日の日替わりケーキのブルーベリータルトを口に運ぶ。
「美味いな。シナモンが効いてて落ち着く甘さだ。」
「コーヒーのカフェインには興奮作用がありますがシナモンがイイ感じでバランスを取ってくれるんですよ。」
「なるほどな~。」
「まぁ受け売りですけど。」
と和やかになっているうちに本題に入らねば。
がんばれ。
がんばるのよ青野 大地。
マスターも(きっと)見守ってくれているわ。
「翔さん…………実は……私男なんです。」
「…………………………………………何故に?」
私は話しました。
小学校でのいじめのこと、その時におった心の傷が原因で走れなくなったこと。
その時から自分が女だと思うようになってしまったこと。
洗いざらい話しました。
「大地ちゃんって男の娘だったの!」
そりゃぁ驚きもしますよね。
でもこれが私の真実です。
翔さんがこんな私を受け入れてくれるだろうか。
ガタッ!
翔さんは突然に席から立ち上がった。
あぁ、やっぱり駄目だった。
私は去り行く翔さんを見ていることが出来なくて、目をつぶり強く拳を握って泣くまいと必死に耐えた。
その私の手を優しく取ってくれる手があった。
私がおそるおそる目を開くと、そこには必死な顔をした翔さんの顔がありました。
「翔さん―――――
「大地ちゃん、俺と付き合ってください。」
「――――――――え?」
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