第4話 大空 翔は驚いた

 最初は軽い駆け足のつもりだった。

 しかし、大地ちゃんは余裕でついて来る。少しペースを上げてみても余裕で付いてくる。

 その走り方はキレイだった。細くて華奢に見えた足はしっかりと鍛えられた足でかなり走ることに慣れている感じだった。

「大地ちゃん。何かスポーツやってた。」

「短距離走をやっていました。」

 わお、同じ種目か。

 これはもしかしてライバル関係になるかもしれないな。

 だが、この浮かれた気分は次のセリフで吹き飛んでいった。

「過去形ですけどね。今はリハビリ中です。」

「てぇぇぇ、ちょっと待ったああああああああ。」

 俺は足を止めて大地ちゃんの肩を掴んだ。

「それじゃあ走ったらだめじゃないか。」

 最初キョトンとしていた大地ちゃんだが。

「大丈夫ですよ。心意性のものなのでトレーニング程度なら出来ますわ。」

「本当に大丈夫なの。」

 念を入れて確認しておく。

「本当に大丈夫ですわ。」

「それならいいんだけど。それじゃぁ、もうちょっとペースを上げていく?」

「望むところです。」

 ということでペースを上げて走り始めたのだが、綺麗なフォームをして居る。

 長年走り続けていたモノ特有の洗練されたものと言える。

(にしても、綺麗な子だなぁ。綺麗な黒髪に白い肌。深窓の御令嬢と言った見た目なのにスポーツもできるとわ。女らしさの欠片も無い俺とは雲泥の差だわ。)

 そんなことを考えながら走っていると、星稜学園の校門が見えて来た。

 その校門に1人の男性が立っていた。

 彼は俺達に気が付くと急いでやって来て大地ちゃんの無事を確かめた。


「大丈夫ですよ先生。翔さんが助けてくれましたから。」

「そうか良かった。それで、君が大空 翔さんだね。」

 その男性は大地ちゃんから俺に向き直って挨拶をしてきた。

「ボクは星崎ほしざき 正吾しょうごと言って、この学園の教師でもあり、君の担任になるモノだよ。」

 そう自己紹介された。

「事情は警察から連絡があたから分かっているよ。今入学式の途中だ。今からでも参加しておいで。」

 そう言うと先生は俺と大地ちゃんの胸に新入生を表す花飾りを付けてくれた。


 入学式は俺達が遅刻した以外には滞りなく進んだ。

 入学式が済んだ後はクラス分けが行われて、大地ちゃんと同じクラスに成れた。

 今日の予定は入学式とクラス分けの発表で終わり。この後は帰宅となるのだが――――


「ね……、ねぇ翔さん。この後お茶でもよろしいかしら。翔さんには伝えておきたいことがあるから。」

「うん、いいよ。どこに行こうか。」

「駅前におススメのカフェがあるの。そこでいいかしら。」

「うん。」

 カフェかぁ~。

 ちゃんとした場所に行くのは初めてだな。

 放課後にお友達とカフェとかちょっとドキドキしちゃうな。

「それじゃあさっそく行きましょう。」

「わわ、ちょっと待て、そんなに急がなくても逃げないからさ。」


 案内されたのは駅前の表通りから裏道に入って少ししたところだった。

 周りは近代的なビルが立ち昇るのに、そこだけポツンと時代に取り残されたように空間が切り取られていた。

 その建物はレンガと木で出来た童話に出てきそうな雰囲気を醸し出している。

 カランコロン、とドアについたベルを鳴らしながら建物に入ると香ばしいコーヒーの香りが出迎えてくれた。

 大地ちゃんは常連さんなのか迷わずに奥にある窓際の席へと向かった。

 そしててきぱきと注文を済ませえるとやって来たケーキ類をつまみつつ彼女が語ってくれたのは衝撃の事実だった。


「大地ちゃんって男の娘だったの!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る