第24話 ふ、とおもう

新井は目を細めた。

一口に自己研鑽といっても、一朝一夕にさくらのレベルに到達することが出来ないこととを知っているからこそ、新井は喜んだ。


植草が新井の様子に気付き

「新井さん、何をニヤニヤしてるのですか?」

「いやあー、何だか嬉しくて、、、」

「???」

「いや、なんでもない。。。」


課長代理の新井は後輩の成長を自分の喜びに感じる、指導者になるには欠かすことが出来ない資質を持っていた。


一方の久保田はいつの間にか席を外し、ヤニ部屋にいた。

「東山あー、いい気になるなよ。お前なんか俺の踏み台が丁度いいポジションだ。」


自分の成績を上げること、部下はその為の道具としか見れない自己中の久保田には新井の喜びは到底理解できるものではない。


この手に人間は、理解しているフリは出来ても、不思議なくらい心では理解できないのだ。


考え方が違うというより、全く違う言語を使う為双方共に理解不能、という表現がそれに近いと思われる。


珍しく、新井が

「植草、東山、帰りにどうだ?」


すると、植草やさくらが反応する前に、他の課員達が、

「新井さん、ずるいー、俺達も行きたいです。」

「えー、私も、、、」


結果、ヤニ部屋の主以外全員で課会を行うことになったのだ。

植草が

「新井さん、さすがにちょっと不味くないですか?」と、


新井は

「関係ないよ、文句言われたら俺が受けるよ」

「今日は金曜日だ、楽しもうぜ」


心配性の植草は、、、笑笑


7時過ぎ、本店営業部ニ課の面々は普段の日と何ら変わる様子を見せず、課長の久保田に挨拶をし退室していった。



そして、本社ビルから少し離れた日本橋の、まぐろや、という居酒屋に集合したのだった。



実はさくらは、入社以来飲み会には殆ど出席したことがなかった。自分にはそんな余裕はない、と理由はハッキリしていた。


そんなさくらでも今回の飲み会には行きたかった。もう少し、このチームの中で時間を過ごしたかったのだ。そして、新井の話、表情、仕草、笑顔の側にいたかったのだ。


新井は一足先に退室し、その後さくらは

植草と一緒に歩きで店に到着した。



お客様の接待など飲み会のセッティングは誰がやっても完璧だが、今回は中心の新井が自ら行った。



流石に新井が段取りすると、相当な割高店ではないのにも関わらず、満足のいく雰囲気を醸し出していた。



店員さんの対応も良く

「いらっしゃいませ。新井様とご同席のお客様ですね。こちらでございます。」



案内された先は12人くらいは入りそうな、完全個室の部屋だった。



植草が

「流石、新井さんだなぁ。。。これだと少々大きな声出しても外部には全く聞こえない。しかも、ゆったりだし。」


さくらは

「新井さん、って、スマートです。」


と、植草は何の深読みもせずに

「そうなんだよなぁー。」と溜め息混じりに反応したのだった。


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