第23話 拍子抜け

久保田はさくらの、何の力みも無く、緊張した感じすら無い、寧ろ、楽しみな先へ向かうような笑顔に拍子抜けしていた。


何だコイツ!そんなに自信があるのか?


意地悪だが、恥を晒すことの恐ろしさを少しばかり教える必要があるな。そして、久保田はまた本店営業部に響き渡る大きな声で


「なぁ、東山、プレゼンを行うということは、その場でいきなりされる質問に対しての対応能力も必要だ。特にあのNS商事の担当者としてプレゼンに臨むわけだ。」



新井がその意地悪な意図に勘付き

「それらの質問に対してはオブザーバーで出席する私や久保田課長が答えてもいいのではないですか。」



と、久保田を牽制した。


久保田はまたまた無駄に大きな声で

「チームとして成功させるのは当然だ。

また、それに対し協力するのも当たり前だ。


しかし新井、あのNS商事絡みの案件で、いくら先方の意向だとしても最初から他力を頼りにする輩が担当者で良いと思うか?」


新井がやや眼光を強くした瞬間、さくらが割って入った。


さくらは笑顔で、いつもの数倍大きな声で、


「私、自信あります。金融、経済、有価証券関連についての質問でしたら大丈夫です。」


さくらは腹を括ったのだった。



久保田は内心、生意気な小娘よ、今ここで恥をかかせてやる。そうだ!iDecoについては勉強もしているだろうから、もう一つのNISAを説明させてやる。


「東山、予行演習だ。iDecoの説明会だ、同じく非課税制度であるNISAについて説明してみろ。」


新井は、久保田の性格の悪さに吐き気すら覚えたが、まぁ、ここは東山に任せようと、敢えて擁護しなかった。


久保田は、どうだぁ~?東山、降参かなぁ?とさくらの表情を見てみた、と同時にさくらから質問返しに合ったのだ。


「久保田課長は日本の民間金融資産がどれくらいあるかご存知ですか?」


「当たり前だろ。2,000兆円程度だ。」


「流石がに即答だな。」


本店営業部員の1人が呟いた。本店営業部員の多くが久保田の意図に乗らされ、このやり取りに耳を傾けていたのだ。


しかし、さくらはその遥か上を行っていた。


さくらは、まるでプレゼンを行うように

「そうです。日銀の発表では2023年9月末現在、民間の金融資産は2,115兆円あります。2,115兆円です。


政府は貯蓄から投資へ、をスローガンにiDecoやNISAの非課税制度を創設しました。


3月末時点の日米の民間金融資産に占める有価証券投資の割合は、米国が約50%であるのに対して、日本のそれは僅か15%程度しかありません、、、」


期せずして、さくらの回答に本店営業部全体がどよめいた。


頑張ればいいことある。


新井がやや興奮気味に

「年次は関係ない。東山はよく勉強している。我々も東山に負けないよう日々研鑽に励もう。」


久保田は、イラついた表情を隠すのが精一杯であり、無表情のまま椅子に腰かけたのだった。

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